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2.3-18 ブレスベルゲンの探検15

 サヨは冷や汗を掻きながらピタリと止まった。まるで、マネキンのようだ。本当なら掴まれた尻尾を無理にでも解放させて、すぐにでも逃げ出したかったのだが、アルティシアのあまりの不気味さを前に、本能が警鈴を鳴らしたのである。……逃げたら()られる、と。


 一方、サヨの尻尾を掴んだまま死体のように机へと突っ伏していたアルティシアが、ゆっくりと顔を上げる。


「……あら、サヨさんでしたか」ふにふに


 と言いつつ、アルティシアはサヨの尻尾を離さないアルティシア。それどころか、彼女は、サヨの尻尾を弄ぶ。


「ちょっ……サヨの尻尾を離してほs——」


「聞いて下さい」


「あ、はいにゃ……」


 目が据わっているアルティシアを前に、サヨは尻尾を離して貰うよう懇願するどころか、反論の言葉すら口に出来なかった。アルティシアから、命の危険を感じるような何かオーラのようなものを感じ取ったらしい。


 対するアルティシアは、まるで(たち)の悪い酔っ払いのように、サヨに絡む。


「もう、どうして皆さん、私だけ置いて、外出してしまったのでしょう?特にコエダ様です。一緒に連れていってくれれば良かったのに……」


「ど、どうしてって言われても、小枝様には小枝様の考えがあったんじゃにゃいかにゃぁ?(サヨが分かるわけにゃいにゃ!)」


 と、内心で叫び声を上げるサヨだったが、口には出さない。というのも——、


「((にゃ)名前(にゃまえ)の人だったかにゃぁ……この人……)」


——サヨはアルティシアの名前を覚えていなかったのである。彼女の頭の中において、アルティシアは"クッキー(カリカリ)の人"でしかないのだ。


 ゆえに、サヨとしては、名前を覚えていないというボロが出る前にその場を退却したかったのだが、依然として彼女の尻尾は、万力のような握力を誇るアルティシアの手の中。逃れることはできない。


「コエダ様の考え、ですか…………うふふ」にへらぁ


「(うわ……この人、危険な人かもしれにゃい……)」


「まぁ、コエダ様なら仕方ありません。全幅の信頼を置いていますから」


「(そうは見えにゃいけどにゃぁ……)」


「問題はカーチャです。あの人、私の補佐なのに、私から離れて単独で視察に行っているんですよ?酷くありませんか?!」


「そ、そうですにゃぁ……(知らにゃいにゃ!っていうか、誰にゃ?カリカリの人に"()()()()"なんていたかにゃ?)」


「ですよね?サヨちゃんもそう思いますよね?本当に酷いです。帰ってきたら文句を言ってやります!」


「(巻き込まにゃいでほしいにゃ……。あと、酷いのは"カリカリの人"も同じにゃ。でも、下手にゃ対応をして、カリカリを作って貰えにゃくにゃったら、サヨも困るにゃ……)」


 サヨはジレンマに頭を悩ませた。アルティシアの名前を覚えていないサヨだったが、クッキーを作ってくれる人として、サヨの中でアルティシアの評価は、非常に高かったのである。むしろ、今の彼女にとっては、生命線に関わる人物と言っても良いかも知れない。


 対して、サヨの尻尾どころか胃袋を掴む形になっていたアルティシアは、深く溜息を吐いた後で、ようやくサヨの尻尾を離した。そして椅子の上で、「うーん」と背筋を伸ばした後、再び書類に目を通し始める。休憩(?)を終えて、領主の作業に戻ったらしい。


 そんなアルティシアから逃げるべきだと本能が訴えていたサヨだったが、アルティシアが何の作業をしているのか気になったらしく……。彼女は、机の上にあった書類を覗き込んだ。


 そして、思いもよらぬ文字が書かれている書類を見つけ、絶句する。


「しょ、処刑許可証……」


「あぁ、重罪を犯した犯罪者を処刑するための許可証ですね。私が許可を出せば、その紙一つで犯罪者は処刑されます。恐ろしい事ですが、誰かがやらなきゃならないことですからね……。仕方のないことです」


「…………」


「……?どうかされましたか?サヨちゃん」


「ひっ?!にゃ、にゃんでもにゃいです!」


「そうですか?それならいいのですが……」


 そう言って書類の確認に戻るアルティシアは気付いていなかったが、この時、サヨは、ガクガクと小刻みに震えていた。彼女はこう考えたのだ。……小枝よりも恐ろしい人物を見つけてしまった、と。


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