2.8-04 科学?4
そして、家の壁に穴が開いているのがバレる。魔法の気配を察したグレーテルが、裏庭にやってきたのだ。
「あれ?家の壁に、こんな穴なんて開いてたっけ?」
「「……えっ?」」
「しかもこんなにたくさん。火魔法で開いたわけじゃなさそうだけど……。あぁ、犯人はノーチェね?」
「ノーチェは何も——」
何もしていない……。と答えそうになるノーチェだったが、彼女はその言葉を飲み込んだ。その一言を口にすれば、消去法的に、シェリーが犯人、と言っている事に等しくなるからだ。
そもそもからして、ノーチェはこのとき初めて、家の壁に穴が開いていることに気付いたのである。ゆえに、肯定することも否定することもできない、というのが正直なところだった。
彼女くらいの年齢の女児——いやどんな人間でも、いきなり犯人に仕立て上げられれば、反射的に否定することだろう。しかし、一度言葉を飲み込んだノーチェは、安直な返答をしない。
「……いま初めて気付いた」
ノーチェはそう言うと、家の壁に開いた穴を観察する。
穴の数は、6箇所。直径は5cmほど。それだけ穴が開いていたなら、ほぼ毎日のように裏庭で実験をするノーチェが気付かないわけがない。
つまり、穴を開けた自覚はなくとも、ノーチェたちの実験によって開いた穴だと推測するのは容易いということだ。結果、ノーチェとシェリーは、素直に謝罪の言葉を口にする。
「たぶん、ノーチェたちが悪い。ごめんなさい」
「ご、ごめんなさい……?」
対するグレーテルが、家の壁に穴を開けたことを怒るようなことはなかった。彼女の尺度は人間の常識と大きく異なっているので、たとえ壁に大穴が開こうとも、屋根が吹き飛ぼうとも、自分に影響が無ければどうでもいい事なのだ。
「まぁ、いいんじゃない?でも、どうやって穴を開けたのかは知りたいわね」
「ノーチェたちもよく分かってない。でも多分、コレが原因」
ノーチェはそう言って、アルミホイルで包んだ大きなルビーをグレーテルに見せた。
「何これ?」
「大きな宝石。たぶんルビー」
「魔石じゃなくて?まぁ、魔力を感じないから、魔石じゃないんだろうけど……」
「ノーチェたちが作った!」きりっ
「私たちが作りました!」どやぁ
「宝石を作った……?まぁ、ノーチェとシェリーちゃんならやりかねないか……」
「……グレーテルお姉ちゃんのノーチェに対する評価が疑問」
そう言いつつ、ノーチェはシェリーと共に再現実験を行う。
大きなルビーを新しいアルミホイルで包み込み、そこにシェリーが強烈な光魔法を一瞬だけ照射する。
バンッ!
「鏡で包んだルビーに光魔法をあてると、鏡が爆発する」
「鏡って言うか、アルミ箔ね?」
「爆発すると、家に穴が開く」
「……ちょっと意味が分からn——」
「後ろ」
「えっ?うしr……えっ?!」
グレーテルが半信半疑で後ろを振り向くと、確かに家の壁の穴が増えていた。7箇所目だ。音もなくいつの間にか開いていた穴だ。物的な証拠は無くとも、ノーチェたちの実験によって開いた穴であることは間違いないと言えるだろう。
「いつの間に……。これ、何なの?」
「わかんない。多分、すごいやつ」
「目には見えなかったわね……。それに魔力も感じなかったわ……。どんな原理で開いた穴なのかしら……」
いったい何が起こっているのか……。グレーテルは、ノーチェたちの実験に、強い興味をもったようだ。薬屋での業務は完全にそっちのけである。
古龍「グレーテルがう○こに行ったまま帰ってこないのだ」




