第92話 上と下から
最近やけに筆が進みます。理由は不明。
さて、いつまで続くか……(汗)
皆さんに少しでも楽しんでいただけるように頑張ります。
旧帝都の探索も進む中、僕らはどんどん奥に進んできていた。
門の近くや浅い部分でこなせるクエストはあらかたこなした。
予想通り、その報酬は僕とアルベルトで二重に受け取ることができたので、大儲けである。
まあ、王国の方で裏でやってる事業の収益からすれば小さい額だが、それでも色々と使い道が考えられる今、そういうのを確保しておくことは大事だ。
1円を笑う者は1円になくとも言うし、きちんと大事にもらっておくことにする。
そうしてクエストをこなしていたわけだが、だんだんと奥に行かないとできないようなクエストが増えてきていたため、少し前から……ここ『貴族街』で、色々やっている。
今はここ、『旧ヨランド邸』で、探索したり魔物を倒したり、色々やっている最中だ。
この家、僕とアルベルト、両方の『黙示録』に、『天啓試練』の舞台として記載されてる場所である。
まあ、その内容は違うんだけども……それはまず、さておき……
「何だってこんな、だだっ広いとはいえ、家の中で魔物に出くわすのか……」
「しかも多い上に強い、ないしはヤバいときた。どんな奴だったんだよ、ここに住んでた貴族ってのは……」
さっきから僕らは……建物の中だというのに、巨大な蛇やら、凶暴極まりない狼やら、明らかにヤバい色した毒グモやら……違和感しかないラインナップの魔物たちと戦っていた。
今も、階段の下では、虎っぽい魔物をアルベルトが蹴り殺し、階段の上から津波のように降りかかって襲って来たスライムを、レガートとフォルテが炎で蒸発させている。その背後から襲い掛かろうとしていた、これまた毒を持っていそうなトカゲは、ピュアーノが風の刃で両断していた。
……気のせいじゃないと思うんだけどさあ……なんでこんな、家の中どころか、都市部に絶対に出そうにないような魔物がわんさかいるわけ?
虎、蛇、毒グモ……ジャングルで出るならわかるけどさ。どれも……自然POPですら、こんな場所には湧きそうにない連中ばっかじゃん。違和感しかない。
そりゃ、都市内部には他にも動物型モンスターがいっぱいいたけど、他の連中は、廃棄された都市にこれ幸いと住み着いた野良、って感じで納得できるものばかりだった。犬とか、猫とか、鳥とか。……カエルとか蛇もいたけど……まあ、考えられなくはないだろう。
が、ここまで巨大な、パニック映画に出てきそうな大蛇とか……あきらかに熱帯あたりにしかいなさそうな毒虫系は、いくらなんでも不自然……。
剣と魔法の異世界で、そんな細かいこと気にしても仕方ないのかもしんないけど……これじゃまるで、金持ちが道楽で……
「……まさか」
と、そこまで考えてある可能性に思い至った僕は……アルベルトと、レガートとフェル、それにピュアーノにもそれを話し、手分けして邸内を探った。
貴族の家とか、その関連施設の構造……そこにありがちな『あるもの』の捜索には、そういった家に詳しい人の方が、見つけやすいと思ったから。
結果……アルベルトがそれを見つけた。
「やっぱりあったか……地下室」
「ああ。それも……ろくでもない目的に使われてそうなのがな」
「ろくでもない……っていうと?」
と、レーネが聞いてくるが、その辺は多分、降りて見ればわかると思う。
……やや、ショックが強い光景が広がっていないとも限らないが。
で、実際に地下に降りてみると……まあ、だいたい予想通りの設備がそろっていましたねっと。
そこにあったのは、いくつもの地下牢だ。
が、罪人とか……人間を閉じ込めておくようなそれじゃない。あきらかに、大型の動物、あるいは魔物を閉じ込める……ないしは『飼う』ための設備だった。
蝋の中と廊下を隔てる鉄格子の部分には、餌やりのための小窓もついているし、それに使われていたと思われる皿もあった。
そして、その多くは……劣化によるものか、鉄格子が壊れていた。
「なるほど……あの、生息地的に違和感しかない魔物共は、ここで飼育されてた、と」
「いんだよなぁ……何でか知らねえけど、そういう危ない、ないし珍しい動物を欲しがって飼おうとする金持ち。ここもその類か」
「飼って、あるいは貴族仲間に自慢して自尊心を満たす、くらいだったら、まだよかったのだろうがな……どうやら、もっと黒いことにも使っていたようだぞ」
と、呆れている僕とフォルテに、アルベルトがくいっ、と親指で背後を指し示す。
その向こう側には……飼育スペースとは違うつくりの、また別な部屋があった。
同じように鉄格子がはめられているが、入り口がいくつもあって……さらに窓もあり、他の部屋からのぞけるようになっている。
しかも天井がかなり高くなっていて、その付近に……まるで観客席みたいに、部屋を見下ろせる座席みたいなのが用意されていた。
この部屋……さほど大きくはないけど、まるで……いや、まさにそのための部屋か。
「……コロッセオ、か」
「ただとらえて眺めるだけでなく、ショーの役者にもしていたらしいな。さしずめ、相手は……処分する平民か奴隷か……」
ホント、貴族の考えることは分かんないな。
よく見れば、部屋の端っこ……柱の陰になっている箇所に、明らかに人間、あるいはその近縁種のものと思しき骨が積まれていた。
貴族の娯楽のために、飼っていた魔物の餌にされた被害者たちだろう。
「で、その魔物たちは……飼い主がいなくなって野生化したと? 遷都する時に、一緒に持ってかなかったのかな?」
「牢の数を見るに……こんだけの数を動かすのは大変だったんだろ。しかも、恐らくは非合法の取引の産物だっただろうから、ばれるわけにもいかないってんで……地下に放置して、隠したまま自分達は引っ越した、ってとこじゃねえか?」
「あー、そのまま捨ててったわけか。けど、予想を裏切って牢屋を破って、野生化したわけだ」
「……どうだろうな? 鉄格子の痕跡を見るに、経年劣化でダメになったところを破られたようだったが……いくら手入れされてなかったとはいえ、そうなるだけの年数を、魔物が飲まず食わずで乗り切れるもんか? 仮に共食いしたとしても……」
……確かに、この都市が放棄されたのはもうずいぶん前らしいし……捨てられてから、この鉄格子が、魔物の力で敗れるくらいにまで劣化するまで……年単位で時間が必要じゃなかろうか。
その間、魔物が生きて居られて、上で見かけたみたいに繁殖して数を増やした……? そんなこと、果たして可能なんだろうか?
「……ひょっとして、都市がダンジョン化した後、ここに入れられてた魔物が、自然に湧き出るようになっちゃったんじゃない? ほら、『栄都の残骸』のアンデッドみたいに」
「あー……ありうるな」
そんなことを話していると、『あ』と、アルベルトが何かに気づいたような顔になった。
「どした?」
「……どうやらその推測でまちがいなさそうだ。今、クエスト達成の音声が聞こえた」
? クエストって……ああ、アルベルトの『黙示録』だけに載ってた、『狂気を暴け』って奴か……現場を目視して、真相を突き止めたから、かな?
何にせよ、アナウンスが聞こえた以上は、達成自体は確実だろう。それは素直に良かった。
「あ、でも僕のやつまだだ」
「魔物全滅させろって奴か? 上のはあらかた狩ったから……地下にまだいんのかね?」
「もう少し調べてみるか。せっかくだ、両方クリアしてきっちり報酬に変えるとしよう」
☆☆☆
地下室にはそれ以上何もいなかった。
屋敷の中をどれだけ探しても、何もいなかった。
となれば残るは、屋敷の外だろうってことで、庭に出てみると……すぐに怪しい痕跡を発見。
なんか、庭の地面の部分が……不自然に盛り上がったり、逆にくぼんだりしている。草が生えている部分と、生えていない部分。そして、混ざっている部分がある。
混ざっているって何かって? 言ったまんまだよ。
元々雑草が生えてた地面を、鍬か何かで耕したみたいに、土と草が混ざってるんだよ。ただし、農業目的でやったわけじゃあきらかにないけど。
それにしちゃ雑だもの。1回か2回、掘り起こして埋めただけ、って感じ。
あるいは、そう……
…………地面の下を『何か』が通った結果、こうなった、とでもいうような……
「「「……ん?」」」
と、僕の両隣、そして後ろで、3人分の声がハモった。
アルベルトと、フォルテ、そしてリィラである。後ろにいたのがリィラだ。
内、アルベルトは、普段は顔の横に垂れさせているウサギ耳をぴんと立て、ぴくぴくと動かしていた。野郎にウサ耳がついてても萌えないのはいつものことだが……その顔が真剣な表情になっているので、茶化すことはせずに様子を見ている。
真剣な表情になっているのは、フォルテとリィラも同じだ。
なお、フォルテは今、僕と同様に『機人』モード……すなわちショタモードになっているので、表情がわかりやすいので助かる。
もっとも、こいつとは短い付き合いじゃないので、普段の機械龍モードであっても、雰囲気その他を察するくらいはできる自信はあるが。
……ただ気になるのは、3人のうち、フォルテは下……地面を見ており、アルベルトは上を見ている、という違いである。
そして、リィラはその両方だ。上と下を交互に見ている。
そして、次の瞬間、
「上か!」
「下だ!」
「両方です!」
一瞬のうちに、アルベルトの『戦略魔法・智』が発動し……反射的に自分達の役割を理解した僕らは、それぞれ動いていた。
アルベルトは後ろに跳躍し、逆にフォルテは前に踏み出す。
リィラは、アルベルトを含めた残りのメンバーをかばうようにその前に立ち、僕はその横に立つ。そして、フォルテとリィラ以外の全員を保護するように、『箱庭』の結界を発動した。
その瞬間、地面が爆ぜた。
同時に、その場に大きな影が降りた。
それが何かを視認するより先に、飛び出したフォルテは腕だけを『機械龍』の腕に戻し、それを殴りつけて吹っ飛ばしていた。
そのフォルテに上空から、何かが覆いかぶさるように襲い掛かり……しかし、一瞬で反転して上昇、空中に戻っていった。
そして、そいつが今までいた場所を、リィラの放った魔力弾が素通りしていった。
なお、その際に発生した土砂や瓦礫、爆風なんかの余波からは、僕の結界で全員を保護している。フォルテとリィラは結界内にいないが、代わりに『箱入娘』がある。個人用サイズの箱型結界が発動し、きちんと2人を守っていた。
その後、飛んでいる方の何かは、数m上空で止まり、そのままホバリングし始めた。
一方フォルテが殴り飛ばした方の何かは、地面に墜落すると、しかしダメージを受けている様子は見せず、そのまま立て直してこっちに向き直った。
そこでようやく、その両方を視認する余裕ができた。
地面の下から出て来たのは……細長い見た目の、蛇のような魔物だった。
いや、細長い……っていう表現はあんまり正しくないかも。シルエット的にはそんな感じだけど、大きさは決して、『細い』という表現は使えないし。
『枯れ果てた鉱山』で戦った『クイーンダイアモンドコブラ』ほどじゃないけど、大きい。太い。直径1mくらいはありそうな太さの、蛇……いや、これは虫……ワーム系か?
どうやら地中を掘って進み、庭を滅茶苦茶な状態にしていたのはこいつらしい。分厚い、鱗か何かと見間違うような甲殻を全身にまとい、しかしグネグネと動いている。頭には、ヤツメウナギみたいに、牙がびっしり生えた丸い口がついていた。ぶっちゃけキモイ。
そして、影を落とした犯人は……鳥だった。
いや、馬か? いや、やっぱ鳥……どっちでもない、か?
頭と前足2本は鳥だ。翼もある。鷲……かな?
しかし、後ろ脚は馬だ。尻尾もそんな感じだ。
そんな、キメラ的な特徴を持つ魔物が、空から降りてきたところだった。
グリフォン? いや、あれはたしか鳥+ライオンだったはず。馬……???
…………よし、こんな時は『鑑定』だ。
★種 族:エルダーロックワーム
レベル:24
攻撃力:294 防御力:386
敏捷性:207 魔法力:21
能 力:通常能力『振動感知』
希少能力『地中潜行』
★種 族:ヒポグリフ
レベル:27
攻撃力:217 防御力:102
敏捷性:301 魔法力:269
能 力:通常能力『風魔法適正』
通常能力『視力強化』
希少能力『三次元機動』
正体判明。なかなかの強者だ……この『旧帝都』で遭遇した魔物たちの中で、現時点でのナンバー1、2だな。
こんなのまで飼ってたんだろうか、ここの主人とやらは……危ないだろ、もし逃げ出したら。
どうやらどっちも腹が減ってるのか、僕らを獲物としてロックオンした様子だし……こちらとしても、『天啓試練』達成のために、ここの魔物は全滅させる必要があった。
丁度いい、やってやろうじゃん!




