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6日目-14

ガチャッ……ギギギギギ……


「うわ、臭っ!想像以上に臭っ!」


 下水処理施設の扉を開けた途端、グレーテルは涙目にながら声を上げた。どうやら泣きたくなるくらいに建屋の中が臭かったらしい。


「これ、外で暴動が起こるのも頷けるわ……」


「確かに臭いですね……。これ、本当に、スライムが浄化をしているのでしょうか?」


 施設の中があまりに臭かったためか、小枝は本当に施設が汚水処理をしているのか、心配になってきたようである。


 というのも、スライムによって処理をしているというのに、激しく臭うということは、つまりちゃんと処理が出来ていないということと同義だからだ。その状態の汚水を川に流せば、川は汚染され、そこに生きる魚たちもまた汚染され——、


「……これもしかして、GTMN料理以外も危険なのでは……」


——ということになるのである。なお、魚の何がどう危険になるのかは言うまでも無いだろう。


「ねぇ、コエダちゃん?そのGTMN料理って……何?」


「いえ、気にしないで下さい。私が勝手にそう言っているだけですから」


 小枝はグレーテルの問いかけに首を振った後で、気を取り直して、水槽の中を確認する事にしたようだ。まだ状況を確認していないので、結論を出すというのは早すぎると考えたらしい。


 そして彼女たちは、建屋の中にあった巨大な水槽の上。そこに備え付けられていた足場の上までやって来る。


 水槽は直径20m、高さ10mほどの巨大なもので、その内部ではスライムたちが蠢いて——、


「……2匹?スライムの食性というのは、たった2匹で町の汚水を処理出来るほどに凄いのでしょうか?」

「いや、どう考えても少なすぎでしょ……」

「……興味深い」


——いなかった。水槽の中には、たったの2匹しかスライムはおらず……。流れてくる汚水をまったく処理できないまま、施設の外に放出しているかのように見えていた。


 実は、小枝が受けたこの依頼。施設の臭さと、スライムの生け捕りの難しさを嫌って、冒険者たちが誰も受けようとしない依頼だったのである。いわゆる3K。臭い、汚い、危険の3拍子が揃った嫌われ仕事だったのだ。


 しかし、水槽の中のスライムは、分裂して増えるとは言っても、流れ出る量の方が多いために少しずつ減っていくので、定期的に誰かが補充しなければならなかったのである。もしも補充せずに放置していたらどうなるのか……。その結果が、現状だった。


「この感じ……汚水処理施設が機能していない感じですね……」


「多分、管理してる人たちも、この中にはあまり入ってこないんじゃないかしら?知ってたならここまで放置することは無いでしょ。……あー、臭いで頭が痛くなってきた……」


「……暴動が起こって当然」


「ですねー」


 グレーテルとキラの発言に首肯した後。いつまでもここにいるのもどうかと思ったか、小枝は持っていた籠の蓋を開けて、その中身を外に出そうとする素振(そぶ)りをみせた。


 その瞬間、まるで籠の中にスライムがいるかのように、異相空間からボトボトと不定形の生き物が水槽に向かって落ちていく。その様子を見ていたグレーテルは、時間の経過と共に、眉間にできた皺を深めていった。


「……いったい、どんだけ捕ってきたの?」


「えっ?町の外にいるスライムを片っ端から全部ですかね?」


「……ごめん、ちょっと主観的すぎて分からないわ。具体的にどのくらいの量?」


「えっとですね……私の方は今水槽に入れた分の5倍くらい——」


「ちょっ……捕り過ぎよっ?!」


「沢山いたのですよ。でもまだ、姉様の分もありますよ?」


「……これの8倍」


「もう、まだ冒険者にもなっていないのに、気合いを入れすぎですよ?姉様」


「気合いとかそういうレベルの話じゃないわよ……」


 そしてグレーテルは悟った。……やはり、小枝たちのことを人間として見てはいけない、と……。まぁ、この2日間ほど小枝たちと行動を共にしてきたので、大分感覚が麻痺——いや慣れてきてはいたようだが。


 それから間もなくして、水槽の中がスライムで一杯になる。


「一杯になっちゃいましたね……。押せば入りますかね?」


「押すって……どうやっt——」


ゴゴゴゴッ!(超重力)


「あー、配管の方にも入っていきましたね。これなら行けそうです」


「もう、意味分かんない……」げっそり


 そして再開する小枝たちのスライム補充。水槽の中が一杯になったら、上から重力を掛けて押し込み……。そしてまたスライムを充填して、再び押し込む……。そんなルーチンワークを続けていき、小枝もキラも、手持ちのスライムをすべて片付けることに成功したようだ。


「……実験に使うスライムは1匹だけで十分」


「……姉様?生き物を粗末に扱っちゃいけない、って言っていたの姉様ですよね?」


「……しかたない」ぽいっ


「あなたたち……ホント、どんだけスライムを捕ってきたのよ……」


 合計何トンになるかも分からない量のスライムが、水槽とその先の配管に流れ込んでいく様子を眺めつつ……。グレーテルは呆れたように溜息を吐いた。


 こうして早朝の依頼を終えた彼女たちは、その後、依頼完了の報告をするために冒険者ギルドへと向かうことにしたようである。なお、この時の彼女たちの行動が、後に大問題を生じさせることになるとは、この時、グレーテル以外は予想出来ていなかったようだ。……尤も、彼女自身も、なんとなく危険な気がする、という程度にしか考えていなかったようだが。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 129/129 ・あ"ー、現実世界でも誰もやりたがらないのありますよね。パッと思いつくのは『介護』 [気になる点] スライムの 生態系が 乱れる! [一言] 駄文げっそりが身にしみます。…
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