2.7-20 蛇足20
そして次の日の朝のこと。ハイリゲナート王国の王城で、異変が起こっていた。
コツン、コツン、コツン……
「誰だ?アレ……」
「さぁ?」
「見たことは無いな……」
見かけない人物が城の中を歩いていたために、彼女たちに向かって、兵士たちの視線が集中していた。
「あの後ろにいる背の高い獣人は知ってるぞ」
「あの狐の獣人か?誰だ?」
「たしか、ブレスベルゲンの代官だ。昨日、ドラゴンに乗って来てたから覚えてる……っていうか、忘れられん。他の2人は分からん」
城の中を歩いていた人物は3人。その内、1人はエカテリーナだった。彼女は昨日も王城に訪問していたので、少なくない者たちが、彼女の顔を覚えていたようだ。
しかし、残る2人については、誰も知らない。
「ブレスベルゲンの関係者なんだろうな……」
「背の低い子は、人に化けたドラゴン……ってわけじゃなさそうだな。顔が違う」
「主人と従者、って見た目だな?従者の1人は獣人で、もう1人は絵に描いたような魔女か……。流石ブレスベルゲン。人外魔境と噂されることだけはある」
ハイリゲナート王国のみならず、この大陸において、獣人や魔女という存在は、迫害されているのである。従者にするなど以ての外。王城に連れてくるなど言語道断である。そう、普通ならば。常識的に考えれば。
ゆえに、その3人の行動は非常識と言えた。通常時であれば、王城の兵士たちに尋問されるか、捕縛されるのは不可避なのである。それでも、彼女たちがなかなか捕まらなかったのは、獣人化したエカテリーナの顔が、少なからず兵士たちに知れ渡っていたからだ。
だが、すべての兵士たちが、エカテリーナのことを知っていたわけではない。当然、例外もいた。
「おい!そこの者!止まr——」ズドンッ!!「ゴハッ?!」
話しかけた瞬間、兵士の姿が消える。そして廊下の先で、壁が崩れ、土煙が上がった。一瞬にして吹き飛ばされたのだ。
その様子を見ていた他の兵士や貴族たち、王城関係者全員が、いっせいに警戒を露わにする。皆、兵士が吹き飛ばされるとは思っていなかったのだ。
それは、付き人も同じだったらしい。エカテリーナの表情は変わらなかったが、魔女——もといグレーテルは眉を顰めていた。
「ちょっと、やりすぎじゃない?」
「……これは失礼しました。今の私は、とても虫の居所が悪いので、つい魔法が出てしまいました。次からは魔法よりも先に、手を出すことにします」ビキビキ
「そ、そう……(魔法や手を出すよりも先に、言葉を出しなさいよ……)」
と、考えるグレーテルだったが、思考を口から出すようなことはしない。巻き込まれるのはまっぴらごめんだからだ。
しかし、他の兵士たちとしては、そうも言っていられなかった。仲間を吹き飛ばすという紛れもない犯罪行為を行った3人を取り囲もうと、兵士たちがやって来る。
その様子を見て、エカテリーナとグレーテルが慌てて声を上げた。
「控えなさい!」
「近寄っちゃダメよ!」
2人には、最悪の未来が想像出来ていたらしい。2人揃って、兵士たちを止めようとする。
ところが、虫の居所が悪いという主(?)の前では、無意味な行動だったようだ。
「……【身体補強】【リジェネレーション】」
白い髪を持った少女が、そう呟いた直後の事だ。少女の姿がその場からブゥンと消える。
「ブホァッ?!」「グホァッ?!」「ブフゥッ?!」「ギャッ?!」「ウガッ?!」
次の瞬間、その場に上がったのは、兵士たちの悲鳴にならない悲鳴と断末魔。皆、天井にぶつかったり、壁にぶつかったり、地面にめり込んだり、散々である。
そんな兵士たちの鎧には、共通して、子どもの拳で跡を付けたような凹みが残っていた。当然、彼らの鎧は軟らかいわけではない。鍛冶屋の巨大なハンマーで殴られて、ようやく凹むほどの強度だ。
ゆえに、その傷を付けた者の攻撃力は異常。鍛冶屋のハンマーより強い殴打など、常識では考えられない力の強さである。
兵士たち全員が昏倒した後、白髪の少女が再びその場に姿を現した。
「骨折は無し、と。身体補強の魔法と、常時回復の魔法を覚えた価値はありましたね。少しだけ機嫌が直りました」
「……可愛そう。サンドバッグにされて」
「……自業自得、なのかしら?」
エカテリーナとグレーテルは、ご満悦な様子の主(?)を前に、複雑そうな表情を見せていたようだ。
兵士「俺ら、殴られる必要無いよね?」




