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2.9-35 国35

 間もなくして。


「……なんか、知らないうちに大事になってるんだけど……」


 外出していたアルティシアや小枝たちが、ゾロゾロと木下家に帰ってきた。ただし、やってきたのは木下家の面々だけではない。なぜか町の有力者たちも一緒にやってきたのだ。しかも、皆の雰囲気は重く、何か重要な出来事があったといった様子。アルティシアによる呼びかけに集まった人々なら、何があったのかを推測することは可能だが、尋問室に籠もっていたグレーテルにもシェリーは分からないことだった。


 ゆえに、グレーテルは、シェリーの元へと近付いてきたノーチェを捕まえて問いかける。


「…………?」


「ねぇ、ノーチェ。何があったの?」


「……グレーテルお姉ちゃんは行かなかった?」


「行かない?まぁ、家に籠もってたからね」


「ん。アルお姉ちゃんが魔族をやっつけることになった」


「それ、"アルちゃんが"、じゃなくて、"ブレスベルゲンの兵士が"、じゃないの?」


「そうかもしれない。でも、似たようなものだから間違いじゃない。戦争になったらアルお姉ちゃんも戦う、って言ってた。もし、戦争が始まったら、ノーチェも行く。アルお姉ちゃんに付いていけるのはコエダお姉ちゃんとノーチェくらいだから」


「私は?」


「グレーテルお姉ちゃんが一緒にいたら、無敵!」


「そう。ノーチェは良い子ね」


「ん」


 グレーテルは、ノーチェの頭を撫でた。自分の事を持ち上げてきたノーチェに感心したらしい。


「それで、なんでみんな揃って、ウチに来たの?」


「……たぶん、ご飯?」


「あ、うん。半分くらいの人はそうかもしれないわね……。でも私が聞きたいのは、ご飯以外の目的で来た人たちの話よ?多分、魔族との戦争に関係する話をするために来たんだと思うんだけど、なんでわざわざこの家にやってきたのか分からないのよ。近くにあるじゃない?もっと大きくて立派なお屋敷がさ?普通はそっちに行くと思うんだけど」


 グレーテルが言っているのは、領主の館のことである。正真正銘の城だ。当然、会議室にしても、食堂にしても、木下家よりずっと大きく立派なはずである。そしてその館の主は、言わずもがなアルティシアなのだから、会議をするのであれば、領主の館に行くべきなのだ。


 しかし、なぜかアルティシアには、領主の館に行くつもりはないらしい。


「そこのところ、何か聞いてる?」


「わかんない。でも、アルお姉ちゃんがみんなを連れてきたんじゃない」


「アルちゃんじゃない?」


「連れてきたのは、コエダお姉ちゃんの方。みんなに話したいことがある、って」


「ふーん。コエダちゃんが……」


 小枝は、基本的に、アルティシアの顔に泥を塗るような行動はしない。ゆえに、何も理由無く、会議を自宅で行うなどという選択をすることはないはずだ。


 つまり。


「(なんか、やるつもりね?)」


 小枝は自宅でしかできない何をするつもり、ということになるだろう。問題はそれが何かだ。だが、ノーチェは情報を持っていないらしい。


 ただ、ノーチェはとても大切な事を忘れていたようである。


「そういえば、グレーテルお姉ちゃんのことを、コエダお姉ちゃんが呼んでた」


「……いま思い出したの?」


「ん」


「そう……」


 と、グレーテルは残念そうに相づちを打つが、彼女にはノーチェを責めることができない。なぜなら——、


「シェリーが血まみれの鋸を持ってるの見たら、忘れた。なんで鋸なんか持ってる??」


——小枝からの頼み事が綺麗さっぱり吹き飛ぶほど、理解しがたいシェリーの姿がそこにあったからだ。


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