2.8-45 科学?43
「んにゃ……?」
サヨには目の前の光景が受け入れられなかった。ドラゴンたちは、米の食べ過ぎで眠っていると思っていたので、テンソルが気を失っても、それが問題だとすぐに気づけなかったのだ。
とはいえ、普通に眠るにはピクピクと痙攣しているなど、おかしな点が少なくなったためか、1分ほど経ってから、テンソルを始めとしたドラゴンたちに、何か問題が起こっているのではないかと気付くことになる。
「こ、これって、もしかしなくても不味いやつかにゃ?えっと……どうするかにゃぁ……」
誰かに助けを求める……。そんな選択肢がサヨの中で浮かび上がってくるが、彼女はすぐにその選択肢を選べなかった。
「(これ……やったの、サヨにゃ?ということは、サヨは犯罪者かにゃ?)」
不可抗力とは言え、ドラゴンたちに食あたりのような症状を引き起こした原因はサヨなのである。つまり、ドラゴンたちに何か大事あった時は、サヨが投獄される可能性がある、ということ。そう考えると、誰かを呼ぶという選択肢をすぐに選ぶことができなかったのだ。
とはいえ、ほぼ無力なサヨに何か出来るわけでもなく、逃げたとして逃げ切れるわけでもなかったので——、
「だ、誰かっ!助けてほしいにゃっ!!」
——サヨは空に向かって大声を上げた。猫娘の上げる声だ。大した音量にはならない。
しかし、ここはブレスベルゲン。様々な種類の人物が住んでいる町なのである。
「誰かが助けを呼んでいる!」
「助けを呼んだのは……あれ?サヨちゃんじゃん」
救急車も真っ青になるほどの速度で、カイネとアンジェラの医学生(?)2人組が走ってきた。今日も王女たちと競争しながら、辻医者(?)のようなことでもしていたのだろう。
そんな2人に対して、サヨが事情を説明する。
「テンソルやドラゴンさんたちが、気を失っちゃったにゃ!」
「んーと、もう少し経緯を詳しく」
「何をしたら、気を失ったの?」
「お米を食べただけにゃ」
「お米……?もしかして、喉に詰まらせた?」
「んー、パッと見、チアノーゼが出てないから、多分違うと思う」
「「ということは、毒かなぁ……」」
「んにゃっ?!」
サヨは愕然とした。ドラゴンたちとサヨとで頑張って作った米が、毒呼ばわりされたのだ。ショックも受けるというものだろう。
ゆえにサヨは、反論した。
「ど、毒じゃにゃいにゃ!現に、サヨは同じお米を食べたけど、問題いないにゃ!」
「サヨちゃんには効かない毒、か……。ドラゴン族って、以外と弱っちいのかも知れないね?」
「ドラゴンさんたちって、人とは身体のつくりが違うんだから、人の食べ物を食べて異常を来すっていうのはあると思うよ?」
「んと……サヨは人じゃなくて、猫にゃ?」ボフン『こんな感じで』
「……猫かぁ。ウチの住人、人間じゃない人が多くて、困っちゃうよね。猫とか、狐とか、狼とか、ドラゴンとか、たぶん人じゃない人とか……」
「うん。覚えることが多すぎだよね。まぁ、やりがいだけはあるんだけど……」
『やっぱり……ダメかにゃぁ?助からにゃいかなぁ?サヨは牢屋送りかにゃぁ?!』
「なんで牢屋送り?別に悪い事をしてないなら牢屋送りになんてならないよ?」
「そもそも、テンソル様方が助からないとは言ってないし」
呑気に話しているように見えている間にも、カイネとアンジェラによるテンソルの容態確認は続いていた。その中で、原因が分かってきたらしい。
「これ、魔力中毒だよ。口から出てる泡に、高濃度の魔素が含まれてるし……。米に含まれた魔力が多すぎたんだろうね」
「米に問題があるのか、調理方法に問題があるのか……。ひとまず持ち帰って調査かな?」
「……多分、品種改良が原因だと思うにゃ……」
「品種改良なんてやってたの?」
「ずいぶん面白いことしてるね?」
『んにゃ。テンソルに手伝って貰って、まほーじんを使って一気育てて、50世代分くらいの品種改良をしたにゃ』
その途端、カイネもアンジェラも揃って目を細めた。
「「……原因それじゃないかな?」」
『……えっ?』
2人はいったい何を言っているのか……。サヨ猫には理由が分からず、彼女は猫の姿のまま、目を点にして固まってしまったようだ。
王女2「……おやぁ〜?誰かがぁ〜、助けを〜、求めているようですねぇ〜」
王女3「(お姉様、いつもそんな調子なので、急いで駆けつけられないんですよ……)」




