第87話 協力締結と今後の方針
「このたびは貴重なお時間を割いていただきありがとうございます」
「お会いできて光栄です、ドラミューザファミリーの皆さま」
ここは、僕ら『ドラミューザファミリー』の拠点。ボスであるビーチェや、その直下の最高幹部である僕らが居を構える本部。
……ということに表向きなっている場所。
『非戦闘員』等を合わせたメンバーが暮らしている本当の拠点とは別に用意した、外部の人間を招く時用の仮初の基地だ。
もっとも、ホントにそうでも遜色ないくらいには整った感じにしてるけどもね。
いつだったかは話した気がするけども、僕は単純作業が大好きだ。
おもちゃのブロックとか組み合わせて、無駄に凝った建造物とか作るの好きだったし、狩りゲーでの採取やら炭鉱夫プレイもどんとこいだし。
なので、素材をそろえてこういう家とか建物を作るのは何も苦じゃないし、楽しんでやれる。
というわけで、この拠点は僕の手作りです。
というか、『ドラミューザファミリー』として使っている、あるいは運営している建物とかほぼ僕の手作りです。
『箱』の組み合わせで作ってるからデザインはシンプルだし、無駄に華美な装飾は省いてるけど、その分機能面では一級品のものがそろっております。
そんな建物――繰り返すがダミーである――で僕らが何をしているのかと言えば、つい今しがた到着した、『ウィントロナ連合国』の使者の方々との会談である。
ボスであるビーチェと、その右腕のレーネ、側近兼護衛としてレガートとフェル、そして最高幹部である僕とフォルテが応対している。自分で言うのも何だけど、豪勢なメンツだ。
なお、リィラはちょっと別件で外しているので、欠席しているが、壁際に飾られているインテリアの鎧の中身が彼女の眷属なので、遠隔でこの会談の様子は観察できている。
もっとも、直接話し合いに参加するのは、こういう場に比較的慣れてるメンバーだけ……ビーチェとレガート、フェルくらいだけど。
こないだ、ここ『トリエッタ王国』の軍隊の侵攻を受け、窮地に陥った連合国だったが、僕らが行っていた仕込みによって、ほぼ被害を出すことなく壊走した。
被害と言えば、そこに至るまでの山林やら何やらを王国軍が踏み荒らしたり、休憩とか野営のスペース確保のために森を切り開いたくらいだけど、それももう元に戻ってるし。
ダンジョンの管理権限を僕が握ってるので、その辺は融通利くのだ。
というかむしろ、その辺の権限を勝手にこっちで抑えてた……言い方を変えれば、人様の土地のボス権限を勝手に獲得してたこととかに文句言われやしないかと思ってたんだけども、どうやらそのへんは杞憂だったらしい。
そのあたりについての、ウィントロナ連合そのものについての体勢とか姿勢みたいなものにかかる話も、使者として来た2人から聞くことができた。
どちらも獣人で、片方は猫耳。多分。
ちょっと犬耳との区別がつきづらいけど、腰のところに見える尻尾が猫の形だから、多分猫。
で、もう片方は……耳も尻尾もないな。
ただ、目というか瞳孔の形が、爬虫類?っぽいし、体のところどころに鱗が見える。手の爪もカギヅメっぽ形だし……トカゲか、蛇か……
で、だ。話を戻して……僕ら『ドラミューザファミリー』が勝手に『ウィントロナ連合国』の山林部分をダンジョン化・縄張り化しちゃってた件について。
一応、他国の土地だし、何かしらお詫びは必要かなと思ってはいたんだが……
「いえ、あのあたりは確かに我らウィントロナ連合国の土地ではありますが、他国との緩衝地帯のような意味合いの方が強い場所です」
「軍事行動などの際はともかく、我々も特に要衝として見ているわけではありませんし……恵みは豊かとはいえ、魔物も出る危険区域であることに変わりはありませんので」
点在する村々についても、危険を承知した上で、住み慣れた地元を離れるのが嫌であえて残っている者達だということで、そこを縄張り化したことについては何もないそうだ。
住んでいる人たちに何か実害があったわけじゃないし。
そもそも彼ら、もともと危険な地域だって覚悟して住んでいる人も多いせいか、実害さえなければ割と色々なことにおおらかな人が多いようだ。
「むしろ、あなた方があそこを縄張りにして以後、猛獣たちの縄張りが安定した上に明確に区分されたおかげで、山の幸を取りに入っていく狩人たちの被害も少なくなっております」
「中央の者達も、全く思うところがないわけではないとはいえ、今回のことには感謝しておりました。今後とも、友好的なお付き合いをしていければ、との方針に定まったがために、こうして使者として我々が派遣された次第です」
「つまり、我々『ドラミューザファミリー』との友好関係の構築は、『ウィントロナ連合国』の総意だと?」
「はい。我々にとっては、安寧の中での暮らしは何物にも代えがたい宝なのです」
曰く、このあたりは国民性と言うか……『ウィントロナ連合国』のもともとの成り立ちに由来する部分が大きい価値観らしい。
あの国は元々、いくつもの小国があつまってできた連合国家だ。
それらは厳しい自然条件ゆえに、規模を考えれば簡単に攻め落とせる大国ですら見て見ぬふりをしていた。占領するうまみがほぼないから。
しかし、小国、そして僻地ゆえに国家運営に苦慮することも多く、それらへの対策として彼らは1つにまとまって『連合国』になったという背景がある。その中には、獣人やエルフのような亜人種族の集落なんかも含まれていたし、その中には他国から迫害されていた者達もいた。
それら全部が『連合国』の一員として国家運営に参加しているわけじゃなく、不干渉を貫いて独立独歩なところもあるらしいが、そのへんは連合国の中央政府も特に気にしてないらしい。
色々な文化・背景を持つ国や集落、種族が寄り集まってできたから、元が寛容なわけだ。
そして、特に国家としての面目や、種族同士のいさかいなんかにも重点を置いていない彼らにとって一番重要視したいのは、他ならぬ『平穏』である。
危険区域すら珍しくない僻地にくらしている彼らにとっては、自分や自分の大切な人たちが安全に暮らせることこそ、一番優先すべきことなのだと言う。
その『平穏』に迫った危機を、僕らは今回未然に防いだ形になる。
なので、実害があるわけでもなく、そもそも日常生活に何の影響もない――何ならもっと安全で豊かになったくらいである――今回の一件を問題にすることはないそうだ。
「『ドラミューザファミリー』の方々との友好、および協力関係は、『平穏』を尊ぶ我々ウィントロナ連合国にとって、むしろこちらから切に望むところであり、叶うなら今後より一層のお付き合いをさせていただければ、と思っております」
「聞けば、今後ますます規模の拡大をお考えとのこと……その際は我々としても、できる限りのご協力をさせていただければと考えています」
「ありがたい申し出ですが、よろしいのですか? 我々はあくまで、国とは違う非公式の組織です。国家が表立って手を取り持つような相手かと言われればそれは……」
「とんでもありません! そのお力は今もってすでに、大国すらやすやすと手出しはできないものでしょう……此度の王国軍の撃退がそれを証明しています」
「何より、我々にとってそのあたりは問題ですらありません。いかに国益となるか、民達に平和な暮らしをさせてやれるか……我らが見据えているのはそこだけです。現にこの話はすでに、王国との国境付近の集落に暮らす者達には伝えてあるのですが、反対の声は全くありませんでした」
その人たちってのは、王国軍の進軍ルート上、あるいはその近傍に村とかがあった人たちだろうな。事前に僕らが対処して避難させたりして、その避難先の住居とか物資とかもある程度用意してあげたから……すごく感謝された、って僕らも部下から聞かされてた。
そういう現場の声もあって、今後僕らと友好的に付き合っていく、っていう方針でまとまったそうだ。
この2人は、その使者として来た。それも、『ダンジョンマフィア』である僕たちに、しかも敵国であるこの王国内部で会う都合上、極秘裏に少人数で来る必要があった。だから、長い旅路も確実に乗り越えられるよう、人間よりも屈強な体を持つ獣人が選ばれたそうだ。
「ただ、我々ウィントロナには、普通の人間達が欲しがるような、きらびやかな宝石などは多くありません。お付き合いの際、交易等の対価として渡せるようなものといえば、食料、あるいは……労働力や、土地などが主になりますが……」
「ご心配なく。そのあたりは我々も承知しております。ただ、それに関連して、我々としても、いくつか連合国の負担にならない範囲でお願いしたいこと等があるのですが……」
「ぜひおっしゃってください、我が国も全力で持って取り組ませていただきます」
その後しばらく色々な話を詰めた上で、その会談は終了となった。
使者の方々には、僕の眷属である『箱』を持たせた。
うちの構成員たちに配っているものほどではないとはいえ、十分に高性能だ。
最小限だが『無限宝箱』へのアクセス権も持っているので、簡単な物資や手紙のやり取りならラグなしの即時でこなせるし。、いざって時には防衛機能もついてるし。
もちろん、このことは使者の2人にも話してある。ちょっと驚いてたけど、受け入れられた。
結果からすれば、ビーチェの予想というか予定以上に実りある内容だったと言っていい。
まさか、国家が全力で後押ししてくれるとは。いくつか秘密裏に、独自に進めようと思っていたプランさえ、行政府の公認の政策として、現地の労働力まで使って進めることが可能になったし。
おおらかで実益重視の国民性で助かったよ。
まあ、彼らからすれば、自分達の特になる部分を取ってなお、こっちの得にもなったわけだから、ほぼほぼ負担でもないのかもしれないけど。
今後、僕ら『ドラミューザファミリー』は好きなように連合国に出入りしていいそうだ。そして、そこで何か事業をする際は、事前に相談をもらえれば、基本的に縛りなしで好きなようにしていいらしい。なんなら、国家として協力・助成すら出すとかで。
主に協力できるものとして言ってた土地と労働力については、どっちも普通に使っていいと。
土地は、山林ばかりだけどむしろ有り余ってるから、これも事前に相談すれば、好きなようにしていいらしい。建物やら作業場を作るもよし、切り開いて畑とかにして物資を作るもよし。
人についても、狩りとかで人手は要るとはいえ、時期によってはやることがなくて暇な人も多いし、そういう人たちをバイト感覚で雇って働かせるのは全然OKだって。
むしろ、物資なり金銭なり、実入りがある分には向こうも歓迎だそうだから。
そもそも……見に行ったから知ってるけど、彼ら、結構過酷な環境で住んでるもんな。
業者とかいないから当然かもだけど、家とか、石作りにしろ木造にしろ手作りだし、住み心地もそこまでよさそうな感じじゃなかった。風雨をしのいで暖をとる分には問題ないんだろうけど、あれじゃ住むにも、ものを保管するにも……って感じの所は少なくなかった。
あの辺が原因で余裕がない集落とかもあるようだったし、そのあたりを『ドラミューザ』で何かの形で支援すれば、その分労働力その他に余裕が生まれる余地もあるだろう。そこをこっちの事業に協力してもらえば、色々とできることも多いはず。
何せ僕の能力のおかげで、建物だの設備だの、すぐに用意できるからな。箱だけど。
それを建設する土地と、そこを回す人員だけは用意する必要があるけど、どちらも連合国が用意できると言ったものだ。そして、それを稼働させること自体が、双方の利益になる。
結果を見れば、この作戦に臨む前のビーチェの狙いは全て達成されていた。
『ウィントロナ連合国』へ影響力を伸ばすどころか、がっちり中央政府とのラインをつなげ、全面的な協力体制すら構築でき、官民双方からの支持すら得た。これで下手したら、この『トリエッタ王国』国内以上に動きやすい環境になっただろう。
皆で集まって食事をしている席で、ビーチェとフェルからそう説明があり、幹部一同感心しつつ喜んだ。
が、その直後……だいたい皆が食べ終わったくらいのタイミングで、ビーチェは切り出した。
「ただ……今回の作戦は100点満点以上に上手くいったけど、これによるマイナス面がないわけではないから、そこはきちんと認識しないとね。今後の活動にも関わってくるし」
「……? マイナス面、っていうと?」
と、レーネ。ビーチェの妹なので、すぐ横の席についている彼女から質問が飛んだ。
「何か、今回の作戦でまずかった点でもあったかな?」
「いえ、正確に言えば……今回の作戦云々じゃないのよね。というか、いつかは直面することになるのは確定だった問題だから、失策の類ではないの」
「? どゆこと?」
「簡単に言えば……私達は大きくなりすぎたのよ。そのせいで、活動を、表にせよ裏にせよ、嗅ぎつけて横やりを入れてくる連中が出てくる、ってこと」
「……? 邪魔とか、因縁つけてくる奴? そんなの、前からいたじゃない。まあ、最近は若い衆がきちんと対応して、場合によっては、盗賊やら敵対勢力のアジトとか更地にしたりしてるから、ほとんどなくなったのは確かだけどさ」
生きのいい人材が、末端部でも育っていっているようで頼もしい限りだ。
確かに、ちょっと表立って活動を続けて、実入りがよくなってきてからは、そういうゆすり集りの連中が寄ってきたもんだけど、遠慮する必要がないから普通に武力で対応してたな。
きちんと厳しい部分も見せておいたおかげで、レーネの言う通り、最近はほとんどない。
ただ、ビーチェが今回言ってるのは、そう言うのとはちょっと違うんだよな。多分。
「いや、そういうケチな連中じゃなくてさ……ここまで事業が大きくなると、そろそろ大貴族や、国そのものが目をつける可能性もあるじゃない? そういうのの対応よ」
ビーチェの言う通り、儲かっている僕らを……しかも裏組織を、この『トリエッタ王国』の行政府が察知して、さあ果たして放っておくか、って話だ。
今までは、各地で末端の組織を介して、あくまで地下組織として色々やってたから見つかりにくかったし、変なのが絡んできても闇から闇に葬って対応できた。
が、ここまで規模が大きくなると、どこからにしろ存在は察知されてしまうもんだ。
広く知れ渡る、っていうようなことこそないだろうが、大国の諜報能力から逃れられるかと問われれば、否だろう。末端からでも少しずつ情報は集められ、だんだんとその存在が露見する。
『トリエッタ王国』の裏社会に君臨する、小国すら上回る規模の軍事力・経済力を持つ、『ダンジョンマフィア』の存在が。
さて、戦争でかつかつの状態になっている――それでも王族とか貴族はぜいたくな暮らしを続けているので救いようがないが――このトリエッタ王国が、そんなもんを発見して大人しくしているだろうか……ってそんなもん考えるまでもないな。
自分達に都合のいい形で、何かしら利用しようとするに決まっている。
賄賂ないし上納金を要求するか、あるいは手っ取り早く潰して財産その他を没収しようとするか、はたまた組織をそのまま乗っ取ろうと画策するか……どういう手で来るかはわからないが、今回の連合国みたいに友好的なものでないことだけは確かだ。
そんな殊勝な、実益やら何やらを考慮した立ち回りが期待できる連中じゃないのは知ってる。
もちろん、そんなことになろうがこちらは仕立てに出るつもりは一切ないし、そもそもそうなることも当初の予定通り、想定の範囲内だ。
だが、対応が必要で、それが結構大変なものであることは確かである。
単に正面から武力衝突したとしても、多分、今の僕らなら負けはしないだろうけど……被害はバカみたいに大きくなってしまうだろう。
いかんせん物量がな。大国の軍隊ともなれば、動員される兵士の数は桁が違うし、一度に多面的に動かれると、僕らでも難しい。
さらに、確か王国には……以前ぶっ飛ばした日本人みたいな『勇者』がまだいたはずだ。
アレも結構なもんだったけど、ああいう感じの一騎当千の実力者もいるであろうことを考えれば、決して油断していいものではない。
いくら外側だけ立派で内側が腐っていても、大国の肩書は伊達じゃない。その『ガワ』だけでもできることは多いし、切り崩すのが難しいのも確かなのだ。だからこそ、お隣の帝国も、そこで獅子身中の虫をやっているウサギ皇子も苦労してるわけで。
「でも、それもあらかじめ想定してたってことは、対抗策はあるんでしょ?」
「ええ、もちろん。というか、ここからは今まで以上に駆け足で行くんだけどね」
そう言って、にっこり笑うビーチェ。
自然と、彼女に全員の視線が集中する。
「ぶっちゃけて言っちゃえば、もう王国って詰んでるのよ。なんなら、このまま何もせずにほっといても自滅してなくなるくらいにはね」
「? っていうと?」
「敵を作りすぎた。自国内をないがしろにしすぎた。簡単に言えば、この2つに集約される」
曰く、自国内の産業その他をないがしろにしたせいで、生産基盤がガタガタになっている。食料自給率とか、資源の入手経路が軒並み他国からの輸入依存になっている。
時点で、今までに攻め落とした占領地あるいは国土からの搾取ね。
そのせいで、仮に今王国が他国からの輸入を止められでもしたら……王国はつぶれる。
自力で物資その他を用意してやっていくことができないからだ。干上がる。
というか、遠からずそうなる。間違いなく。金がなくて。
借金しようにも、返すあてのない借金なんかできるわけもない。他国からは絶望的だし、やろうとすれば力関係で逆らえない小国か、あるいはまた、国内からの搾取になるだろう。
だからこそ、金づるを見つけたら黙っていない、っていう確信もあるんだけど。
僕らの場合、そこに各種物資の生産ラインまでついてくるし。
「今後、この国がたどるルートは……こんな感じかな。
1.金がなくなる
2.物がなくなる
3.戦えなくなる
4.まともに統治もできなくなる
5.滅ぶ
このどこかで、平民その他からの搾取や、私達への攻撃なんかも挟まってくるだろうけどね」
「じゃあ、私達はひたすら守ってれば勝ちなの?」
「それも可能だけど……それじゃ面白くないでしょ? それにそれだと、被害が大きくなりすぎる。 人間、死ぬかもしれないとわかったら何でもするわ。盗みでも、殺しでも。国も同じ……国家運営が立ちいかなくなるその前に、どんなことをしてでも立て直そうとするはず」
「それ以前に、貴族とか王族が、ちょっとでも贅沢ができなくなりそうだ、って思った時点で、補填のためにバカやりそうな気もするけどね」
「ああ……確かにな。あの手の連中にとっての国って、あくまで自分達に見える範囲だもんな」
「土地や民草なんかは、自分達に従って当然、尽くして当然くらいにしか見て居ないから、いざって時に慮る対象に含まれていないのです」
僕、フォルテ、リィラの3人? 3体? も同意する。
自分達の暮らしは保証されて当然、みたいに思ってるバカ共が国を回してるんだよなあ……そのために、末端の国民とかを酷使することをなんとも思ってない。
だからこそ、それができなくなるっていうビジョンが全く思い浮かばない……アホだな。
「どっかの国の軍部の偉い人は、『我々は元々農耕民族で草食動物だから、森の草でも食べていれば兵糧などいらんのだ。食料を送るくらいならその分もっと武器を送って戦わせろ!』とかあほなこと言ってた奴もいるらしいし……。自分は後方で、酒飲んで肉食いながら」
「おい、誰だその頭が沸いてるとしか思えねえお偉いさんは? 聞いたことねえぞ」
「……実話だとしたら、ホントに正気を疑うレベルの阿呆なのです。というか、そんなのを指揮官クラスに置いておいちゃ、勝てる戦争も勝てないのですよ、バカなのですか」
「だよねー……実際負けたしね(ぼそっ)」
今のたとえ話が何なのか知りたい人は、『インバール作戦』を検索してみよう。
戦争の悲惨さがよくわかるだろう。あと、無能な上司が敵より厄介だっていう現実も。
それはさておき、某無茶口レベルかどうかはともかく、この王国が自業自得のバカで窮地に立たされるのは確定の未来であると言える。それをどうにかするために、また考えなしに搾取や略奪を行うという対応も。
それを放置してちゃ、今の状態が笑えるくらいには、国中ますますボロボロになって、その上でやっと敗戦……みたいな感じになると思う。
それだと、治安も悪化して国中が無法地帯になるだろう。食えなくなった農民とか傭兵とかで、盗賊なんかもわんさか生まれると思う。その何割かは、この国を出て他国に行くだろう。
僕ら『ドラミューザファミリー』も、そんな風に世の中が荒れちゃあ、直接的であれ間接的であれ、やりづらくなるし、そもそもそこに至るまでに王国からのちょっかいをかわし続けなきゃならん。面倒しかない。
諸々の問題を解決するためには、この国をさっさと終わらせるのが一番手っ取り早い。
「だからさっき、『駆け足で行く』って言ったのか」
「それもあるけど……ここからはやることが多いの。幹部クラスもガンガン動かなきゃいけないし、西に東に移動も多いからそこにも時間取られるし……何より、いよいよあの皇子様と協力する段階にも入ってきたし」
「え、マジか」
「うん、マジ。で、王国が私達に目をつけるまでにはまだ時間があると思う。ペーパーカンパニーとか、目くらましの手段は色々用意してるし、都合のいい囮もある。さらに今回、『連合国』の協力も取り付けられたから、そっち方面からもかく乱できる。あと数か月は何とかなるはず」
「その間に作戦をさらに進める……ってわけ?」
「ええ。基本的には今までと同様、国の中枢部や要衝以外の所を、経済的、社会的、そしてダンジョン的な面から攻略して支配下に置いていく。そして、それと並行して……帝国に乗り出す」
「「「!!」」」
その言葉に、僕ら一同息をのんだ。
いや……まあ、いつかはは思ってたし、さっき『ウサギ皇子が云々』って話にもなったから、こういう話になってもそりゃおかしくはない。
おかしくはない、けど……とうとう来たか、って感じはするな。やっぱ。
「さっき報告で受け取った、帝国の政策というか、国内産業に対する反応ないし対応を見る限り、あっちも時期だってことを悟ってるはず。向こうは向こうで準備は進めてくれてるはずだから、このまま私たちは……あーでもシャープ、一応『黙示録』で確認しといて」
「おっけー、ちょっと待ってね」
えーっと、どれどれ……クエスト一覧のページを開いて、と。
【挑戦可能クエスト一覧】(一部抜粋)
・『反逆の皇子と逆襲の少女たち』……進行中
・『大戦への道標』……進行中
・『緑の国との同盟締結』……CLEAR
・『狡猾なる兎の蠢動』……進行中
・『開く門、帝国への進撃』……進行中(準備中)
・『獅子身中の虫との再会』
・『帝国3大ダンジョンを攻略せよ!』
(以下省略)
ビーチェにも見せると、ちょっと考え込んで、
「……さすがのネタバレブックも時期までは教えてくれないか。まあでも、大体向こうの様子はわかったからいいとして……」
わかったんだ。こんなんで。すごいな。
ビーチェは、ページの真ん中くらいにある、『『開く門、帝国への進撃』……進行中(準備中)』という記載を指さして言った。
「これ多分、あの皇子様が私達を迎え入れる準備をしてる、っていうクエストよ。コレがきっと……向こうの準備ができたら、準備中の文字が取れるから、そこで私たちが移動すればいいと思う」
「じゃあ、まだ時間的に余裕があるってこと?」
「帝国が経済的な政策に着手した時期を考えれば、そんなに時間はないはずだけどね。けど、動き出したら早いと思うし、今のうちに準備を万全にしておくべきかな……それなら……」
そのまましばらくビーチェは考えた後、『よし』と呟きながら、ぱん、と柏手を打った。
そして、卓についている皆を見渡しながら、よく通る声で言う。
「皆、注目! これより、今後の『ドラミューザファミリー』の活動方針を説明します!」
言う前から注目はすでに集まってはいたんだけども、ツッコむ場面でもないので黙っていた。
それに気づいたかどうかはわからないが、ビーチェは続ける。
「まずバート。これまでどおり支配地域の拡大と、確保したエリアの地盤固めを。エリア拡大はできれば一番いいけど、不必要に目立つようなことになる事態は避けて。トラブルの種は発見次第根絶の方針で、がっちり足元を固めつつ波風は立てないように」
幹部の1人で、『男衆統括』の役割に就いているバートが頷く。
「次、ナーディア。生産部門は今まで通り生産を続行。シャープの『無限宝箱』があるから、保管とか気にしなくていいからガンガン作って。バートの部門とも連携して、支配地域が拡大し次第手を広げて。それと並行して、裏工作用に食料他の物資を一部流すから準備して」
「裏工作用……ペーパーカンパニーを使った、プランKですか?」
と、生産部門統括のナーディアが聞き返す。
プラン……K? えーっと、ABCDEF……そんなにプラン考えてあんの? そして覚えてるの? すごいな。
「そういうこと。あいつらバカだから絶対引っかかるから。ああ、それと……手を広げるとは言ったけど、秘匿性はむしろ厳重さはレベル上げて。囲い込んで、作戦終了まで住み込みで拘束するくらいの対応でいいと思うから。雇われる側も、死ぬよりましだし、納得するでしょ」
「かしこまりました」
「ライラはこれまで通りでいいわ。庇護下にある非戦闘員のお世話をお願い。ただし、今後世の中が荒れてくるだろうから、そうなったらあんまり外に遊びに行かせたりしない方がいいかもだけど。状況を見て適宜判断して」
「はい」
非戦闘員の面倒を見る担当のシスター・ライラが頷く。
「フェルは経済と流通の部門のコントロールをお願い。王国中枢の連中の注目を国外、あるいは囮のペーパーカンパニーに向けさせる必要があるから。ナーディアと連携して上手くやって。レガートはバートと連携ね。『男衆』や『若い衆』は今後戦闘での出番も増えるから、即時対応できるように地力を上げておく必要がある。戦闘技能の教導と連携機能の構築をお願い」
「了解しました」
「お任せを」
「フォルテとリィラは基本的に本部で待機。正直今後、どこでどんなトラブルが起こるかわかんないから、それらへの対応をお願い。退屈させたり、振り回したり、安定しない部署だと思うけど……」
「いえ、必要な役割なのです。心得ました」
「おう、任せな」
「うん、お願い。……最後に、レーネとシャープは……ピュアーノのパワーレベリングを始めるからそっちについて。それと並行して、シャープは『アレ』の調整もお願い。できれば……今回のレベリングに使えれば一番いいし、無理でも今後絶対に必要になるから……悪いけど急いで」
「『トレーニングルーム』だね? おーけー。まかしといて。もうほとんどできてるからさ」
「こっちも了解。……まあ、さすがにいつまでも甘えて、思い出に浸ってちゃだめよね」
「私も最初ははしゃいじゃったし、気持ちはわかるけどね……今は1人でも戦力が欲しいし、実際彼女はこの中でもトップクラスに素質あると見ていいわけだしさ。その……レーネには悪いけど」
「何言ってんの、今更でしょ……そういうのはもう言いっこなしでしょ? 母さんも納得してるっていうか、向こうからむしろ言い出してたしさ」
……レーネとビーチェが話してた会話の真意については……また今度ね。




