2.6-24 聖都への帰還12
「————かはっ?!」
「気付きましたか」
小枝が手持ちの超回復薬をリュウに飲ませると、彼は意識を取り戻した。ほぼ一瞬の時間でユーリカに全方向から殴打された結果、リュウは意識を失っていたのだ。所謂、外傷性ショックによる重体、といやつだ。放っておけば、命を落としたのかも知れない。
「リュ、リュウ!ご、ごめんなさい!」
自身がリュウの事を半殺し状態にしていた事に気付いていなかったユーリカは、ボロ雑巾のようになった彼の姿を見て、大きく反省していたようである。そのおかげか、彼女はこれまで通りの聖女らしい表情を取り戻して、リュウに回復魔法を掛けていたようである。リュウがすぐに意識を取り戻したのも、彼女の回復魔法のおかげだろう。
そしてリュウは、というと——、
「あ……あああ!」ズササッ
——と、小枝とユーリカから、全力で逃れようとする。トラウマのようなものを植え付けられたのかも知れない。
「うわあああ!!」
「落ち着いて下さい。リュウさん。決闘はもう終わり、貴方の身体の傷も癒えています」
「あああああ!!」
「……コエダ様?身体の傷は癒えたようですが、心の傷は癒えていないようです」
「えぇ、そのようです。困りましたね……」
本当に困っているのだろうか……。などと、その場にいた者たちの大半が思ったようだが、小枝が困っているのは事実である。彼女は助けを求めるように、旧勇者パーティのプリシラとフェルディナントに顔を向けた。
すると、プリシラとフェルディナントは、お互いに顔を見合わせて、微妙に苦い表情を見せた後、何かを諦めたような様子で、小枝のたちの所へと近付いてきた。
「私たちに、リュウの面倒を見て、って言うのね?」
「仕方ありません。お付き合いいたします」
「助かります。私たちでは、リュウさんのことを怖がらせてしまうだけですので」
「お手数をお掛けします」
小枝たちが対応すると、リュウの症状は余計に悪化するかも知れないのだ。そのことは、プリシラたちも分かっていたらしく、自ら進んでリュウの対応をする事にしたようだ。
実際、プリシラとフェルディナントが近付いても、リュウは拒否反応を見せず、年相応に泣きじゃくっている様子だった。何も知らない者からすれば、リュウとユーリカの決闘は、年上のユーリカが、年下のリュウのことを一方的に殴打しているだけの事案に見えたに違いない。まぁ、実際、その通りなのだが。
というわけで、ユーリカから見て白黒がハッキリしていない相手は、教皇たちだけとなる。リュウから離れたユーリカは、教皇の前に立ち……。そして、鋭い視線を彼らへと向けた。
「さて、教皇様。お話があるのですが、当然、逃げるようなことはしませんよね?」
話を聞いて貰う、のではない。主張を飲み込ませる、という意思がユーリカから漏れ出す。
「……当然だ」
「では、今回の件で様々な方にご迷惑をおかけしているので、その責任を取るために——自害下さい」
ストレートな宣告だった。言葉を選んで話しているだけであって、内容的にはその辺にいるごろつきの発言と大差は無い。
「先日のコエダ様に対する決定を悔いているのであれば、私とリュウの決闘を止めますよね?でも、教皇様方はそれをしなかった。つまり、反省していないということに他なりません。釈明はありますか?」
今のユーリカは、その場に立っているだけで、常に臨戦状態である。彼女の攻撃を人の反応速度で避けるのは不可能。教皇からすれば、喉元に刃物を突きつけられている状態に等しいと言えた。
しかし、彼に慌てる様子はない。聖職者のトップだけあって、達観した思考を持っているのかもしれない。
「……其方の言い分には一理ある。こちらの不手際だったと認めよう。しかし、コエダ様に従うのは、女神様の決定だ。ゆえに、其方とリュウとの決闘と止める止めないに関わらず、私たちにコエダ様に歯向かう意思は無い」
「そうですか。では——」
と、相づちを打った後で、ユーリカは言った。
「自害下さい」
「……今、釈明したはずだが?」
「釈明すれば赦す、などと一言も言っていませんが?」
どうやらユーリカの怒りは、収まっていないらしい。
それも当然だ。今、この瞬間に至るまで、教皇たちはただの一度もユーリカや小枝たちに謝罪をしていないのだから。
魔王?「身体強化の魔法を使えるようになりたいのですが……」
代官「いや、アルの場合、身体強化をする必要なんてないですわよね?アルが荒事をすると、後始末が大変ですから、やめて下さいまし」
夜狐「でも、アルお姉ちゃんが無理をすると、エカテリーナお姉ちゃんが看病ができる」
代官「……!仕方ありませんわね。教えて差し上げますわ?」わきわき
魔王?「やっぱりいいです。遠慮します。近付かないで下s——モガッ?!」




