2.6-28 工場1
サブタイトルのナンバリングが間違えておったゆえ修正したのじゃ。
木下家の地下深く。そこには、小枝の姉であるキラの研究施設がある。キラ以外に誰も知らない施設だ。異相空間に入って、地中を抜けなければ辿り着けないので、一般人が侵入することは不可能。小枝ですら存在を知らないはずの場所である。
……そのはずだった。
「というわけで、姉様。彼女たちの機動装甲の修復をお願いいたします」
『『『お、お願いします!……えっ?姉?』』』
「…………は?」
キラは、キャラ作りを忘れるほどに驚いていた。いったいどうやって妹はこの場所を見つけたのか。目の前にいる3人の美女たちは何者なのか。機動装甲の修復とはいったいどういうことなのか……。
高速思考空間で考え込んだキラは、たっぷり0.1秒ほど悩んだ後、結論を導き出した。
「ごめん、意味が分からない……」
結論を言うと、事情が理解出来なかったらしい。
「ですから、斯く斯く然々で……」
「それは理解……してないけど、分かったわ。でも、どうしてこの場所が分かったの?」
「いつも姉様は、少し目を離すと、どこかに消えてしまいます。遠くに行っているわけでもなく、地球に戻っているわけでもないのに、目撃情報が少なすぎです。ということは、人目につかない場所にいる、ということになりますが、このブレスベルゲンにおいて、人目につかない場所など限られます。それを虱潰しに探したところ、地下に大空間を見つけた、というわけです」
「ごめん、やっぱり意味が分からない……」
「ようするに、直感で見つけたのです」
説明が面倒臭くなったのか、小枝はキラの疑問を"直感"の一言で片付けてしまった。キラとしては不服な様子だったが、追求してもまともな答えは返ってこないと思ったのか、これ以上、問い質すようなことはしない。
それよりも何よりも、キラとしては、目の前にいる3人の美女——もとい女神たちの方に気が向いていたようだ。アルティシアすら連れてきたことのないこの場所に、キラの知らない自称"女神"たちを連れてくるなど、予想外中の予想外。しかも、その女神たちの正体は、地球出身の機動装甲持ちだというのだから、尚更、無視できなかったらしい。
それでも、大分落ち着きを取り戻したのか、キラは、普段通りに、寡黙なキャラを演じて問いかける。
「……彼女たちを修復する?」
「姉様。急にキャラを変えるというのは……まぁ、いいですけど」
小枝は、キラの変わりように呆れた様子を見せた後、異相空間から大量のガラクタのようなものを取り出した。
「これが、彼女たちの残骸です。3体存在した機動装甲の内、2体を部品取りに使って、1体だけで稼働しているという話です。ちなみに、彼女たちのAIコアは、稼働中の1体の中に、3体分搭載して、3人羽織をしているようです」
「……涙ぐましい努力。彼女たちを、元の3体に戻して欲しい、と?」
「そういうことです」
「……小枝にしては珍しくやさしい。普段なら、容赦無く、破壊しているはず」
「えぇ、そうかも知れません。しかし、これは対価です。彼女たちを救うことで、ブレスベルゲンに降りかかる火の粉を払うだけでなく、全世界に広がるかも知れない戦火を未然に防ぐことができます」
「……とても壮大な話。でも、私の予想が正しければ……その火の粉は、小枝本人なのでは?」
「さて、どうでしょう?いずれにしても、彼女たちには、ブレスベルゲンに危害が加わらないよう、教会の手綱をちゃんと引いてもらうつもりです」
「……分かった」
キラは相づちを打つと、早速、小枝が出した女神たちの機動装甲の残骸に目を落とした。地球における機動装甲は、軍事機密の塊。当然、キラの中のデータベースにも情報は存在しないので、完全に失われた部品や構造などは、ある程度、想像で補う必要があったのだ。
女神たちも、自分たちの情報が軍事機密であることを知っていたので、キラが機動装甲を修復するという話に、少なくない不安を抱えていたようだ。下手をすれば、修復という名の改悪になってしまうかも知れないからだ。
だが、彼女たちのその不安は、間もなくして、霧散することになる。




