2.7-23 蛇足23
コンコンコン……
ヴァレンティーナの部屋の扉がノックされる。彼女の部屋は、諜報機関専用の部屋、というわけではなく、単に彼女の私室である。引き籠もりなのだから、彼女は部屋から出ないのだ。
ゆえに、逃げも隠れもしない。
「……はい。開いていますよ」
カチャ……
ヴァレンティーナは、来訪者の事を、部屋の中へと招き入れた。
◇
それから数分後。
アルティシアたちが、ヴァレンティーナの部屋の前に辿り着く。女騎士団長が、廊下の突き当たりにあった部屋の前で立ち止まったのだ。
「こちらでございます」
「ここが……」
扉自体は何と言うことはない、普通の扉だ。だが、その扉の隙間から何か気配のようなものでも流れ出してきていたように見えて、アルティシアは扉を開けるのを躊躇した。
「……はぁ」
ここまで強引にやってきたアルティシアたちが、そのまま扉を開けるとすれば、蹴り破るくらいのことをしても不思議ではなかった。しかし、アルティシアは何を思ったのか——、
コンコンコン
——と、扉をノックする。
すると部屋の中から——、
『どうぞ。開いております』
——という返答が。
その返答を聞いたアルティシアは、後ろにいたエカテリーナとグレーテルに目配せしてから、扉を開いた。その際、エカテリーナたちが苦笑していたのは、やはり、2人とも、アルティシアが扉を蹴り破ると思っていたからか。
カチャ……
扉を開くと、そよ風が吹き出てきた。窓を開けているらしい。部屋の中も明るそうだった。
「(聞いていた話とは違いますね……)」
引き籠もりで陰険という噂話を聞いていたアルティシアは、首を傾げながらも扉を開いていく。すると、間もなくして部屋の中が露わになったわけだが、その様子を見たアルティシアは、思わず目を見開くことになった。
「えっと、第一王女のヴァレンティーナ様……?(もう一人は誰?)」
部屋の中にいたのは、2人の女性たち。2人とも、アルティシアよりも遙かに年上に見えていて、しかし目を奪われるほどに美しくもあった。
そして2人ともそっくりだった。まるで母娘、いや下手をすれば姉妹のような風貌だ。
「あぁ、あなたたちが、ブレスベルゲンからの使者の方ですね。歓迎しますわ」
そう口にしたのは、若い方の女性だった。彼女が部屋の主のヴァレンティーナらしい。彼女は心底嬉しそうに、アルティシアたちのことを歓待している様子だ。
「(ということは、この方は……王妃様……)」
アルティシアが年上の女性——王妃と思しき人物に視線を向けると、その人物はニコリと笑みを浮かべた。しかし、笑っているのは口許だけだ。目は笑っていない。
その目は、まるで値踏みをしているかのようだった。離宮への乱入者がどんな人物なのか観察しにきた、といったところだろうか。
ゆえに、アルティシアは考える。……今、ここで、話をしたい相手はヴァレンティーナだけ。王妃が会話に加わると、面倒な事になるのではないか、と。
「……なるほど。こうしましょう。グレーテル様。一人、この部屋からご退出させて頂けませんか?転移魔法で」
「えっ?いいの?」
「えぇ、私はこの部屋の主と話をしに来たのですから」
「ああ、そう……じゃぁ」
ブゥン……
部屋の中に、転移魔法特有の低音が響いて、母子の内の1人がその場から姿を消す。
結果、残ったのは——、
「あっ、あちらの方は残しておいて欲しかったのですが……」
「えっ?いや、どう見ても部屋の主って、この人の方じゃない?」
「ふふふ。噂通り、おもしろい娘たちですわね」
——という会話の通り年上の女性の方。王妃エレオノーラの方だった。
ダンジョンに出てくるフロアボス、みたいなものかの。




