2.8-44 科学?42
そして3時間後。実に50世代の品種改良を経て——、
「……これなら、普通のお米として、食べられると思うにゃ」
——ようやくサヨのOKが出た。まぁ、正確に言うと——、
「(……段々味が分からなくなってきたから、もう、これでいいにゃ……)」
——あまりに多くの米を食べ過ぎて、味が麻痺してきた結果、これ以上の改良を諦めただけだったりする。
ちなみに、品種改良に協力したドラゴンたちは、というと——、
「「「 」」」ちーん
——と、死屍累々な様子だ。一応、息はしているようだが、虫の息と言っても過言ではない状態である。
まぁ、それは置いておいて。
「遂にできたか!」
テンソルは目を輝かせて、サヨに問いかけた。そんな彼女は、今のところ、第3世代で試食した後、米は食べていないので、胃袋に余裕があった。それゆえに、サヨが選び抜いた米に興味があったのだろう。満腹状態であれば、きっと口すらきかなかったに違いない。
「たしか、びふぉわーあふたー、とか言ったか?品種改良を行う前と、行った後で、どう味が変わったのを知りたいのだ」
「うにゃ。食べてみるといいにゃ。最初のお米はもう無いから、また炊かなきゃならないけどにゃ」
というやり取りの後、準備込みで30秒も掛からずに米が炊ける。最早、レンジで3分などというレベルの速さではない。炊飯器メーカー垂涎の超技術である。
米を炊く速さが常軌を逸していたためか、サヨはつい苦言を口にしてしまう。日本人らしい気質だ。
「本当は、もっとゆっくり、じっくりとお米を炊くと、より美味しくなるにゃ」
「そうなのか?最初に教えて貰った方法ではダメなのか?」
「ダメではないにゃ?もっと美味しくなる方法があるっていうだけの話にゃ」
「ふむ……奥が深いのう。後ほど、米がよりおいしくなる炊き方を教えて欲しいのだ」
「んにゃ」
「さて……」
今この瞬間、テンソルの目には、2つの茶碗がある。ブレスベルゲンで流通している米と、サヨが品種改良を施した米を炊いて、装った茶碗だ。
見た目は、サヨの作った米の方が、小さく、艶やか。香りなど、他の特徴は同じだ。
「さて……繊細な味が分からぬ我にも、味の違いは分かるかのう……」ことり
テンソルはそう言いながら、机の上にもう一つ皿を置いた。
それを見たサヨが、呆れてガックリと項垂れる。
「肉、諦めてなかったのにゃ……」
「ふっ……我としたことが。つい手を滑らせてしまったのだ」
「手を滑らせると肉が焼ける特技にゃ?一体何の肉を焼いているのかにゃぁ……。まぁ、いいけどにゃ」
サヨは、かなりグロテスクな光景を想像したようだが、それを口に出すことはなかった。そう、彼女は、できる猫。空気が読める猫なのだ。
というわけで。
「では、いただくとしよう」
テンソルは米を口にした。
ここで少し話は変わるが、ここは異世界である。地球出身のサヨの予想を大きく超えた出来事が、平気で起こる世界だ。
そして、サヨは魔法が使えない。彼女の細胞には、魔力を蓄えたり、通したり、練ったりする機能が備わっていないからである。ゆえに、異世界の食べものを食べても、魔力的な影響が彼女の身体に何かしらの変化を齎すことはない。
しかし、テンソルは違った。ドラゴンたちも同じである。
サヨが選定した米を食べると——、
「……うっ?!」がくっ
——なぜか、意識を失ってしまうのである。その効果が判明したのは、テンソルが米を完食した後。米を食べた彼女は、机に突っ伏して、動かなくなってしまった。
ドラゴン1「我らの腹にも、転移魔法陣を作って貰えば良かったのでは?」
ドラゴン2「そうだな。食あたりにもならなかったかもしれん」
ドラゴン3「腸ごと、どこかに転移させられる可能性も否定はできないけどな?」
ドラゴンs「…………」




