2.8-06 科学?6
そして数分後。リアル錬金術師のノーチェの手により——、
「……お人形さん?」
「ゴーレム?」
「的」
——実験に使う的が作られた。
材質は酸化シリコン、もとい、その辺に転がっていた石である。実験用の的なので、高い製作コストをかけてまで作る気になれなかったらしい。とはいえ、ただの石塊ではなく、人の形に削ったのは、ノーチェなりのこだわりか。
「これなら壊しても大丈夫」
「壊しても良いという割には、随分と拘ってるように見えるんだけど大丈夫?細部まで作られてるし……っていうか、これ、騎士団長のグラウベルよね?」
「ん。この的なら壊しても良い」
「ちなみになんでグラウベルなの?」
「的に最適。これ以上無いくらいに適材適所」
「適材適所って言葉が、まず適材適所じゃない気しかしないわね。もしかしてだけど、ノーチェって、グラウベルのことが嫌いなの?」
「別に嫌いじゃない。騎士が嫌いなだけ。この世界から騎士は根絶すべきだと思ってる」
「滅茶苦茶嫌ってるわね……。まぁ、前に王都で色々あったから、嫌うのは理解出来るけどさ?」
「あとグラウベルは、食事を食べるばかりで、働いてない。働かざる者食うべからず。ノーチェですら働いているというのに」
「まぁ、この町を守る騎士だから、戦争になったりしない限りはいつも訓練ばかりでしょうね。っていうか、ノーチェと比較するとかわいそうだから、やめてあげた方がいいと思うわ?」
「それと、狼臭い」
「まぁ、ブラウの保護者だし、仕方ないんじゃない?っていうか、やっぱりノーチェはグラウベル個人のことを嫌っているわよね?」
「嫌ってない。ノーチェが狙ってた唐揚げを横取りしたからといって、嫌うほどのことじゃない」ゴゴゴゴゴ
「……そう(やっぱり嫌ってるじゃん)」
と、思うグレーテルだったものの、余計な事は口にしない。食べ物の恨みを抱えているノーチェに言えば、油に火を注ぐことになりかねないからだ。
ゆえに、グレーテルは話題を変える。彼女には、グラウベルの将来を憂うことよりも、他に興味を向けるべき事があるのだから。
「じゃぁ、シェリーちゃん。あの的を狙って撃ってみて」
「は、はい!」
シェリーは大きなルビーが嵌まった杖を、的の方へと向けた。そして——、
ピカッ!!
——光魔法をフラッシュライトのように一瞬だけ光らせて、ルビーを眩く輝かせた。
その瞬間——、
ジュッ……
——そんな音が、どこからともなく聞こえてくる。随分と瑞々しい音だ。到底、岩石製の的から上がったとは思えない音である。
ゆえに、ノーチェとグレーテルは、眉を顰めて考え込む。
「何の音?」
「目玉焼きを焼くときの音に近かった」
「ここに目玉焼きなんて無いわよ」
「えっと……あのー……」
「そういえば的は?」
「……?どこかに消えた」
「またまたー。ノーチェが隠したんじゃないの?空間魔法か何かで」
「実験中にはしない。そんなことをしても、ノーチェにはメリットが無い。やるだけ時間の無駄」
「あのぅ……その的なんですけど……」
「「…………?」」
どこか申し訳なさそうな様子で、シェリーが事実を述べた。
「蒸発するように消えたみたいです」
シェリーが事実を口にしたことで、ノーチェとグレーテルは、ようやく現実逃避をやめた。2人とも、岩石が蒸発した瞬間を見ていて、何が起こったのか大体理解していたのだ。
「……見間違いかも知れない。もう一つ的を作る」
「……そうね。確認は必要ね……って、またグラウベルを作ってるし」
こうしてノーチェたちの実験は、混迷を極めていったのである。……ただし、色々な意味で。




