2.9-26 国26
小枝はヤバい人物だった……。レゼント王国の3人が、そんな共通認識を抱いていると知ってか知らずか、小枝は3人に挨拶をすると、それ以上、やり取りをせずに、キッチンへと消えた。レゼント王国の者たちに興味は無いらしい。いつもどおりにノーチェと一緒に昼食でも作るのだろう。まぁ、今日はユーリカも一緒だったようだが。
小枝を見送った後、なぜかアルティシアの機嫌が目に見えて悪くなる。小枝がレゼント王国の者たちに対して素っ気なかったから、というわけではないことは言うまでもないだろう。小枝の態度に気に入らないことがあったために腹を立てた、などということもないはずだ。アルティシアの性格を考えると、小枝に文句を言うというのは考えられないことだからだ。それ以外となると——キッチンにユーリカが立っていたことも関係無いだろう。きっと。
「…………」ぷくぅ
頬を膨らませて、眉間に皺を寄せるアルティシアの姿は、年相応の少女のようだった。少なくとも、彼女のことを近くで見ていたエカテリーナは、破顔しかけていたようである。
しかし、レゼント王国の者たちは、どうしてもアルティシアのことを少女としては見られない。一般的には"可愛らしい"と表現出来るアルティシアの表情を見ても、顔を引き攣らせていたほどだ。
そんな3人の反応に気付いたのか、アルティシアの注意がレゼント王国の者たちへと戻ってくる。
「えっと……コエダちゃんには挨拶をしましたし、もう用事は残っていませんよね?」
副音声は、さっさと出ていけ、である。
それを聞いたヴィルヘルムとしては、アルティシアに会いに来た目的が何一つとして終わっていないので、反論しようと考えた。しかし、彼は、すんでのところでその言葉を飲み込む。アルティシアたちに構っていると命が何個あっても足りない、という危機感が彼の口を閉ざしたのだ。
ところが、彼の意に反して、アルティシアの副音声に食い下がる者が現れる。
「い、いや、まだ……まだだ!ここに来た本当の目的が残っている!」
騎士マティアスである。彼は、顔を青ざめさせながらも、必死な様子で声を上げた。
しかし、対するアルティシアの態度は冷たい。
「本当の目的?あぁ、私たちに魔族と戦って欲しいという話ですか?お断りします。コエダちゃんに失礼を働く方々とのお付き合いは願い下げです!」ぴしゃり
彼女の言葉は、マティアスからすると、絶望の塊のような言葉だった。人的な協力だけでなく、杖の貸与もない、ということに他ならないからだ。
それは困る、とマティアスがさらに食い下がろうとすると、彼の肩に手が置かれた。彼の同僚であるコルネリアの手である。
「副団長。一度断られた以上、ここは引くしかありませんわ」
「しかし……」
協力も得られず、杖も持ち帰れないとなったら、遙々ブレスベルゲンまでやってきた意味が何も無いではないか……。マティアスの胸に、無念の感情がじわりと広がる。
とはいえ、今の彼を支えてくれる味方はいない。コルネリアもヴィルヘルムも諦めムードだ。ここで駄々をこねれば、立場が危うくなるだけだった。
「くっ……これまでか……」
マティアスの心が挫けそうになった——そんな時。思いもよらぬ援軍が彼のことを救い上げる。
「何かあったのですか?」
キッチンからサンドイッチを持った小枝が出てきたのだ。大量にあったところを見るに、レゼント王国の者たちにも食べさせるつもりらしい。
「「えっ?」」
マティアスだけでなく、アルティシアの声も重なる。アルティシアとしても予想外の展開だったのだろう。
一方、マティアスにとっては、これ以上無いほどのチャンスだった。
「じ、実は……レゼント王国の王城が、魔族に占領されてしまったのです!どうか、コエダ様の力で、取り返してはいただけないでしょうか?!」
マティアスとしては、そんな言葉を口にするつもりは無かった。チャンスを逃したくない一心で、勢い余って、小枝に頼んでしまったのだ。
それを聞いていたアルティシアは、数秒後がハッキリと予想できていたようである。すなわち、小枝が即答で断る未来だ。
だが、結果は、アルティシアの予想とは大きくかけ離れた方向へと進むことになった。
「ほう?レゼント王国の王城も占領されたのですね」
「はい。そうなんでs……えっ?」
「ん?レゼント王国の王城"も"?」
「あれ?アルちゃんは知っているのではないですか?ハイリゲナート王国の王城と王都が、魔族に占領されたことを」
その途端、アルティシアの思考が停止した。
移動中に執筆できなかったゆえ、投稿が遅くなってしまったのじゃ。




