2.9-02 国2
会議室にいた他の者たちは、フューリオンと騎士団長(?)の衝突を見て、呆然としていた。急な出来事だった上に、目を疑いたくなるような激しい衝突だ。ファンタジーの世界でありながら、なおさらにファンタジーな光景。激しくもありながら、美しくもあるその光景に、皆が目を奪われたのだ。
ただ、その時間も長くは続かない。自分たちの王が戦っているのだ。騎士たちを始めとして、その場にいた皆がフューリオンの助けに入ろうとする。
しかしだ。
「「「陛下!」」」
「近寄ってはならんっ!」
フューリオンからそんな怒声が飛んだその直後。
ブゥン……
その場にいた者たちを浮遊感が襲う。転移魔法だ。
次の瞬間、彼らの前に広がっていたのは、王城の入り口付近。その突然の出来事に、皆が思った。
「へ、陛下が俺たちのことを救ってくださった……?」
「へ、陛下ぁぁぁっ!!」
「なんてことを……。あなたさえいれば、国はまた蘇ることができるというのに……!」
フューリオンは自らを犠牲にして、騎士たちや重鎮たちを守った……。それが、彼に救われた者たちの共通見解だった。
◇
「(うぉっ?!思ったよりも転移魔法の影響範囲が大きくなっておる!)」
その頃、フューリオンは、自分自身の魔法に驚いていた。戦闘には向いていない政府重鎮たちを避難させようとして転移魔法を使ったはいいが、力加減を間違えて、部屋の中にいたほぼ全員を転移させてしまったのだ。気絶して机に突っ伏していた魔族たちも例外ではない。
結果、その場に残ったのは、騎士団長になりすましていた魔族だけ。では、皆を救えたことにフューリオンは安堵していたか、というと、そういうわけでもなかった。
「(拙い……。騎士たちは残しておくべきだった……)」
フューリオンとて、この場所に自らの墓標を立てるつもりはないのである。しかし、今の彼には仲間はおらず……。彼一人の力で、魔族をどうにかするしかなかった。
とはいえ、フューリオンには、魔族に勝てる自信などなかった。おとぎ話で語り継がれている魔族は、恐ろしい存在。力で神々を退けたという伝承があるほどだ。人間が1人で戦ってどうにかなる相手ではないのは明らかだった。
「(皆が逃げる時間は稼いだ。余も逃げるか……)」
フューリオンは逃走を決意した。最早、プライドなど無い。
一方の魔族は、フューリオンに向かって真ん丸にした目を向けていたようである。種族の違いがあるので、その目線だけで彼の考えを推測する事はできない。
実際、魔族の発言は、フューリオンにとって理解出来ないものだった。
「お前……本当に人間か?」
「先ほどから、何を当たり前のことを言っておる?余は紛うことなき人間だ!」
魔族の言葉の裏に、どんな意味が隠されているのだろうか……。体内で転移魔法のための魔力を練り上げながら、フューリオンは警戒した。
ちなみに、彼の魔法は、魔法の師から学んだものでもなければ、彼が元来使っていたものでもない。ブレスベルゲンで、アルティシアたちが、遊び半分で使っていた魔法の展開方法を真似たものである。使い勝手が良かったので、今では普通に使っていたのだ。
ところが、どうやら、魔族には、その魔法の方法が恐ろしくて仕方なかったらしい。
「(あいつは何を考えている?あれほどの魔力を腹の中で練り上げるなど……まさか……自爆か?!)」
フューリオンを中心に渦巻く魔力は、人間が扱える魔力量を大きく越えていた。ただの人間が扱えば、木っ端微塵に吹き飛ぶほどの魔力量だ。それゆえに、魔族には、フューリオンが命を燃やして魔力を作り出し、自爆しようとしているように見えていたらしい。
「くっ!させるか!」
「っ!(気取られたか?!……しかし!)」
魔族の手から、無属性魔法が放たれる。生成速度が全魔法の中で最も早い魔法だ。
一方、フューリオンの方も、転移魔法の準備ができていた。彼は腹の中で練り上げていた魔力を、一気に転移魔法へと昇華させた。
ドゴォォォォンッ!!
「「「陛下ぁぁぁっ!!」」」




