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2.6-25 聖都への帰還13

 一触即発、とは少し異なるが、いずれにしても、ユーリカと教皇たちとの間に漂っていた空気は、ひどく張り詰めたものだった。受け取り方は、見る者たちの視点によって様々。ユーリカが教皇たちの事を脅しているようにも見えていたかもしれないし、あるいは、謝らない教皇たちの姿は時間稼ぎをしているように見えていたかも知れない。


 ちなみに、小枝の視点から見ると、周囲の者たちの視点とはまた異なって見えていたようだ。というより、彼女は違うことを考えていたと言うべきか。


 話すら聞いていなかったのか、小枝は空気を読まずに、ポツリと零した。


「貴方が教皇だったのですね……」


 小枝は、ようやく、教皇が誰なのかを知ったらしい。彼らの事を肉塊にするときも、逆に戻すときも、彼女は教皇たちに名も役職も聞いていなかったのである。彼女自身があまり名乗らないことも関係しているかもしれない。


 対する教皇は、小枝の驚いたような呟きを聞いて、目を丸くしていた。この期に及んで、ようやく自分が教皇であることを認知したことが予想外のことだったらしい。


「もしや、あなた様は、今まで私を教皇と知らなかったのですか……?」


 と、震え声で教皇が問いかけると、小枝よりも先にユーリカが応対する。


「立場を(わきま)えなさい!このお方は、あなたごときが、来やすく話しかけて御仁ではありません!!」どんっ


「…………」


 人類の中で、所謂"神"に一番近い立場にあるのが、教会における教皇という(くらい)である。そんな彼が分を弁えなければならないとすれば、一介の聖女でしかないユーリカもまた、魔神コエダには容易に話しかけられないはず……。などと考えた教皇の表情は非常に渋い。


 とはいえ、状況が状況だけに、彼はユーリカに歯向かおうとしなかった。彼らから見れば、今のユーリカは、焚き火の近くに置かれた爆弾のようなもの。少しでも刺激すれば暴発することは簡単に予想が付けられたからだ。


 ゆえに、教皇は、ユーリカに言われるがまま、言い訳はせず……。彼女の"指摘"を受け入れた上で、小枝に話しかけようとする。


「……大変失礼いたしました。魔神コエダ様。どうぞ、ご質問する無礼をお許し下さい」


 次の瞬間、声が2つ重なった。


「ダメです!」

「お断りします」


「……えっ?」


 ユーリカと小枝による二重の拒否である。


 王など目上の人物に対して質問することの許可を取ろうとした場合、拒否されることは少ない。しかも、許可を取ろうとしている相手は教皇。受け入れられる事はあっても、拒否されることはありえない……。それが通例だった。


 ところが彼は、ユーリカと小枝の両方に、質問することを拒否されてしまったのである。神の代行者とも謳われる教皇としては、メンツの丸つぶれだ。


 しかし、ユーリカと小枝には関係無い。


「敗者たる貴方が、コエダ様に話しかけられるなど、ありえないことです!」

「……私の用事は終わりましたし。貴方と話す理由がありません。お引き取り下さい」


 2人とも言っている事に矛盾は無い。ユーリカからすれば、リュウを代表として決闘させることを認めた教皇は敗者であり、この場における一切の権利が存在しないのだ。そして小枝にとっては、彼女の言葉通り、女神たちにしか用事は無かったのである。取り付く島も無いとは、まさにこのことを言うのかも知れない。


 結果、ユーリカは教皇に迫った。


「さぁ、教皇様。既に雌雄は決し、コエダ様も教皇様と会話をする必要性を感じておりません。先ほど申し上げたとおり、自害下さい」


「…………」


 選択肢を失った教皇は、目を瞑って、大きく深呼吸をし、そして口を開く。


「……分かった。しかし、その代わりにお願いしたいことがある」


 命を対価に、願いを叶えろ、というわけだ。彼は教皇の立場にある人物。最期の願いくらいは通る、と考えたらしい。


 尤も——、


「「お断りします」」


——彼の相手は、無慈悲と名高い小枝と、何かのスイッチが入ってしまったユーリカである。最期の願いが通るわけがなかった。

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― 新着の感想 ―
おお、これはひどい、因果応報。
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