2.9-04 国4
次の日の朝食。
「……酷い焦らしにゃ」
昨晩に続いて、フューリオンたち王家一行はやって来なかった。二回連続で来ないというのは、初めての事だ。そもそも、連絡無しに来ないこと自体が初めてのことだが。
そのせいで、朝からサヨの気分は最悪だ。食事後の食卓に、だらしなく上半身を投げ出す。
「王様、サヨたちが悪いことをしたって分かって、来なくなったんじゃないかにゃ……」
作物による食中毒被害がすでに王都に広がっていて、その影響を直接受けたか、対応に苦慮しているせいで、フューリオンはブレスベルゲンにやって来られなくなっているのではないか……。サヨはそんな予想を立てたわけだが、アルティシアが否定する。
「魔力で育てた作物を試しに食べてみましたが、特に問題無かったので、多分、王都でも大きな問題にはなっていないはずですよ?」
「えっ……食べた?!」
「はい。実は、今朝の食事に食材として使ったのです。全員が美味しそうに食べていましたね」
「ちょっ?!にゃ、にゃんてことを……」
朝食会に参加した人々全員を、顔色一つ変えずにある種の実験台にしたアルティシアを前に、サヨは戦慄した。なお、症状が出ると分かっているテンソルについては、別材料を使って食事を作ったので、彼女に影響は出ていない。
ただ、アルティシアのおかげで、サヨの懸念は大きく晴れることになった。人には無害ということは、作物の食中毒を発端にして、戦争が始まることはない、ということなのだから。
「……じゃ、じゃぁ、王様に報告する必要はないのかにゃ?」
「一応、報告はしておいた方が良いと考えています。もしかすると、テンソル様のように人に化けて市井に紛れている方々もいらっしゃるかも知れません。そのような方々が間違えて食事を食べると、大きな事件になってしまいますから」
「そうかもしれないにゃ。でも、よかったにゃ。これでサヨたちの懸念は晴れたにゃ!」ニッ
「えぇ、そうですね」ニコッ
サヨとアルティシアの2人が揃って笑みを浮かべた。嘘偽りのない本心からの笑みだ。……アルティシアだけ目が笑っていないように見えたのは、光の加減のせいだろう。
まぁ、それはさておき。
「でも、フューリオン様がやって来ないというのは、気になりますね。これまでに無かった事です」
「うにゃ。一度、掴まれた胃袋は、そう簡単に取り返せないはずにゃ。ということは、王都で何か問題があったのかも知れないにゃ。……ちなみに、王様は人間かにゃ?」
「えぇ、間違いなく人間です。ドラゴンだという話は聞いていません」
「うにゃ。じゃぁ、家族も人間かにゃ?」
「もちろん、そのはずです。第一王女のヴァレンティーナ様だけ怪しい部分がありますが……まぁ、人間でしょう」
「……側近も人間かにゃ?」
「そこはちょっと分かりませんね」
「じゃぁ、側近が人間じゃなかったんだにゃ」
「…………」
「…………」
「ふふふっ。もう、何を言っているんですか、サヨ様。そんなこと、あるわけないじゃないですか」
「にゃはは。アルにゃんの言う通りにゃ。そんなこと、あるわけないにゃ」
木下家の中に、少女たちの笑い声が広がる。誰が聞いても、和やかな笑い声だ。その証拠に、家の外を歩いていて2人の笑い声を聞いた市民たちも、釣られるように肩を揺らしていたようだ。……また何か企んでいると、恐怖に襲われ震えていたわけではない、はずだ。
魔王「くっ……カーチャになら影響が出ると思ったのですが……」
代官「……?」




