第94話 フラグと黄金の獣
色々考察したりしつつも、やることは変わらない。
『旧帝都』各地を回って魔物を倒したり、財宝を見つけたり、謎を解いたり、隠し部屋を見つけ出したり……色々とまあ、やりたい放題にやっておりました。
そして最後はやはりというか、攻略すべきは……ここ。
『旧帝都』の中心に、主を失ってなお、堂々とそびえたっている……宮殿である。
その宮殿前の広場にて、僕らは突入前の最後の休憩をとっていた。
例によって、適当な廃屋で『箱庭』を使って快適空間を作り、『愛箱弁当』で作った弁当で腹ごしらえしている最中である。急ぐ時にはコレが便利でいい。
なお、材料にはここでこれまで狩ってきたモンスターのうち、食用になるものの肉を選んで使ってみた。狼とか、大蛇とか、見た目はアレだけど肉は食べられるものが結構いたので。
中でも面白かったのは『ヒポグリフ』だった。アレ、見た目そのまんまで……体の前半分が鶏肉で、後ろ半分が馬肉になってたんだよね。『愛箱弁当』での調理のために解体情報を頭の中に浮かべたところでそれが判明して、びっくりした。
キメラ系の動物ってこんな感じなんだろうか?
いやいや……食材としての視点だけど、世界にはまだまだ不思議なことがたくさんあるな。
そんな感じで、出来上がった『焼き鳥&馬刺し弁当 ~その他諸々の肉のから揚げを添えて~』をみんなで食べている最中のこと。
食べながら、不意にアルベルトが、宮殿を見ながら呟くように言った。
「しかし、不思議なもんでな……住んだことなどないのに、アレを見るたびに……何だかな、懐かしい感じがするんだ」
「? 皇族の血、みたいなものが懐かしさを感じたりしてるのかしら?」
「いや、そんなまさか……神秘的通り越して怖いよそんなん」
その言葉に、レーネとビーチェが続けて言う。次いで、レガートやピュアーノ、フェルも、
「単なる気のせいではないのか?」
「レガート、夢ないわねぇ……」
「折角『旧帝都』攻略まであと一歩のところなんですし、ここはひとつ、何か夢のある予想でも立ててみません?」
「これからドンパチやりに行くってのに夢語ってもよ……」
「まあまあ、いいじゃないですか。休憩中の雑談の中の、実のない戯言だと思えば。というわけでこういう時は……シャープ、何かないですか?」
「うぇ!? ちょ、リィラなんでいきなり僕に振るの?」
「普段脈絡も前触れもなく突拍子もないことを言いだすあなたなら、何かネタもっててもおかしくないかな……と思ったのです」
最近この人形娘、遠慮なくなってきてるな。
いや、別に気にしてないっていうか、仲間らしくて何よりだけどね。うん。
……えーと、何だっけ? 突拍子もない話がお望み?
「うーん、じゃあ適当にそれっぽいところで……そうだな……ここってさ、皇族の墓とかそのまま残ってたりする? それともやっぱり、遷都の時に移動した?」
「いや、それも案には上がったんだが……墓を暴くような行いは忌避されていたらしくてな。そのまま残してあるそうだ。途中までは定期的に手入れされていたそうだが……」
「そっか。なら……おきざりにされた皇家の英霊たちが、ないがしろにされた恨みから怨霊と化してモンスターとなって、今を生きる末裔たちを墓の下から睨んでいるとか、どう?」
「……あの、夢も希望もないどころか、恐怖と怨恨とその他諸々暗い感情たっぷりなんですが」
「いやまあ、こいつの思い付きなんだからしゃーねーだろ、どんな話が出てきたところでよ」
そうそう、厨二病患者(自覚あり)の即興の考えなんてこんなもんだって。
「後はそうだなー……忘れ去られた皇家の秘宝とかが未だ手にされることなく宮殿のどこかに眠ってて、それを何か魂的なところでアルベルトが感じ取ってる、とか?」
「はっはっは、こっちは夢のある話だな。まあ、もしそんな風なものがあるというならそりゃ嬉しい限りだ、権威的にも、ひょっとしたら戦力的にも、これからの役にt―――」
――ぴこーん!
「「………………」」
一瞬の沈黙。
そして、ほぼ同時に空間から『黙示録』を取り出し、ぱらぱらとページをめくっていく。向かい合って座ってる僕とアルベルトが、鏡コントみたいに動きを(偶然)同調させて。
もっとも、見た目は全然違うんだけども。
突然のことに、周りにいる皆は『え、何?』って表情になってるが、そんな中でいち早く事情を察したのは、この中で僕と最も付き合いの長い男だった。
「おい、お前……いやお前ら……」
「……まさか」
次いでビーチェも何かに気づいたらしい、と思った瞬間、僕とアルベルトは同時に、お目当ての記載があるページを探し当てていた。
【攻略可能クエスト一覧】
(一部略)
・失われし秘宝
・月光に映える兎の牙
・忘れられし霊廟
・怨念の忠士たち
・●●●●●
・●●●●●
わー、なんかまさにそれっぽいのあるー♪ しかも『●●●●●』が増えてるー♪
……………………
「……えっと、ごめん。フラグ立てた……」
「いや、どっちみち待ち受けていたというのであれば……うん、変わるまいよ」
☆☆☆
気を取り直して、ついに始まりました、宮殿の探索。
やはりというか、どうやらここが、この旧帝都の最終エリア的な扱われ方をしているらしい。これまでのエリアとは、ザコモンスターからしてレベルの違う感じの奴らが襲って来た。
★種 族:動鎧魔
レベル:24
(以下略)
★種 族:毒黒馬
レベル:23
(以下略)
★種 族:魔導悪魔像
レベル:29
(以下略)
★種 族:グリフォン
レベル:31
(以下略)
これはほんの一部だが……単純な戦闘能力はもちろん、それ以外にも油断できない能力を持った魔物が軒を連ねる。
動鎧魔は、フェルの進化前の姿でもある、動く空っぽの鎧だ。
特に変わった能力は持たないものの、単純にパワーと頑丈さで押してくる上、武器を扱って攻めてくる技量は、レベルによってはかなり熟達した兵士レベルであるらしい。
毒黒馬。名前通りの、毒々しい黒い外見に、攻撃に一定確率で毒の状態異常が乗ってくる嫌な相手。
仮にそうなってもこっちにはエルフ謹製のポーションがあるから回復は可能だけど、わざわざ使うような状況になるのは好ましくないってことで、出てきた場合は僕ら無機物組が主に相手をしている。毒とか関係ないからね、僕らなら。
魔導悪魔像。これも見たことある。
いや、見た目は違うけど……アレだ。初めて会った時のフォルテの種族だ。パワーと頑丈さに加え、空飛ぶし、魔法を使ってくるので厄介である。
もっとも、フォルテと違って、ここで出てくる奴は……悪魔っぽくはあるものの、極端な不細工要素や見た目盛りすぎな感じはしなかった。普通の悪魔像って感じで……そんな彼らをなぜか、眉間にしわを寄せて、フォルテが積極的に破壊していた。
……何か嫌なことを思い出しての八つ当たりだと思ってしまうのは気のせいじゃないと思う。
そして『グリフォン』。さっき戦った『ヒポグリフ』の類型のキメラ系モンスター。
戦闘方法は『ヒポグリフ』と似たような感じだったけど、こっちの方が攻撃的だった。積極的に降下してきて攻めて来たし、魔法も使って来た。
さらにこいつら、3~4匹程度の群れで襲ってくるので、その分面倒だった。当然のように空飛んでるわけだから、攻撃する方法も限られてたし。
それでも、一度似たようなのと戦ったことがあるっていうのは経験上のアドバンテージだ。ノウハウはつかんでいたから、これも、遠距離攻撃ができるメンバーを主軸にして対応可能だった。
まだまだ僕らが苦戦するような相手ではないし、建物内という限られたスペースであるせいか、一度に大量に襲ってくるようなこともない。なので一応、特に問題なく対処できている。
しかし、ザコでこれなら、ボスも相応に強くなっているんだろう。そう思いつつ進んでいく。
……ところで、戦ってるうちに、そのへんとは別に気づいたことがあるんだけども。
「なんかここに出てくる魔物……傾向偏ってるよね?」
「だな。まあ、特に不思議って感じでもねーけど……アレだ、城に出てきても不思議じゃねー感じの面子が集まってる、って感じだな」
動鎧魔に悪魔像……インテリアにしてよし、防犯にしてよし、って感じだ。この城に置いといても違和感ない見た目だし……リビングアーマーの方は、見た目的に、城を護る兵士、って感じにも見えるからさらに違和感ないな。中身はないけど。
しかし、これら『城に出そうな魔物』に当てはまらないカテゴリーが……さっき紹介した中では、馬とグリフォンだな。
けどこちらは、アルベルト曰く、
「おそらく、さっきの邸宅に出て来た魔物と同じ理由だろうな。ここで飼育されていた魔物がそのまま、あるいは類似するものがPOP対象になっているのだろう」
「飼育されてた……って? 城で?」
「ああ。もっとも、あの家と同様の道楽目的ではなく……種類を見るに、『騎獣』としてだな」
『騎獣』……ああ、乗り物ってことか! 兵士が戦場で乗る感じの!
しかし、馬はわかるけど……グリフォンまで飼ってたのか。
「今でも飼ってるぞ? もっとも、生来気性が荒く、プライドも高い種族だから、飼いならすのはもちろん飼育自体も困難で……数は多くないがな。帝国の秘密兵器みたいな位置づけの部隊に配備されていて、時に騎士を、時に魔法使いを乗せて、有事の際に出撃する」
「ほー……そりゃ大したもんだ。王国にはいねーのか、そういうの?」
「グリフォンは聞いたことはないが……虎の子的な意味では、何かしらいなくはないだろう。噂程度でよければ、以前に聞いた限りだと……」
そんな感じの雑談を交えつつ、奥へ、奥へ進んでいく。
幸いと言うか、アルベルトがこの城の図面も持っててくれたので、順調に進んではいる。
もっとも、『天啓試練』で、隠し通路とか隠し部屋的なものがあるって思いっきりネタバレ入ってるから、そのへん警戒しつつ進んでるけども。
そうしてたどり着いた、最初のボス部屋。
待ち受けていたのは……結構な相手だった。
瓦礫の山の上に寝そべっていたそいつは……入った瞬間から僕らに気づいていたんだろう。縄張りに足を踏み入れた侵入者を威圧する、鋭い目を向けてきた。
これまで戦って来た『グリフォン』とよく似た姿形。しかし、一回り大きい体躯と、黄金に輝く羽毛から放たれる存在感は、全くの別物と言ってよかった。
★種 族:ゴールドグリフォン
レベル:55
攻撃力:514 防御力:298
敏捷性:713 魔法力:721
能 力:通常能力『光魔法適正』
通常能力『視力強化』
希少能力『上級風魔法適正』
希少能力『統率』
希少能力『三次元機動』
さながら群れのボスって感じか。スキル的にも。
これまでのダンジョンなら、ダンジョンボスとして出てきてもおかしくないであろう能力。
スキル構成はそこまで凶悪じゃないが……それに加えて、配下と思しき十数匹ものグリフォンと一緒に待ち構えていた。
場所は城の中庭。天井もないし、飛ぶのを遮る要素はない。周囲に壁はあるけど、獲物を逃さないための囲いだと考えれば、むしろ立体的に動ける分、利は向こうにあるだろう。
この上魔法まで使ってくるとなると……文句なしに強敵だな。
こないだの『ヒポグリフ』みたいに、勿体つけて登場した割にはあっさり倒せた、なんてことにもならなそうだ。気を引き締めて行こう。




