2.8-10 科学?10
その日の晩。ブレスベルゲンの地下奥深くにあるキラの研究所で。
「……遂に完成した」
『早っ!』
『思ったよりも随分と早かったですね』
『キラ様は、納得されてない様子ですが……』
キラと3人の女神たちは、白い巨壁のようなものを感慨深げに見上げていた。遂に、女神たちの壊れた機動装甲の修復が終わったのだ。
終わったと言っても、完全ではない。一応、形になったという状態で、これから調整があるので、本当の意味での完成はしばらく先である。
3人の女神たちは、それぞれ自分の機動装甲の前に立って、大雑把に状況を確認する。
『なるほど……。今までに無かった機能も追加されているようですね』
『従来通りホログラムも使えるようですが、新たに人形も使えるようになったのですね……』
『出力も一桁ほど上がっているようです……』
『『『……は?一桁?!』』』
『何をしたらこのような出力が出せるのですか?!』
「……世の中には魔道具というものがある」
『まぁ、ありますね』
『人の営みに欠かせないものですね』
『まさか、魔道具が動力源ということは無いでしょう?機動装甲を動かせるほどに大出力が出せる魔道具など聞いたことがありません』
「……そう、魔道具だけで動いているわけじゃない」
『では、いったいどうやって?』
『科学でもエネルギー保存の法則は破れないはずです』
『魔道具でもエネルギー保存の法則は破れないですけれど……』
「……何と言うことはない。核融合炉と魔道具を組合わせて使った」
『『『はい?』』』
「……核融合炉の問題点は、核融合の際に生じるエネルギーを、効率よく電力に変換できないこと。核融合のエネルギーは、一旦、熱エネルギーに変換された後、水を湧かして、タービンを回し、最終的に発電機を回すという回りくどいことをしている。でも、もしも核融合のエネルギーから直接電力を得る事が出来たとすれば?」
『それは……とても効率が良いというのは分かりますが……』
『直接変換するなど不可能なはずです。もしもできるなら、核融合だけでなく、他の発電にも応用できるはず。地球のエネルギー問題を一挙に解決できます』
『……つまりキラ様は、魔道具を使って、直接のエネルギー変換を実現したと仰るのですね?』
『『なるほど……』』
「……そう。魔法は万能ではないけれど、使い方によっては万能に近い使い方が出来る。今回の場合は、核融合で発生したエネルギーを直接電力に変換する魔道具を使った。テンソル製。核融合の時、何故か魔力も一緒に生まれるらしいから、外部から魔法陣を駆動する魔力を供給する必要はない。重水素と三重水素だけ補給していれば、あとはメンテナンスフリー。数十年に一回くらいの割合で海水浴でもすればいい」
『『『はあ……』』』
女神たちは開いた口がふさがらない様子だった。理論上は可能であっても、物理的に不可能な高効率核融合炉を、キラは魔道具を応用することで作ってしまったというのだ。1000年以上にもわたり、この異世界に来ていた女神たちであっても、為しえなかった偉業である。キラはそれを異世界に来て1ヶ月足らずで作り上げてしまったのだ。女神たちとしては、驚きを通り越して、呆れすら感じていたようである。
それゆえか、女神たちの思考の中から、高効率核融合炉の話が蒸発するのに時間は掛からなかった。キラと同じ土俵で思考しても追いつけないので、考えるのをやめたのだ。その上、目の前には、彼女たちが喉から欲しいと思っていた新品の機動装甲があるのだから尚更だろう。
『で、では早速』
『そ、そうですね』
『久々の身体です。慎重に動かさなくては……』
女神たちは、それぞれの機動装甲の前で消えた。彼女たちの姿はホログラム。実体となるAIコアは機動装甲の中にあるのだ。
それでも彼女たちが今まで自分の機動装甲を確認できなかったのは、キラがアクセス権を女神たちに渡していなかったからである。この時、初めてアクセス権を受け取った女神たちは、今頃、大喜びで、自身の機動装甲の機能を確認しているに違いない。




