プロローグ1
ある日、『妹』が消えた。彼女は自分の『能力』を試そうとして、それに失敗し、消え去ってしまったのである。
消えるといっても、色々な種類がある。失踪、蒸発、焼失、あるいは融解……。しかし彼女は、そのどれにも当てはまらない現象によって、消えてしまった。その中で強いて選ぶなら、失踪、と言えるだろうか。
「……えっ?ワルツ……どこ?」
目の前で忽然と姿を消した妹に向かって、届くはずの無いそんな言葉を向ける少女――木下 小枝。この瞬間、彼女は、自分の責任を深く感じていた。そもそも自分が、『能力』を使いこなせるように練習をすべき、と言い始めなければ、こんな事態にはならなかったはずだ、と。
そんな彼女たちは、『能力』がある通り、ただの人間ではなかった。いや、より厳密に言えば、人間どころか、生き物ですらない。
では彼女たちは、いったい何者なのか。
「……不味いです。これはものすごく不味いです……」
そう口にした小枝の姿は、次の瞬間、そこから消えていた。もちろん妹のワルツを追って、異空間へと姿を消したわけではない。確かに小枝はその場から姿を消したが、彼女と入れ替わる形で、その場に白い物体が姿を表したのだ。
それは、全長12mを越える、平たく流線型をした"何か"。人の姿とはまるで似付かないそれは、航空機のような形状をしていた。金属ともセラミックスとも樹脂とも言えない真っ白な謎の物質で構成されたその物体こそが、ワルツの姉である小枝の本当の姿だったのだ。
彼女たちは、今よりも少し先の未来、日本のどこかの山奥で、人里離れてひっそりと生活を送る『ガーディアン』。とあるマッドサイエンティストがもつ、圧倒的な技術力と知識によって造り出された、究極の戦闘マシンである。
そしてその場から姿を消した妹――ワルツも、例漏れること無くガーディアンだった。それも、たった一人で『世界』を滅ぼせるほどの紛れもない化物である。
目の前で失踪した妹のことを心配した小枝は、自身の『翼』を広げると、轟音を上げながら空へと舞い上がった。
彼女の行き先は、他のガーディアンたちが住む、近くの家屋。そこにいる姉に助けを求めるために、彼女は全速力で空を駆けていった。
この時、彼女は、知るよしもなかったことだろう。この先、自分の行動が、自分たちガーディアンと、『世界』全体を巻き込むほどの波乱を引き起こすことに……。
んー……。
まぁ、こんなものかの?