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2.3-17 ブレスベルゲンの探検14

 今にも冒険者たちに襲い掛かりそうになっていたブラウのことを、どうどう、と宥めた後。サヨは、ブラウの案内を受けて——、


「や、やっと、帰ってきたにゃ……」


——無事、木下家に戻ってきた。サヨにとって、ブレスベルゲンの探険は、(N)(K)しい(T)い、ならぬ、(N)(K)しい探険(T)だったらしく、彼女は木下家の玄関部にある薬屋に入った時点で、ヘロヘロとへたり込んでしまう。彼女のことを見届けたブラウは、満足げな表情で騎士団の詰め所へと戻っていったようだ。


 結果、1人取り残されたサヨに声を掛けたのは、薬屋の店主。室内でも巨大な魔女帽子を被っているグレーテルだった。


「客……と思ったら、サヨちゃんじゃない。おかえり」


「…………」


 挨拶を受けたサヨだったが、彼女はグレーテルを見上げて絶句した。この時、サヨはこう思ったのだ。……この人だれ、と。


 というのも、サヨは未だ、木下家の面々の顔を覚えていなかったのである。グレーテルとも朝食会の際に顔を合わせているが、何人もの参加者の顔を一度で覚えられるわけがなく……。サヨは、ブラウのように印象深かった一部の者たちしか覚えていなかったのだ。食事の時、グレーテルが魔女帽子を外していたことも理由の一つかもしれない。


 そのせいで、サヨがポカーンと口を開けながら、()()()格好をしているようにしか見えないグレーテルのことを見上げていると——、


「えっと?サヨちゃん?頭でも打った?」


——グレーテルがサヨのことを心配して、声を掛ける。その口調は、完全にサヨのことを子ども扱いする声だ。なお、サヨもグレーテルも、年齢は不詳なので、どちらが年上なのかは不明である。


 グレーテルが呼びかけると、ようやくサヨは正気に戻った。


「はっ?!その格好に驚きすぎて、息をするのを忘れてたにゃ」


「そんなに驚くような格好かしら?」


「サヨの故郷では、お姉ちゃんみたいにゃ格好をしてる人を見かけた事はにゃいにゃ。お祭りか何かの衣装かにゃ?」


「衣装……いえ、仮装ではないのだけれど……」


 グレーテルは戸惑った。仮装と思われて、すこし恥ずかしくなったらしい。今まで一人暮らしをしてきた時間が長かったので、魔女帽子を被っていても、今更、羞恥を抱くようなグレーテルではないが、直接指摘されると、途端に恥ずかしさが込み上げてきたようである。


 とはいえ、それほど大きな羞恥心ではなかったらしく、彼女はコホンと咳をすると、サヨに対して言った。


「私の事は、"お姉ちゃん"と呼んでも良いけど、できれば"グレーテル"と呼んで欲しいところね。あなたからすれば、お姉ちゃんと言える人はたくさんいると思うし」


「(なるほど。()()()()、って名前(にゃまえ)にゃのね……。ずいぶん変わった名前(にゃまえ)にゃ)」


 グレーテルの名前を知ったサヨは、早速、呼びかけた。


「えっと、分かったにゃ!グレてるお姉ちゃん!」


「……えっと?私は、グレーテr——」


「もう足も腕もパンパンにゃ。今日はもうゆっくり休みたいにゃ」


 サヨはそう口にすると、立ち上がって、足についた埃を払い、リビングの方へと消えていった。


 残されたグレーテルは、サヨが潜っていった扉の方を見て呟く。


「……私、グレてるように見えるのかしら?」


 しかし、その呟きは誰にも届かなかった。


  ◇


 サヨがリビングへと戻ってくると、書斎と化した食堂の長机に突っ伏しているアルティシアの姿があった。他には誰もいない。皆、外出しているらしい。


 自分以上に疲れ切った様子のアルティシアを前に、サヨは思わず声を掛けてしまう。


「あの……大丈夫にゃ?息してるかにゃ?」


 サヨが声を掛けると、アルティシアはゆっくりと手を上げて、ブラブラと振った。


「大丈夫ではありません。息も止まりそうです」


「そうにゃ。大変だにゃぁ……」


 サヨはアルティシアをスルーすることに決めた。アルティシアの名前も覚えていなかった上、厄介事の臭いしか感じられなかったのだ。


 しかし、彼女は逃げられない。


   ガッ!


「ふにゃっ?!」


 尻尾を乱暴に握られた感覚に、サヨはビクリと身体を硬直させる。そんな彼女の尻尾を握っていたのは、机に突っ伏したままのアルティシア。上体を起こさず手だけを伸ばしたアルティシアの姿は、まるで机に寄りかかって死んだ死体が勝手に動いたかのよう。


 その姿に——、


「ひぃっ……」


——サヨは怯んでしまい、逃げる機会を失ってしまう。


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