表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1311/1392

2.9-23 国23

「「「…………魔王?」」」


 執務室と化していたダイニングへと案内されてきたレゼント王国の者たちが、アルティシアを見て、開口一番に口にした言葉だ。彼らの想像していた魔王と、アルティシアの姿が、まったく一致していなかったらしい。


 対するアルティシアは怒ることもなく、やわらかい表情のままで返答した。


「……まぁ、そう呼ばれることもありますが、物語の中に出てくるような極悪非道な魔王とは違いますよ。ようこそ皆様。ブレスベルゲンへ。私はアルティシア=ヘンリクセン。この町を治めている者です」


 アルティシアのその言葉に、レゼント王国の3人組はさらに驚いた様子だった。理由は多すぎて複雑だ。まず、アルティシアが魔王だと呼ばれていること。そんな彼女が町の主——つまり領主であるということ。見た目が幼すぎること。領主の館ではなく、町中の一軒家で執務をしていること、などなど……。


 端的に言えば、どこからどう見ても、アルティシアは魔王どころか、領主にすら見えなかったのである。


「……これ、冗談だよな?」

「……判断が付かないですわね」

「……お二人とも失礼ですよ」


 騎士たち2人を諫めたのは、冒険者ギルドのヴィルヘルムだった。彼はカトリーヌから事前に注意を受けていて、ブレスベルゲンの重要人物についても情報を得ていたらしい。とはいえ、すぐに言葉が出てこなかったところを見るに、彼もアルティシアの幼さを見て領主だとは思えなかったのだろう。


 そんな3人のやり取りを見ていたアルティシアだったが、やはり彼女が怒ることはない。


「ふふっ。私が領主に見えないのですね。よく言われます。それで——」


 そしてアルティシアは、用件を切り出した。


「私に魔族の討伐をしてほしいというお話を聞いたのですが、それは本当でしょうか?」


 そう口にするアルティシアは、内心で戸惑いを感じつつも、来るべき時が来たのかもしれない、などとも考えていた。なにしろ、彼女はブレスベルゲンの領主。戦争や魔物の氾濫などがあれば、率先して戦地に赴かなければならない立場だからだ。


 とはいえ、いまのブレスベルゲンは、殆どハイリゲナート王国から独立した存在である。ゆえに、ハイリゲナート王国からの命令があったとしても従う必要はないのだが、これが外国であるレゼント王国ともなれば、尚更、従う必要はなかった。


 ただし、例外がある。大災害が起こった時だ。国の統治機構が働かない状況において、国からの指示を待っていたのでは、領地は滅びてしまうので、超法規的に行動することが許されていたのである。


 問題は、魔族の襲撃が"大災害"に当たるかどうか。判断は領主に任せられていた。現状だと、情報が少なすぎて、断る領主が大半を締めるのではないだろうか。大したことではないのに派兵するようなことがあれば、国際問題に発展する可能性があるからだ。


「(そういえば、王都の人たちと連絡が付かないんですよね……)」


 などと、アルティシアが頭の片隅で考えていると、ヴィルヘルムが口を開く。


「……まず、事情を説明する前に、改めて私たちのご紹介をさせて下さい。私はレゼント王国の冒険者ギルド本部で、魔物対策課の課長をしておりますヴィルヘルムと申します。そして、このお二人は——」


「私はレゼント王国、国王直属近衛騎士団副団長のマティアス・ミュラーと言う」

「私も同じく、レゼント王国、国王直属近衛騎士団のコルネリア・アルトマイヤーですわ」


「レゼント王国……あぁ、ウェイン様のところの」


「陛下をご存じでしたか」


「いえ、直接、お顔を拝見したわけではありませんが、3週間ほど前に、友人がレゼント王国に訪問しておりまして、その際、ウェイン様にご挨拶をしたと報告を受けております」


 と、アルティシアが口にした途端、騎士2人の様子が一変する。


「……そのご友人の方は、いまどちらに?」

「……ぜひ、ご挨拶をさせていただきたいと思っておりましたの」


 2人から染み出す雰囲気は、明確な殺意。しかし、それは仕方のない事だった。3週間ほど前、小枝とノーチェが、レゼント王国に乗り込んで、王城を滅茶苦茶にしたばかりなのだ。魔族が王城を陥落させたことについても、マティアスたちはもしかすると、小枝とノーチェが原因になったと思っているのかも知れない。


 対するアルティシアは笑顔のままだった。ただし、2人の発言は、彼女の琴線に触れるものだったようだ。


「……私()コエダ様に何かご用ですか?」


 そう口にするアルティシアの姿は椅子の上にいない。いつの間にか、マティアスたちの後ろに回り込んでいたのである。一瞬の出来事だ。


 転移魔法ではない。魔法が発動した際に生じる魔力の揺らぎもない。純然たる筋力で移動したのだ。もはや人間業ではなかった。武人であるマティアスたちは、否が応でも、その事実を本能で認識せざるを得なかったようだ。


 ゆえに、マティアスたちは思い知った。……なぜアルティシアが魔王と呼ばれているのか。そして、自分たちがどんな場所にやってきてしまったのかを。



執筆完了まで1時間半か……。最近、時間が掛かりすぎかもしれぬ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ