2.8-28 科学?26
「ウメです」
「サクラです」
「モモです」
と嬉しそうに、自分たちの名前を口にし合う女神たち。今まで、人のような名前を持っていなかったためか、3人の表情は晴れやかだ。
一方、ユーリカの表情は冴えない。そればかりか、名付けが行われる前よりも尚更に暗かった。
「(……よくよく考えてみたら、女神様方のお顔って、皆、同じなので、誰が誰だか分からないんですよね……)」
今までの女神たちは、文字通り三位一体で身体を共有してきた。ゆえに、3人共が同じ顔でも、大きな問題にはならなかったのである。
ところが今、女神たちは、それぞれが独立した存在。にもかかわらず、顔は同じ。背丈も体型も喋り方も、すべてが同じ。外見で区別することは実質的に不可能だった。
ユーリカとしては、自分が女神たちの見分けができないことを、女神たちに言いたくなかったようである。言えるわけがなかった。理由は、例によって例のごとく、女神たちは神であって、ユーリカはただの聖女だから。失礼すぎる発言によって天罰が下るかも知れないと、ユーリカは怖れていたのだ。
だが、その考えも、この瞬間に限って言えば、少し変わっていたようである。名前の件で、小枝が口添えしてくれたこと。そして、なにより、その小枝が隣にいてくれること……。それらが、ユーリカの心を突き動かした。
「……あの、女神様?」
「「「はい?」」」
「非常に申し上げにくいのですが、皆様、お姿が同じなので、私には見分けがつかないのです。どのように見分ければよろしいでしょうか?」
ユーリカが問いかけると、女神たちは目を見開いた。今まで言われたことが無かったのだろう。驚いている様子だ。
「そんなに似ていますか?」
「気にしていませんでしたね」
「そういえば、私たちはどうやって、お互いを区別しているのでしょうね?」
「(気にしてなかったんかーい!)」
と、心の中でツッコミを入れるユーリカだったが、やはりその言葉は口にしない。できない。
「ほら、私たちはIFF表示がありますから」
「あぁ、お互いを見れば、自動的に名前が表示されますものね」
「言われてみればそうでした。当たり前でしたので、すっかり忘れていましたよ」
どうやら、女神同士であれば、視界内に個体識別名が表示されるらしい。
「えっと……あいえふえふ?名前が表示……?」
などと、ユーリカが混乱していると、小枝が口を挟む。
「では、IFF表示を切って、生活してみてください。きっと、ユーリカさんなどの周りの人たちが、どのように3人の事を見ているのか、それで分かると思います」
「なるほど」
「承知いたしました」
「IFFをオフ……っと」
女神たちは、作られて初めて、お互いの名前の表示機能を切った。
その後、数分の間、女神たちは問題無く会話を行っていた。名前の表示機能を切ったとしても、座っている位置は変わっていないので、誰が誰なのか判断できていたからだ。
問題は、1人が所用でその場から離れて、そして戻ってきたときに起こる。
「……なるほど」
戻ってきた女神——もといモモが、リビングにいたウメとサクラを見て、納得げに呟いた。そして彼女は、2人の女神たちに向かって問いかける。
「どちらがどちらなのか分かりません。もしや、あなたがウメですか?」
「いえ、私はサクラです」
「私がウメです」
「……理解しました。これは、何かしらの識別方法を考えるべきですね」
「(よかった……)」
混乱している様子の女神たちを見て、ユーリカは胸をなで下ろした。……これで、女神たちの見分けが付けられるようになる。これで、すべての憂いが無くなる、と。
……まぁ、そう上手くいかないのが、世の常なのだが。




