2.9-19 国19
ドサッ
女神たちによって宙に浮かべられていた男が、ドサリと床に落とされる。まるで人として扱っていないかのようだ。男が生きているかどうかは不明だが、死体の方がまだ丁寧に扱われることだろう。
そんな男を見たヴィルヘルムたちは、顔を引き攣らせて固まっていた。その表情に浮かんでいるのは、おそらく恐怖の感情。何に対して恐怖しているのかは不明だが、女神たちが転移魔法使い(?)をこの場に連れてくるというのは意外な事だったらしい。
事態を飲み込めていないのは、ノーチェたちも同じだ。
「これ、何?」
ノーチェもまた、男のことをこれ呼ばわりである。まぁ、彼女の場合、深い意味は無く、ただ教育の問題かも知れないが。
そんな彼女の問いかけに、女神たちが答える。
「これは魔法生物です。一般的には魔族と言われています」
「魔法生物は、生き物や大地などから魔力を吸って活動する存在です。代表的な例として、迷宮や精霊などが挙げられます。大抵の魔法生物は、自然発生するケースが殆どですが、彼らのように人に近い姿をしている魔法生物は、ほぼ100%、人為的に作られたものしかありません」
「私たちの趣味は、人に作られた魔法生物を駆逐することなのです。放っておくと、碌な事をしませんので。あぁ、そうそう。コレは、そこの3人をブレスベルゲンまで転移させてきた者ですよ?」
「……一気に喋られると、頭に入ってこない。結論だけ聞く。これ、悪い人?」
「「「人間ではありませんが、まぁ、悪い人です」」」
「じゃぁ……」
そしてノーチェは考えこむ。そんな彼女は、正体が獣だからといって、倫理観が崩壊しているわけではない。倫理観は人とまったく同じだ。金が絡むと、ちょっとおかしくなるだけである。
ゆえに彼女は、魔族が悪い存在だからといって、すぐに殺害したり、亜空間に追放したりすることはない。だからといって、人一倍優しいわけでもない。
彼女の性格は、一言で言うなら"強か"だ。この瞬間も、女神たちが捕まえた魔族を、どう有効活用しようかと考えていたようである。
しかし、他の者たちからすれば、ノーチェが何を考えているのかなど分かるわけもないことだ。
「ま、待ってください。ノーチェちゃん」
そう口を挟んだのはシェリーだ。彼女には、ノーチェが魔族のことを殺害しようとしているように見えていたらしい。
「ん?」
「せっかくですから有効活用すべきだと思います」
「ん」
「目的を尋問すべきだと思います。魔法生物というものがどういう存在なのかは分かりませんが、魔法関連の事でしたら、多分、グレーテルさん辺りに相談すると良いかな、と」
「ん」
自分も同じ事を考えていた、などと口にしないのがノーチェらしいところだ。こういった場合、シェリーに任せれば、最良の結果になると分かっていたので、ノーチェはシェリーの提案をそのまま受け入れた。
結果、魔族の命運は、シェリーの手に委ねられることになる。
「では、この者をシェリーちゃんにお任せしてもよろしいですか?」
「捕まえるのは得意なのですが、尋問するのは苦手なのです」
「煮るなり焼くなり好きにしても構いません。彼らは1匹いたら、まだ100匹はいると思え、などと伝説が残るほどに面倒な存在ですから、尋問中に壊れてしまっても大丈夫です。最悪、新しい獲物を狩ってきますので」
「「「あぁ、腕が鳴りますねー!」」」
「は、はひぃ……(えっ、ちょっ……私が全部やるの?!っていうか、女神様、怖っ……)」
と、シェリーは、口では受け入れつつも、内心では拒絶したかったようである。しかし、前述のように、彼女にはノーチェの考えなど分からず……。結局、内心でも、諦めて受け入れることに決めたようだ。
その後、女神たちの視線は、レゼント王国の3人組へと向けられる。
「さて、コレは貴方たちのお友達ですよね?」
「どういった理由で、コレと一緒に行動されていたのでしょう?」
「まさか、貴方たちが、コレを作ったわけではありませんよね?」
どうやら、魔法生物を人為的に作成するというのは、女神たちの教え的には御法度らしい。実際、リディア教の教典に、重罪として記されていたようである。
対するレゼント王国組は、女神たちの睨みを受けて、ようやく我に返ったようだ。そして、最初に声を上げたのは——、
「ち、違う!そいつは友達でも仲間でもない!……敵だ」
——ヴィルヘルムの付き添いの内、男の方。彼はそう口にすると、その場に跪き、女神に対して頭を垂れた。




