2.7-01 蛇足1
「にゃんにゃんにゃー♪」どばっ
「ふむ……やはり、上から投げるよりも、横から投げた方が格好はつくか……」どばっ
猫娘サヨと、古龍テンソルが、ブレスベルゲンの外にある広大な畑で、踊るように何かを撒く。先日耕した畑に種を撒いていたのだ。それも豪快に。もはや、畑に畝を作った意味が無いように見えるが、その辺はテンソルの魔法陣が機能しているようで、種を適当に投げても、畝の上に等間隔に蒔けるらしい。テンソル曰く、元は魔法の誘導などに使う術式らしいが、種まきにも使えるとのことだ。
見方によっては、才能の無駄遣いとも言えたが、種を蒔いている2人は楽しそうな様子だった。
「こんにゃに畑仕事が簡単にゃんて、夢みたいだにゃ!」
「畑仕事をするのは今回が初めてゆえ、我にはこの仕事が難しいか簡単かは分からぬが……しかし、こうして天気の良い日に、太陽の下を歩くというのは悪くないかもしれぬ」
「んにゃ?テンソルは、お天道様の下をあまり歩かにゃいにゃ?」
「大体は、住処や建物に籠もっておることが多いからな。最近では、グレーテルの店で、下働きをせねばならぬし……」
「テンソルも大変だにゃ」
そんなやり取りをしながら、サヨとテンソルは手を止めることなく、畑に種をばらまいた。
その内、4割は、小麦の種である。この世界における主食はパンなので、大量に作ったとしても余ることはないからだ。
残りは、小麦が不作だった場合に備えたジャガイモや蕎麦、そして米など、複数の種類の穀物である。ブレスベルゲンにおいて、これらの食物はあまり食されていないが、アルティシアの一言で育てられることになったようだ。彼女は、木下家の食事で様々な穀物を食べているせいか、小麦以外の穀物についても、ブレスベルゲンで流行らせるつもりらしい。
「これが育つまでに、どのくらいかかるのかにゃぁ?今から植えたら、夏の終わり頃かにゃぁ……。収穫するときが楽しみにゃ!」
「ふむ……多分、明日ではなかろうか?」
「明日?……そっかぁ。明日かぁ…………は?明日?いやいや、明日は無いにゃ!それはさすがに早すぎるにゃ」
テンソルは冗談を言っているのだろう……。サヨは断定する。
……しかし、彼女は間もなくして、自身の考えを改めることになる。
「ふむ……たしかに明日ではないかもしれぬ。今日の内には収穫できるか……」
「またまたー、そんなに早く成長する植物があるわけny————は?」
後ろを振り向いたサヨは、そこに広がっていた光景を見て、目を疑った。なにしろ、そこにあったのは、見慣れた畑ではなく、緑色をした何か。例えるなら、木のようなものだろうか。それが、ギチギチに詰まって生えていて、もはや"樹海"という言葉が可愛く思えるレベルで、壁のようなものを形作っていたのだ。
「何これ……。さっきまで、こんなの無かったにゃ……」
「其方が植えた種が目を出したのだ」
「サヨ……木の種は植えてにゃい……」
「木ではない。其方が植えた穀物なのだ」
「だとしても、サヨの知ってる穀物じゃにゃい……」
小麦やジャガイモといった穀物は、木のようになる植物だっただろうか……。サヨは本気で自分の認識を疑った。しかし、どう思い出しても、彼女の知っている穀物とは異なっており——、
「……なるほど。この地方では、これが普通にゃんだにゃ!」
——ここの植物はこういうものだ、と思うことにしたようだ。到底、自分の知っている植物と同じものだとは思えなかったらしい。
「で、この木は何の木にゃ?」
「ふむ……さっきまで植えておったのは米ゆえ、稲ではなかろうか?」
「稲……稲かぁ……」
幹の太さは5cmほど。高さは5mほど。サイズは木だが、遠くから見れば、稲穂のように見えなくもなかった。
「一応、確認したいんだけど、ここの地方だと、稲はこんな風に育つのが普通にゃのかにゃ?」
「普通ではないの」
「やっぱり普通じゃにゃいのかぁ……」げっそり
「植物が早く育つように、種まきの魔法陣に工夫を施したのだ。あと、畑の方にも、の」
「やっぱり原因はテンソルだったのかぁ……」げっそり
サヨは空の彼方に向かって、視線を向けた。何か気になるものが浮いていたわけではない。地面に視線を向けたくなかったのだ。
「ほれ、サヨよ。こんな場所で呆けておると、作物が次々に生長して、ここも樹海に飲み込まれるのだ。はよう行くぞ?」
「や、やっぱり樹海にゃんだ……」
どうしてこんなことを……。と思うサヨだったが、その反面、楽しみでもあったようである。
「こんにゃに大きにゃ作物にゃんだから、できる実も大きくにゃりそうにゃ!」
短い時間で思考を切り替えて、収穫を楽しみにできる彼女は、逞しい、と言えるのかも知れない。




