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2.9-18 国18

 何故こんなところに女神がいるのか……。ヴィルヘルムたちは、共通して同じことを思った。それと同時に、この女神たちは本物だろうか、とも疑う。女神に会うなど初めての事だった上、そもそも女神たちが実在すると信じていなかったからだ。


 だが、何度見ても、目を擦っても、さらには頬を引っ張っても、後光は本物。魔法の類いではなかった。


 また、女神たちが纏う雰囲気も、人を騙したり、嘘をついていたりするものではなく、堂々たるもの。自分たちこそが女神である、と体現するかのようだった。


 ゆえに、ヴィルヘルムも、彼の付き添いたちも、女神たちのことを本物だと認め、内心を打ち明けようとする。実のところ、彼らは、ノーチェたちの杖を魔物討伐に使うつもりではなかったのだ。


 ところがである。彼らが本当の事を口にしようとすると、女神たちが何かに気付いた様子で、訓練場の外へと視線を向けるではないか。もはや、彼女たちの興味は、ヴィルヘルムたちに向けられていない。そのせいで、ヴィルヘルムたちも、真実を話す機会を失ってしまう。


 一方、女神たちは、なぜか喜々とした様子だった。


「これは、ちょうど良い試運転ができそうですね」

「あぁ、でも、町や人々に被害を出さないよう注意しなければなりません」

()()より授かった、新しい力があります。問題は無いでしょう」


 女神たちがそう口にした直後、彼女たちの姿がその場から、スッと消える。異相空間に入り込んだらしい。


 結果、ヴィルヘルムたちとノーチェたちは、その場に残されることになる。得も言われぬ微妙な空気だ。


 そんな中で最初に口を開いたのは、ノーチェだった。


「早く言わないから、女神のお姉ちゃんたちがいなくなった。やっぱり、嘘ついてる」


 ようするに、ヴィルヘルムたちは嘘をついていたから、女神の前で"杖を人に向かって使わない"と宣言できなかった、というわけだ。


 まったくその通りだったためか、ヴィルヘルムも、その付添たちも、3人揃って、返す言葉も見つからない様子でガックリと項垂れたのであった。


  ◇


 場所は元の応接室へと戻る。杖の売買契約をするにしても、用途をハッキリさせる必要があったので、一行は人目の気にならない部屋へと移動したのだ。


 そこで最初に口を開いたのはシェリーだった。ノーチェが何を言いたいのかハッキリとしていたので、口下手な彼女に代わって、シェリーが話を進めることにしたのだ。


「当方としましては、使用用途を明確して頂かなければ、杖の売却、ならびに貸与の契約をするわけにはいきません。最悪、杖を使ってブレスベルゲンに敵対行為を行う可能性も否定できませんので」


 杖を売却・貸与する先は外国であるレゼント王国。使用用途を明確にしておくのは、地球であれば、安全保障上、当然のことである。


 しかし、ブレスベルゲンやハイリゲナート王国に、そういったルールが法律として存在しているわけではない。単にノーチェが気にしていただけである。しかし、少し考えれば、あって然るべき確認事項だったためか、シェリーは喋りながら、ノーチェの着眼点について内心で戦慄していたようだ。シェリーは、ノーチェの指摘を受けるまで、単に売れれば良いとしか考えていなかったのだ。安全保障など二の次。それがこの異世界における"常識"だったのだから仕方がない。


 そんな事とは知らずに、シェリーの言葉を聞いていたヴィルヘルムは、彼女の言葉に返答も相づちも打てない様子だった。シェリーと同じく、深く考えていなかったことも理由の一つである。しかし、それは些細な事。なにより、彼は、自分の一存で、シェリーの言葉に返答できなかったのである。彼は飽くまで窓口役。意思を決定する立場に無かったのだ。ゆえに、彼の視線は、付き添いの2人組へと向けられる。


 その2人組も、いよいよ黙っているわけにはいかないと思ったらしい。女神まで出てくる現状で、嘘をつき通すのは不可能だと判断したのだ。


 結果、2人の最初の発言は——、


「「……申し訳ありませんでした!」」


——謝罪となった。2人は、自分たちが嘘をついていたことを認めることにしたのだ。たとえ、プライドを犠牲にしてでも、杖を自国に持ち帰りたかったのだろう。


 対するシェリーの視線には、驚きの色も、戸惑いの色も無い。ただただ冷たい氷のよう。


「申し訳ない、とは?(何をするつもりです?)」


 まさか、ブレスベルゲンの侵略に使うつもりではないだろう……。などと考えながらシェリーが問いかけると、付き添いの2人組が口を開こうとする。


 そう、()()()()()()


   ブゥン……


「捕りました!見て下さい、ノーチェちゃん!」

「私たちから逃げられるとでも思っていたのでしょうか?フフッ、片腹痛い!」

「数百年ぶりの捕り物だったので、腕が鈍っているかと思いましたが、問題はありませんでしたね。さすが、新しい身体」


 2人が喋る直前、女神たちが部屋の中に現れたのだ。


 そんな女神たちは、1人の男を捕まえたようである。こめかみから黒い角を生やした男だ。


 そしてその男は——、


「「「……え゛っ」」」


——ヴィルヘルム一行の関係者。彼らがレゼント王国からブレスベルゲンまで移動するために契約していた転移魔法使いだった。


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