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転生箱道中 ~ダンジョン異世界で僕はミミックでした~  作者: 和尚
第4章 王国と帝国という名のエリア
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第91話 それぞれの『能力』



正直な話、アルベルトの同行について、僕は不安に思っている部分があった。


実力は……能力値だけを見れば、この中でワースト1か2だろうし、戦いについてこれるか不安だった。獣人とはいえ、皇族らしいし……いくら、いろいろ鍛え上げて実戦経験があるとはいっても、あまり過度な期待はできないんじゃないかと。


いざとなったら、『眷属小箱レプリカミミック』でも何でも使って助けてやる必要があるんじゃないかと。そう思っていた。


けど、攻略をはじめて1時間経った今……僕は、『井の中の蛙』という言葉の意味を知っていた。思い知らされていた。


別に、アルベルトが僕らより圧倒的に強かったとか、そんなことはない。

確かに、予想よりは強かったし戦えた。予想を超えていたと言ってもいい。


けど、問題はそこじゃない。

見誤っていたの、というか、目を向けてすらいなかったのは……こいつの、戦場における立ち位置と、その『指揮能力』だ。


『レーネ、レガート、目の前の敵が片付き次第、11時方向、路地出口に布陣。リィラは5時方向の塀の上で待機、30秒以内に同路地出口から出てくる魔物に射撃2発。残りを2人で倒せ。シャープは正面の出口を塞げ。2時方向の出口から残りの連中が出てくるからフォルテとフェルで対応。飛行可能な種族がいた場合には……』


そう、アルベルトの声が全員に届く。

うるさいくらいの戦闘音の中でも、問題なく。


僕はさっきから、襲ってくる魔物をかたっぱしから迎撃しており、そのせいで結構激しく動いてる上に、石礫のランチャーとかも使ってるから、結構周りがうるさい。


さらに、このダンジョンに出てくる魔物、動物系が多いらしい。あっちこっちで鳴き声やら唸り声やら響いて、騒がしいったらないや。仲間に声かけるのも大変なくらいだ。


……だというのに、アルベルトの声は問題なく聞こえる。


それもそのはず、この『声』、言葉にして放たれているわけじゃない。

頭の中に、直接しみこんでくるのだ。『念話』みたいに。


さらに、周囲の騒音やら何やらに混じってわからなくなることもない。まるで、『声』の内容がそのまま僕の頭の中に刻み込まれて、強制的に理解させられてるような感じ。しかし、しつこいようだが不快感も嫌悪感もなければ、負担も感じない。


ほとんど聞き流してる状態なのに、どれだけ長い内容の指示だろうと、忘れることなく覚えていられる。自分への指示のみならず、他者への指示の内容も。おかげで、次にだれがどう動くのかすぐにわかる。どう動いて、だれと協力するのが最善か、ほぼノータイムで判断できる。


そしてこの現象が、僕だけじゃなく、この場にいる全員の身に起こっている。


(ハンパないな……これが、『戦略魔法』ってやつか)


そんなことを考えながら、僕は、ちらっと斜め後ろに視線を向ける。


そこには、自らも戦列に参加しているアルベルトの姿があった。


すごいスピードで縦横無尽に動いて、時に跳ねて、流れるように立ち回って……

その最中に、これまた縦横無尽に足を振るっている。


頑丈そうな、しかし動きを阻害しない作りの脚甲をつけてるから、そうじゃないかと思ってたけど……やはり、アルベルトの戦闘は蹴り主体らしい。スキルにも、足技が得意そうな、強化されそうなのがいくつかあった気がするし、ウサギの獣人だからそのへんに適正もあるんだろう。


今も、飛びかかってくる犬型の魔物を回し蹴りで薙ぎ払っていた。首のところにクリーンヒット、首の骨を粉砕されて力なく墜落する魔物。

その直後、横から来た猿の魔物の攻撃をバックステップでかわすと、そいつがまだ空中に居る間に膝蹴りを叩き込んで浮かせ、追撃の延髄切りでとどめを刺す。


危なげなく戦えている様子だ。こっちも安心して見て居られるレベル。


しかし、さっきも言ったように彼の本来の強さはそこではない。


アルベルトのスキルの中にあって、ひときわ異彩を放っていた『戦略魔法・智』。


コレ僕は当初、戦略『級』の意味かと思ってた。超長距離、あるいは広範囲を攻撃するような、戦略級兵器みたいな攻撃ができるのかと。

しかし、違った。コレ実は……『戦略』に関係する様々な得意な効果を持つ魔法だった。


その説明はさして難しくもない。できることの例を挙げれば、以下のような感じである。


・共闘している仲間に対し、ノータイム、騒音による阻害なしで指示を送る。

・仲間全員と戦況認識を同期させ、戦場の状況をリアルタイムで把握する

・仲間全員の、作戦行動全般に対する記憶力を爆発的に上げる

・戦闘中、仲間全員の思考速度をブーストし、同時に混乱・錯乱状態になりづらくする。


その他諸々あるが……部隊、ないしは軍隊で行動するにあたって、これでもかってくらいに都合のいい、チート級補助能力だ。


直接的な能力強化こそないものの、命令及び報告がノータイムで伝令不要、思考加速、テンパり防止など、戦略家としての能力をフルに発揮し、なおかつそれを味方全体に十全以上にいきわたらせることができ、集団としての軍隊の機能が最大限発揮できる効果がそろっている。


これを使えば、戦場にいる味方全員が、アルベルトの目であり耳になる。

もちろん、見て居る光景や聞いている音が全部そのまま頭に入ってくるわけじゃないが、効能は下手したらそれ以上だ。その気になればそれもできるっぽいが。


何かトラブル、ないし不測の事態があった場合は即座に情報が司令塔アルベルトに伝わり、高速思考やスキル『神算鬼謀』を駆使して対応策を導き出す。そしてそれをまたノータイムで現場に伝える。


そんな感じで、戦場で誰がどこにいて何をしていても、常に全体を俯瞰しての最善手を連携して取れるような、恐るべき司令塔スキル。それが『戦略魔法・智』だ。


もちろん、たいして数がいない相手の時は別に必要ないんだけど、群れに出くわしたりして間断なく敵が襲ってきて、チームで連携して対処しないといけないような場合に、この能力の有用性は……ちょっと言葉で表現するのが難しいくらいのものだった。


何なら、少数対小数の時より楽だ、って感じたくらいだ。戦場にいる全員の行動がかみ合って、最小限の労力で最大限の成果をたたき出すことができた。


その恩恵を受けながら、切に思う。

……絶対にこいつと敵対したくない、と。


☆☆☆


「ふぅ……とりあえず、一息ついたな」


と、アルベルト。


只今僕らは、『旧帝都』の大通りを少し進んだところにある広場、そこにある、休憩所風の小屋で一休みしている。


隠れているから、っていうのもあるだろうが、魔物たちの襲撃は一応峠を越えたようで、広場の中にさえ、その影は見えない。なので、ちょうどいいと見て体を休めている。


念のため、僕の『箱庭セーフゾーン』で気配その他諸々隠蔽し、物理的な出入りすら防止した上でだが。あと、中は気温、湿度共に快適です。仕様なので。


皆、リラックスしてこの時間を休息に当てている。

一応周囲は最低限警戒し、見張りは立ててるけどね。僕の眷属で。


「しかし、大した能力だな……結界と環境浄化を兼ね備えた、即席の休憩室か。実にうらやましい能力を持っているものだ」


「……あんたにそう言われると、嫌味にしか聞こえないんだけど……」


「? なぜだ?」


きょとんとした表情でそう聞いてくるアルベルト。そこにレガートが、


「あなたの能力こそ反則級だろう……味方全てに、即座に情報伝達を図ることができ、思考速度までも強化、なおかつ作戦遂行に支障のある感情の揺らぎを抑制する……。しかも聞く限り、適用させられる人数に限界はないのだろう? 恐るべき有用性を持った能力だ……戦場で振るわれれば、どれだけの猛威を振るうことになるか考えも及ばん……敵からすれば悪夢そのものだ」


「敵じゃないんだからいいじゃないか、そんなに怖がらんでも……まあ、褒めてくれるのは嬉しいがな。それにそんなことを言ったら……そっちの方が私はうらやましいと思うぞ?」


アルベルトはそう返すと、僕の方を見た。


「簡単に説明は受けたが……シャープの能力『悪魔のびっくり箱パンドラボックス』。こっちの方がよほどうらやましいし、恐ろしいと思う。私とて、絶対に敵に回したくない」


言いながら、指折り数えていく。


「無限の収納空間に、任意の性能を持たせてのアイテム改造、快適な環境と強固な防御力を兼ね備えた結界、個人レベルでの保護・強化、食料生産が可能な生産系能力、果ては『眷属』を召喚することによる、絶対に裏切らない味方の作成……言葉は悪くなるが、聞いた時は思わず『ふざけんな』と言いたくなったぞ。たった1人、たった1つの能力で……どれだけの汎用性だ」


「……味方のことだけど、あらためて口にして並べるとすごいわねー……」


と、横から聞こえる声。

横目で見ると、感心と、若干の呆れの混じった声で、ピュアーノがそう言っていた。


そういえば、こないだピュアーノに僕がそれ説明した時も、『マジか』って顔になってたっけな。新入りだから単に驚いてるだけかと、理解が及ぶのに時間がかかってるのかとも思ったけど……やっぱもっと違う理由の感情もこもってたんだろうか?


「まあ……私たち慣れてるから、普通に受け入れてるけど……」


「考えてみれば、普通に考えて、非常識極まりない能力よね、コレ」


と、ビーチェとレーネが。

次いで、他の面々までも。


「俺らは……なんつーか、段階踏んで見てきてるからな。慣れたっつーか、その都度受け入れられたみたいな面もあったかもな」


「ですが、冷静に考えるとコレ、相当に異質な能力ですよ……改めて見てみると、汎用性なんて言葉ではすまないのです」


「あ、やっぱりそうですよね……そう思いますよね。私も実は、初めて聞かされた時はすごくびっくりしましたし……レガートが冗談言ってるのか、騙されてるのかと思いましたから」


「おいフェル、お前なんでこっちに飛び火させた……まあ、それは確かにそうだがな。実際私も、いきなりそんな能力の存在を聞かされたら耳を疑うだろうが……そうだな。フォルテが言っていたように、段階を踏んで、実際に目にしてきたから、ハードルが低かったのかもしれん」


「……何か、皆から散々に言われてるんだけど……何コレ、いじめ?」


「安心しろ、シャープ。全員、これでもかってくらいに褒めとるぞ」


……そうかもしれないけど、とっても喜ぶような気分にはなれません、はい。

だってこんな、人を化け物か何かみたいに……あ、いや僕今魔物だけど。


「確かに私の能力は、戦場で使えば猛威を振るうだろうし、私自身、そうなった場合にこの力を活かしきるだけの力……地力を持っている、という自負もある。だが……それはそれとして、お前の力は恐ろしいし、うらやましい。……軍を率いる立場からすれば、なおさらな」


と、アルベルトは続ける。いつもの微笑みのまま。


「戦において最も重要なものは何かわかるか?」


「……そういう聞き方をするってことは、戦闘力……とかじゃないんだよね?」


「ああ。まあ、1人で敵全部を相手取るような、一騎当千の強者だったりという、極端なケースであればまた別だがな……私の持論では、最も重視すべきは、兵站線だ」


……兵站線。兵站。

簡単に言えば、兵糧とか、武器とかの補給線だ。戦闘を続けるために必要な、あらゆる物資を前線に、あるいは補給用の地点・基地に届けるためのライン。


なるほど、確かに重要だ。

戦闘能力やら武器の性能、部隊の士気……そういったものも大事だろうけど、コレがなきゃまずは話にならない、っていう、根源の部分だ。


食事もせず、武器もなく、その他諸々物資なしで戦い続けられる軍隊なんて存在しない。


……いや、そうでもないか。アンデッドとか、魔法生物系の魔物を兵士にしておけば、そのへんの問題……少なくとも、飲食については解決するし。……つか、僕がまさにそうだな。


ま、まあそのあたりの極端な例はおいといてだ。あくまで、人間の軍隊。


1人の人間が1日に食べる食べものっていうのは、割と多い。

1日何もせず、部屋でじっとしてるとかならまだしも、行軍に戦闘に体を動かし、さらには様々なストレスに耐える日々を送ることになる戦場の兵士に必要なカロリーは、かなり多い。

さらに、栄養バランスにも気を遣わなきゃいけない。健康を損なわないためには。


追い詰められて物資不足の状態とかならともかく、節約してきりつめて、栄養が十分でない状態のせいで力が出せず負けました、なんてことになっては笑えない。なので、そのあたりの補給はきっちり行い、兵士はきちんと食わせる必要がある。

これをおろそかにすると、某『イ』で始まって『ル』で終わる作戦みたいになる。


「通常、そういった物資を運ぶためには、それ専門の『輜重隊』を用意して運ばせることになる。さらにその護衛のために割く戦力も必要になるし……食料そのものへの加工等処理も重要になる。戦地までの距離や現地の気候によっては、傷んでしまうこともあるからな。それを、戦争中ずっと続けるわけだ……そこに割かれるリソースは決して小さくない。が……」


僕を見ながらアルベルトは続ける。気のせいか、目力がこもった感じの目で。


「シャープ1人いるだけで、その分の苦労が、ないも同然になる。兵站線というものの概念やら何やらが、全部ぶっ壊れる。無限の大きさを持つ収納空間……『眷属』という端末を使えば、そこからいつでもどこでも出し入れ自由。さらには、残骸でも何でも素材を用意すれば、武器や防具をその場で作ることができ、強化のための加工すら行える。挙句の果てに、その生産自体に使える能力すら持っていると来た……敵方からすれば、悪夢以外の何物でもない」


「いいじゃん、味方なんだから」


「ああ……本当にな。お互いにな」


なんかさっき似たようなやり取りをしたようなそうでもないような。


お互いに能力を褒め合っているのに、なぜだか疲れるという変な空間が出来上がってしまったので、『お互いこれから仲良く頑張ろうね』ってことで、この話は終わりにすることにした。


……したんだけど、アルベルトは、こんなことを付け足して言っていた。


「正直言うとな、実は私は、そういう意味でも、お前達と組めたのは幸運だったと思っている」


「? そういう意味、っていうと?」


「さっきお互いに言っていたことさ。戦場で、戦闘の際に猛威を振るう私の『戦略魔法』と、その後方を盤石にし、戦の準備の段階からいくつものアドバンテージを築くことができるお前の『びっくり箱』、それを合わせて使って、十二分に運用して行う戦争が、どれだけすごいことになるか……興味はないか? きっと、大陸の歴史に残るようなことだってできるだろうよ」


「不謹慎は承知だけどな」と付け足して言うアルベルトの顔には、隠しきれない、子供のような好奇心ややる気みたいなものが、いつもの笑顔に一緒に浮かんでいるように見えた。





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