2.8-42 科学?40
「にゃー」
サヨの脳裏に、大宇宙が広がる。彼女理解が、目の前の光景を受け入れられなかったのだ。
というのも、精米に関わる作業を、テンソルが魔法陣一つですべて自動化してしまったからだ。サヨが、乾燥、脱穀、精米の工程を説明すると、テンソルが魔法陣を組み上げたのだ。
「魔力さえ込めれば、あとは全自動なのだ」
「んにゃー」
「……おい、サヨ?大丈夫か?」
「にゃんにゃー」
「ダメか……」
ほっかほかに湯気を上げるご飯の前で、テンソルは深く溜息を吐いた。そう、彼女の魔法陣は、精米の工程だけでなく、炊飯まで自動でこなしてしまったのである。サヨがおかしくなるのも無理は無いと言えるだろう。
仕方がないので、テンソルはサヨ抜きで、品種改良を進めることにしたようだ。
「さて、者共。試食の時間なのだ。どの米が一番美味いか、我に教えよ」
「「「御意に!」」」
テンソルの指示に従い、たくさんのドラゴンたちが、炊けた米に舌鼓を打つ。
◇
10分後。試食会(?)の場は、混迷に包まれていた。
その理由は本末転倒というべきもので、ドラゴンたちの舌では、米の何が美味しいのか、美味しくないのか、分別が付けられなかったのである。うるち米と餅米の差は理解出ず、味や歯触りなども当然分からず……。米とは、白くてモチモチとして甘い食べのだ、という程度の認識しかなかったのだ。
「……困ったのだ」
テンソルにとっても頭の痛い問題だった。彼女のまた、米の味の違いが分からなかったのである。その上、感覚的な違いは、魔法陣で区別することもできず、まさにお手上げ状態。その場において、頼れる者は、サヨ一人だけだった。
というわけで。
「ほれ、サヨよ!戻ってこい!」ぺしぺし
テンソルは、唯一味の違いが分かるサヨの目を覚まさせることにしたようだ。
テンソルがサヨの頬を何度か叩いていると、ようやくサヨが我に返る。
「ふにゃ?はっ!?サヨはいったい何を……」
「我も知りたいのだ。いや、知りたくはないが……それはとりあえず良いのだ。ほれ、サヨ。米が炊き上がったゆえ、味を見よ。面目ないことに、我らドラゴンでは味の違いが分からぬ。其方の舌だけが頼りなのだ」
「う、うにゃ?い、いま何と?」
「む?我らドラゴンでは味の違いが分からぬゆえ、其方の舌だけが頼りだ、と言ったが?」
「 」
サヨは息をすることも忘れてしまうほどに驚いた。絶句した。なぜなら——、
「こ、これ、全部、サヨが味見するのかにゃ……?」
——50種類もの米を、サヨ一人で食べ比べしなければならないからだ。
「うむ。我らには、不味い米というのものが分からぬのだ」
「無理。無理にゃぁぁぁーーっ!!」
サヨの心が折れた。美味しいものは食べたいが、物理的、生物学的に、限界を越えられなかったらしい。
「小枝様を拝み倒したら、美味しいお米を提供してくれないかにゃぁ……」
「だが、さきほどは断られたのであろう?」
「……うにゃ」
「もはや、残された選択肢は、1つしか無いのではないか?」
「………………」
「ほれ、諦めて、食べ比べをするのだ」
「……………………!」
テンソルがサヨのことを諭していると、急にサヨの目に炎が灯った。
「無理にゃ!」
「は?ならどうすると——」
「もう、何が何でも、どらごんの人たちに、米の味を覚えて貰うにゃ!それしかにゃい!」
サヨは決意した。もはや、彼女の目に、迷いは無い。美味しい米を食べる、という彼女の想いが、種族の壁を越えて、不可能を可能にしようとしていた。




