2.8-14 科学?12
次の日の朝。
「るんる〜ん!えいっ!」
ジュッ……パンッ!!
魔法の杖を持った少女が、ブレスベルゲンの外でクルクルと回りながら、岩に向かって魔法のようなものを放っていた。ノーチェの友人のシェリーである。
彼女が放った不可視の魔法——もといレーザーは、岩に当たると、岩の一部を一気に赤熱させ、最終的には岩全体を弾け飛ばしてしまった。岩が熱膨張に耐えられず、内部からの圧力で爆発したのだ。
岩が魔法によって破裂するなど、一般市民にとっては驚くべきこと。ましてや子どもが見たなら、怖がって泣いてしまっても無理はなかった。
しかし——、
「〜〜〜♪」
——岩が弾け飛ぶ様子を見ていたシェリーは、とても上機嫌そうだった。彼女は壊れた岩を見た後、ステッキの先端に取り付けられた大きなルビーを見て、うっとりとした表情を浮かべる。
「うふふ……」
ルビーに見入っているらしい。
ちなみに、怪しげな表情を見せていたシェリーのその横には、ノーチェの姿があった。というのも、彼女たちは2人で、ルビーを使った魔法の実験をしていたからだ。まぁ、実際には、新しい"おもちゃ"を手に入れたシェリーが、ノーチェのことを連れ回しているようなものだったが。
「シェリー。その宝石、売る。忘れてない?」
「ひうっ?!」
ノーチェの一言で、シェリーは固まった。ルビーを作った理由は、ノーチェが自主的に納税したいと言い始めたことが始まり。しかも、材料費や、大きなルビーの製造に必要な魔法を提供したのもノーチェ。シェリーが出した事と言えば、宝石を売りたいと口出しした事だけ。
「(考えないようにしてたけど、これ売るんだよね……。欲しいなぁ……でも……)ああああ!私、何もしてない……」がくっ
シェリーは絶望のあまり、膝から崩れ落ちた。ルビーを売るということは、今、彼女が手にしている杖も手放さなければならないということだからだ。
対するノーチェは、不思議そうな様子だ。
「シェリーの仕事はこれから。この杖を売る仕事がある」
「そう……そうなんです。それが問題なんです……」
「問題?」
「ねぇ、ノーチェちゃん。この杖を何本か売ったら、一本、私にくれないですか?」
「ルビーじゃなくて、杖?」
「そう、杖です。杖が良いです!」
「理由は?」
「商人たる者、やはり、自分で自分の身を守れた方が良いと思うからです。この杖さえあれば……無力な私でも戦えるようになります!」
「魔法を鍛えた方が手っ取り早い気がする……」
シェリーは光魔法が使えるのである。光魔法を鍛えれば、杖などに頼らずとも、強力な魔法が放てるのではないか……。そう思うノーチェだったが——、
「でも、分かった。シェリーが欲しいならあげる。ただし、5本売ること」
——友人であるシェリーが欲しいと言うので折れることにしたようだ。
「が、頑張ります!」
「ところで、さっきシェリーは、杖を売るって言った?」
「えぇ、言いました。大きな宝石を切らずに売る方法です。しかも装飾品としての価値だけでなく、実用的な価値もあります。私みたいに弱い魔法しか使えない人でも、強力な魔法が放てる杖です。これは絶対に売れます!」
「……どこで?」
「王様に聞いてみるというのはどうでしょう?」
「フューリオン?んー、あの王様、金を持ってない」
「き、金じゃなくてもいいのでは?」
「金貨以外をもらうと、他の国で換金しなきゃならない。それなら、最初から他の国で売った方が良い。二度手間になる」
「んー、そうでしょうか……(あの国王様なら、言い値で買い取ってくれそうですから、そのお金を別の国で両替すれば……あ、でも、私たちみたいな子どもが大金を両替することって、難しいのかも知れないですね……。ん?そもそも、これほどの一品、他国で売れるんでしょうか?)」
と、色々と思慮するシェリー。そんな彼女の戦いが、いま始まろうとしていた。




