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2.9-15 国15

 シェリーもノーチェも、6歳児である。2人とも身長は120cm程度。カトリーヌの隣に2人が立っていれば、彼女の連れ子のように見えることだろう。


 それでもブレスベルゲンでは、シェリーとノーチェを侮る者はいない。ノーチェはブレスベルゲンの中では有名人。シェリーもまた、ノーチェの友人、あるいは彼女のアシスタントとして知られているからだ。……そう、ブレスベルゲンでは。


「ちょっと待ってくれ、カトリーヌ。本当にその娘さんたちが、杖を作ったって言うのか?」


 レゼント王国の冒険者ギルドから来たという男——ヴィルヘルムが、2人の少女たちを見て、目を疑う。カトリーヌから事前に説明を聞いていても、本人たちを直接目にすると、俄には信じられなかったらしい。


 そんなヴィルヘルムの反応を見て、カトリーヌは眉を顰めた。


「ヴィルヘルム。忠告を忘れたんですか?」


「いや……承知していたつもりだったんだが、思った以上に幼くてな……。天才というやつか……」


「嘘や偽りはありません。この()()()が、例の杖を作ったんです。……ここはブレスベルゲン。手紙でも伝えましたが、ブレスベルゲンでは、レゼント王国の常識が通じないことを肝に命じておいてください」


「そう、だったな……」


 ヴィルヘルムは素直に頷いた。カトリーヌの言葉を軽んじている様子は無い。彼女の手紙には、よほどショッキングな事でも書かれていたのだろう。


 それからというもの、シェリーたちに対するヴィルヘルムの対応が変わる。


「……先ほどの発言、忘れていただきたい」


「お心遣い、ありがとうございます。このような容姿ですから、仕方のない事と存じております」


「それは……いや、そう言ってもらえると、ありがたい」


 と相づちを打つヴィルヘルムの表情は、あまり明るいとは言い難かった。怪訝な色を多分に含んでおり、シェリーの対応に引っかかりを感じていていたようである。


「随分と大人びたお嬢さんだ。実は長寿な種族……だったりしないよな?」


「いえ、私はただの人間です。名をシェリーと申します。見た目通りの年齢ですよ?」


「……その受け答えが、見た目通りじゃないんだよなぁ……」


「ふふっ。受け答えの仕方は、商人である父から学びました。まだ拙い発言があるかとは存じますが、どうかご容赦ください」


「……随分と素晴らしい親御さんのようだ。俺は……カトリーヌから教えてもらって知っているかと思うが、レゼント王国にある冒険者ギルド本部の魔物対策課に所属するヴィルヘルムという。何の変哲も無い一介のギルド職員だが、どうぞよろしく頼む」


 と言って、ヴィルヘルムは手を出した。その手をシェリーが掴む。握手だ。


 その際、カトリーヌはどういうわけか、ヴィルヘルムを睨んでいたようである。彼の発言の中に、何か気にくわない事があったらしい。


 シェリーは、そんなカトリーヌの態度に気付きながらも、彼女のことをスルーして、ヴィルヘルムに意識を向けた。対するヴィルヘルムが、カトリーヌに反応に気付いているかどうかは不明だが、彼はカトリーヌへと視線を向けずに、真っ直ぐシェリーのことを見て……。そして本題に入った。


「では、シェリー嬢。早速、例の杖について、説明をお願いできるだろうか?」


「はい。杖はこちらになります」カタッ


 シェリーは、机の上に置いてあった木箱を開けた。杖のために用意しておいた化粧箱だ。商品をより高級にみせるため、というわけではないが、杖に使っている巨大なルビーや杖の飾り付けなどを鑑みて、シェリーが念のため用意した箱である。


 しかし、箱があると、やはり高級感が出るようで——、


「ほう……これはまた高そうな……」


——と、ヴィルヘルムが感嘆の言葉を口にする。


「(この人、商人じゃなさそうかな?それか、こちらの油断を誘ってるか……)」


 商談をするとき、商人たちは、ポーカーフェイスを駆使するものである。しかし、少なくともヴィルヘルムについては、そのポーカーフェイスというべきものが見受けられなかった。それゆえに、シェリーはヴィルヘルムのことを商人だとは思えなかったようである。


 ヴィルヘルムは、冒険者ギルドの中でどんな立ち位置にいる人物なのだろうか……。そんなことを考えながら、シェリーは杖の説明を始めた。


「この"鉱石"に対して、灯火の光魔法を使うだけで、杖の先端から強力な魔法が発射されます。難しい魔力のコントロールなどは一切ありません。なので、光魔法が使える方でしたら、どなたでも使えるはずです」


「魔法の杖なのに、魔力のコントロールが一切必要ない杖というのは、聞いたことがないな。もし本当に説明の通りだとすれば、画期的な発明かもしれん。試しても良いだろうか?」


「こちらとしても、小難しい説明をするよりも、実際に体験していただいたほうがありがたいです。……カトリーヌさん?事務局の施設を使ってもよろしいですよね?」


「もちろんです。そのために、打ち合わせの場所を、当事務局の建屋にしたんですから」


「では、ヴィルヘルム様。付いてきて下さい」


 シェリーはそう言うと、杖を箱にしまい込み、箱を持って立ち上がった。そんなシェリーに追従して、ノーチェ、カトリーヌ、そしてヴィルヘルムが立ち上がる。


 4人の行き先は、冒険者たちが鍛錬などに使う訓練場。そこで、杖の試し撃ちをする、というわけだ。


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