2.8-35 科学?33
アルティシアが考え込んでいると、今度は別の人物たちがその場にやって来る。
「あっ、小枝様のカウンセリングが終わったようですね」
「ユーリカさんの顔が、随分とすっきりした表情になっているようです」
「無理をされてはダメですよ?」
女神たちだ。ユーリカがまだ小さかった頃から彼女のこと知っていることもあり、3人ともユーリカのことを心配していたらしい。
そんな3人を前に、ユーリカは何かを言いかけるが、その言葉は彼女の喉から出てこなかった。言いたくても言えない、といった様子だ。
その代わり、ユーリカはこう口にする。
「ご心配をお掛けしまして、申し訳ございませんでした。この通り、私は大丈夫です」
普段通りの喋り方である。アルティシアたちを前に喋ったものとはまったく異なる喋り方だ。
そのせいか、アルティシアは普段見せないような表情を浮かべることになる。例えるなら、豆鉄砲を食らったハトのようだった、と言えるかも知れない。とはいえ、女神たちはアルティシアの反応に気付いていない様子だったが。
「何か困ったことがあったら、遠慮無く言ってくださいね?」
「いつでも相談にのります」
「では私たちはこれで……」
女神たちはその場から去って行った。今日もまたキラによる新型機動装甲の調整があるのかも知れない。
3人がいなくなった後、アルティシアの口許がピクピクと動く。何か言いたいことがあるらしい。敢えて明記するまでもなく、彼女はこう言いたかったのだ。……なぜ女神と話すときは、普段通りに話しているのか、と。
ユーリカも、アルティシアが何を言いたいのか、理解していたようで、彼女はアルティシアが口を開くよりも先に、事情の説明を始めた。
「えーっとだな……流石に、女神様の前で、この喋り方になるのは無理なんだ。まだ気持ちの整理がつかない」
「……なるほど。ということは、今のところ、私とコエダちゃ……コエダ様の前でだけ、遠慮無く話す事が出来るのですね?」
「あぁ。コエダ様にも言われたんだ。アルティシアなら、この喋り方でも受け入れてくれるはずだ、ってな?」
「そういうことでしたか。えぇ、分かりました。その喋り方で問題はありません。ただ、"アルティシア"と呼び捨てにされるのは如何かと思います。私自身は構いませんが、事情を知らない方が聞くと、驚いてしまうと思いますので」
「そうか。だったら……そうだな……じゃぁ、アル様でいいか?」
「……ちょっと固い気がします(それに、"アル様"という名前の響きもあまり好ましくありません)」
「じゃぁ、"アル"でいっか!」
「……いえ、アルと呼び捨てにするのだけはダメです。その名前で呼ばれると、思わず背中から刺したくなりますので。おっと、今のは内緒でお願いします」
アルティシアには、よほど気に食わない人物がいて、その人物が、彼女のことを"アル"と呼び捨てにするらしい。額に青筋が浮かぶほど嫌っているようだ。
「そうなると……あとは、アルちゃんか、アーちゃんか……。いや、ここは奇をてらって……そうだ!じゃぁ、マーちゃんにするか!」
「はい?マーですか?私の名前に"マ"の音を含む文字は無いはずですが……」
「魔王ちゃん」
「 」
「流石に魔王ちゃんって人前で呼ぶのもどうかと思うから、マーちゃんがいいと思うんだ。聖女の私が言うんだから、それっぽいだろ?」
「……嫌とはいいませんが、私はユーリカ様の事を、ユーちゃんとか、セーちゃんなどとは呼びませんよ?」
「あぁ、良いぞ?ユーちゃんって言ったら勇者っぽいし、セーちゃんって言ったら聖騎士のことになっちゃうからな」
「 」
アルティシアは不満げな様子だった。彼女はゆっくりと目を細める。
一方、ユーリカの方は、カラカラと笑っており、本気なのか、冗談なのか分からない様子だ。第三者である小枝から見れば、ユーリカがアルティシアのことを揶揄っているように見えていたようだ。とはいえ、2人の間のやり取りなので、小枝から口出しするつもりは無かったようだが。
「じゃあ、そういうわけでよろしくな?マーちゃん」
「本当にマーと呼ぶのですね……」
「ふふっ、冗談だよ。アルちゃん」
一応、ユーリカも、アルティシアが"マー"と呼ばれることに不満を感じていたことは理解していたらしい。アルティシアから、ある種の殺気のようなものを感じ取っていたのかも知れない。
堕聖女「アルちゃんが魔王だとすれば、エカテリーナは何者なんだろうな?」
魔王「…………」ゴゴゴゴゴ
魔神「おっと、そのネタは洒落にならないので、やめておいた方が良いでしょう」




