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2.8-31 科学?29

 どんよりとした空気も、食事が始まると綺麗さっぱり吹き飛んだ。


 女神たちにとって、まともな食事と言える食事は今日が初めて。出された料理は、けっして豪華な食事ではないが、料理長ノーチェ(?)が丹精込めて作った料理は、女神たちの頭の中から直前の出来事を忘れさせてしまうほどに、興味を惹かれるものだったらしい。


「(どんな味がするのでしょう?)」

「(きっと、ショッキングな味に違いありません)」

「(塩だけでも、あれほどの味だったのですから、きっと想像出来ない味なのでしょう)」


 そう口にしながら、料理を取り囲む女神たちは、食卓の長机ではなく、ソファーに腰掛けていた。長机には、すでに多くの人々が席に着いており、手狭。女神たちが3人揃って座れば、ギュウギュウになってしまうのは確実だ。その他、女神たちが今日初めて食事を摂ることを知られまいと、小枝たちが気を回したことも理由の一つだろう。


「では……頂きましょう」

「えぇ、頂きましょう」

「いただきます!」


 女神たちは、3人揃って手を合わせると、神妙な面持ちで朝食を食べ始めた。


 一方、女神たちと共に、直前まで、重苦しい空気を作り出していたユーリカは、というと——、


「…………」にこぉ


——笑みを顔に張り付けながら、食卓についていた。それはもう、絵に描いたような笑顔だ。あまりにわざとらしすぎるその笑顔に、周囲の者たちは顔を引き攣らせるが、誰もユーリカに笑みの理由を問いかけるようなことはしない。


 というのも、彼女が笑みを浮かべ始めたのは、突然の事だったからだ。皆が知る限り、きっかけや前触れのようなものは何も無かった。気付くとユーリカは急に笑みを浮かべていたのである。その直前まで、この世の終わりが来たといわんばかりの暗い表情を浮かべていたにもかかわらずだ。あまりに突然の出来事過ぎて、皆が怖がり、誰も話しかけようとしなかった、というわけだ。基本的に傍若無人なノーチェですら引くレベルの笑顔である。


 それと同時に、皆、ユーリカのことを尊敬に値する人物だと考えていたようである。彼女は、女神たちを相手に、自分の意見を通し、その上、不敵な(?)笑みまで浮かべていたのである。自分ならきっとできない……。しかし、ユーリカは一歩も引かなかった……。少なくない者たちがそう考えて、ユーリカに尊敬の念を抱いていたのである。


 ちなみに。この瞬間、ユーリカが何を考えていたのか、というと——、


「(あはは〜☆)」


——何も考えていなかった。そう、何もだ。


 理由を簡単に言うなら、現実逃避のため。何も考えなければ、心を痛めることも、黒歴史に苛まれることもないのである。


 しかし、何も考えなさ過ぎて、表情筋まで弛緩させてしまうと、聖女にはあるまじき表情になってしまうので、とりあえず顔に笑みを張り付けていたのだ。その結果が、能面のごとき、感情の無い笑み、というわけである。


 理由が分かっていれば、痛ましい笑みだと言えた。皆が思っているような、尊敬される笑みではない。


 その誤解のせいで、誰も心配して話しかけることもない。ユーリカの意識の深い所で、誰か助けて欲しい、という気持ちが渦巻いても、当然、誰も気付くことはない。


 もはや、時が、黒歴史という名の"心の傷"を癒やすまで待つしかないのだろうか……。ユーリカが、すべてを諦めようとした——そんな時。


「えっと、ユーリカさん?」


 隣に座っていたアルティシアが話しかける。彼女もまた笑みを浮かべていたが、ユーリカとは別の種類の笑みだ。どんな種類の笑みかというと、筆舌に尽くし難いのだが、例えるなら、ノーチェも近寄らないような異様な気配を纏った笑み、といったところだ。


「最近、コエダちゃんと随分、仲良くされているようですね?」


 言葉にトゲは無い。声色も平坦だ。表情も柔和。しかし、周りの人々が逃げ出すような見えないオーラを帯びていた。


 対するユーリカは、アルティシアに話しかけられて、ようやく我に返る。意識が浮上してきたことで表情からようやく笑みが消えると、彼女はアルティシアの方を振り向いた。


「……え」


 その言葉を誰が口にしたのかは定かでない。アルティシアなのか、ユーリカなのか、それとも他の誰かなのか……。


 ただ確実に言える事は、アルティシアの方を振り向いたユーリカの目尻から、大粒の涙がぽろぽろと零れていたことだけだ。



魔王「えっ……ユーリカ様、なぜ泣いて……」


堕聖女「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ずっと表情を固定していたから、目が乾燥して痛いっ!!」

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