2.8-05 科学?5
それから少し経った後——、
「……むしゃくしゃしてやっちゃったけど、後悔はしてないわ」
——裏庭には、意味不明なことを口走るグレーテルの姿があった。そんな彼女の手には、魔法の杖(?)があって、その上部には大きなルビーが填め込まれていた。
そう、グレーテルは、ノーチェたちのルビーを使って、杖を作ったのである。ルビーを取り囲むように、魔法合金製の鏡が複数設置されているという、科学と魔法が融合したようなデザインだ。一見すると複雑に見える構造をした杖だが、それでも軽々と作ってしまえるのは魔女ゆえか。
彼女はそれを使って、ルビーと光魔法の不可解な現象を解き明かそうとしていたようである。実験をする度に、アルミホイルを蒸発させていたのでは、アルミホイルを作った小枝に申し訳ないと思ったらしい。
「これで、さっきの光魔法を試して貰えるかしら?あぁ、杖の先端から何かエネルギーが出るから、人には向けちゃダメよ?家の壁に穴を開けるくらいの力なんだから」
というグレーテルの発言に、シェリーが戸惑い気味に問いかける。
「あの……いったい何のエネルギーですか?」
「さぁ?私にも分からないから、調べるためにこれを作ったのよ。多分、光に関係する"何か"、ってことは分かってるんだけどね」
「ほへぇ……」
シェリーは感心したように相づちを打ちながら、グレーテルから杖を受け取った。
その際、シェリーはふと思う。
「そういえば、グレーテルさんは光魔法を使えないんですか?」
「使えるわよ?魔女っぽくないから使わないけど」
「……どういうことですか?」
「魔女って、陰湿なイメージがあるじゃない?なのに、光魔法や聖魔法を使えたら、それって魔女っぽくないわよね?」
「ちょっと意味が分からないんですけど……」
「例えば、聖女のユーリカちゃん辺りが、闇魔法を使ったら、違和感ない?」
「ユーリカ様が闇魔法……。たしかに、違和感があるかもしれないです」
「それと同じよ。ユーリカちゃんが闇魔法を使うと闇堕ちしてるみたいに見えるのと同じで、私みたいな魔女が光魔法を使ったら、光り堕ちしてるように見えるでしょ?ってこと」
「はあ……(光堕ちってなんですか?)」
やはり、よく分からない……。と思うシェリーだったが、深く考えても答えは見つからないと思ったのか、思考を切り替える。
「とりあえず、この杖を使って、さっきみたいに光魔法を使えば良いんですね?」
「そうよ?いけそう?っていうか、杖の使い方は分かるかしら?」
「杖に魔力を流して、光魔法を使えば良いんですよね?」
「そうそう、そんな感じ」
「やってみます」
シェリーにとって、杖を使うのは、今回が初めての事ではない。家の中の魔導ランタンなどに光を灯すときにも、自前の杖を使っていたからだ。
ゆえに、杖を使った光魔法は簡単に発動する。とはいえ——、
ピカッ
——とルビーが一瞬だけ眩く光るだけで、他は無音だが。
「……何も起こらないですね」
「そりゃ、杖を空に向けていれば、何も起こらないでしょ」
「あっ、そっか……。でも、何に向ければ……」
シェリーは辺りを見回した。すると、穴だらけになった木下家の外壁が目に入ってくる。グレーテルも同じ方向を見ていたところを見るに、シェリーもグレーテルも同じ事を考えたようだ。
「……いやいや、流石にわざと穴を開けたら怒られちゃいますよ」
「もう1個くらい追加で穴が開いても大丈夫だと思わない?」
「お……思いません!」
と、シェリーが、グレーテルの誘惑(?)にどうにか抗ったときのことだ。
「なら、ノーチェが的を用意する!」
2人の話を静観していたノーチェが、おもむろに立ち上がった。
活動報告で、休む、と書いたのに投稿してしまったのじゃ。
もうダメかも知れぬ……。




