5日目-24
「……っていうことがあったんだよ?凄いと思わない?」
「すげぇな!コエダちゃんは。あの一等地に家を持ったのか!」
「でも、倉庫なんだろ?建物の中を色々弄らないと住めn……あっ……(そういえばコエダちゃんだったな……)」
「なるほど。家具を取りそろえる際は、是非、私に声を掛けてくれ。価格は勉強させて貰うからな!」
「は、はい……(どうして私は——)」
……またHell's Kitchenに来てしまったのか……。小枝の頭の中では、既にHealth Kitchenという言葉は蒸発していて、地獄の料理屋『ヘルズキッチン』に変わってしまっていたようである。
まぁ、それはさておいて。倉庫のような家に住むことに決めた時刻では、すでに家具屋が閉まっていたこともあり、小枝は家の内部に手を付けるのを明日に回すことにしたようである。家の内部がかなり腐っていたこともあって大改造が必要だったのだが、それには不動産屋に許可を貰う必要があったので、なおさら今日は手の付けようがなかったようである。
しかし、その代わりに、小枝はある一つの苦難を受け入れなければならなくなっていた。そう、彼女は、シチュー3兄妹の内、末っ子のクレアに捕まって、Health Kitchenに連行されてしまったのだ。
そんなHealth Kitchenでは、シチューパーティーの面々と、アメリカの大統領と同じ名前の商人リンカーンが、小枝の事を待っていたようである。ここ毎日のイベントと化していたので、今日も小枝が来るものだと思っていたらしい。むしろ、クレアを迎えに出すくらいなので、"思う"ではなく、"確信"していた——いや、"待ち構えていた"と表現すべきか。
なお、昨日、強制的にHealth Kitchen仲間(?)にされてしまったニルハイム商会の優男(?)ゲートリーは、店内に板者たちの飲食代すべてを自腹で払うという愚行を犯したために、今日は精神的・財布的に凹んでおり姿はなかった。今頃は商会か自宅でゲッソリとした表情を浮かべていることだろう。
「みなさん、ホント、ここのお料理が好きなのですね?」
「あー、好きって言うか美味いからな」
「あぁ、そうだな。好きって言うか、雰囲気が良いよな」
「そうだね。好きって言うより、飲んでる、って感じが良いよね」
「私も同感だ。好きというかなんというか……」
「……もしかして皆さん、嫌々来ていませんか?」
煮え切らない発言をする4人に向かって、小枝がそう口にした瞬間。
シーン……
と、突然、店内が静まりかえる。皆、小枝の発言に耳をかたむけていたらしく、彼女の言葉に反応したようだ。
「え、えっと……何です?」
周囲の異様な空気を感じ取った小枝が、その事情を聞こうとすると——、
ザワザワザワ……
——と喧噪が戻ってきた。皆、小枝の発言を無かったことにした、といった様子だ。
「何ですか?この微妙な空気は……」
小枝が納得出来なさそうな様子で同じ卓の4人へと問いかけると、最初にクレアが返答する。
「多分、皆、疲れてるんだと思うよ?ほら、スタンピードが起こってから、まだ1日しか経ってないし、町の外で外で活動していて死にそうになった人なんかもいるんじゃないかな?」
すると立て続けに、今度はシチュー3兄妹の長男ミハイルが話し始めた。
「俺たちは嫌々来てるわけじゃないぞ?飯も美味いし、酒も美味い。それにコエダちゃんもいる。これ以上の店は、どこに無いからな!」
「それなら良いですけど……」
実は皆、GTMN料理を嫌々食べているのではないか……。小枝はふとそんな可能性に思い至ったようだが、美味しそうにGTMN料理を頬張る次男のジャックやリンカーンの姿を見て、自分の思い過ごしだと判断することにしたようだ。
そんな彼女の視線を感じたのか、今度はジャックから質問が飛んでくる。
「ところでコエダちゃん。聞いた話によると、今日は教会の連中に目を付けられたんだって?大丈夫か?真隣に住んだりなんかして……」
「えぇ、問題はありません。教会の方々とは上手くやって行けそう……いえ、上手くやりますので」
その瞬間だった。
シーン……
再び、店内の空気が凍り付く。
「……ホント、何ですか?」
小枝が周囲に向かって問いかけると、店内は再び何事も無かったかのように喧噪に包まれる。そこには複雑な事情があったようだ。
その理由について、リンカーンが話し始めた。
「……実は、とある商人の仲間から噂なんだが……教会がコエダちゃんに借金をしてるって聞いたんだ」
「えっ……借金?」
「あぁ、コエダちゃんが、教会からどうやってお金を取り立てるのか、呟いているのを聞いた、って奴がいてな?」
「お金の取り立て?(あぁ、カトリーヌさんに貰いそびれた薬草採取の報酬の話ですかね?)」
「で、教会は、その事実をもみ消そうとして、魔女審問官を連れてきて……それでコエダちゃんのことを魔女に——」
とリンカーンが口にしたところで、小枝が首を振ろうとして……。しかしその前に、シチュー3兄妹が、機敏な動きを見せて——、
「「「しーっ!」」」
——と、3人揃ってリンカーンの口を押さえた。どうやら、小枝が教会から魔女扱いされているという旨の発言は、ブレスベルゲンの町の中では、禁句扱いされていたようである。
ストックはあるのじゃが、内容が気に食わぬのじゃ。
どうしたものかのう……。




