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転生箱道中 ~ダンジョン異世界で僕はミミックでした~  作者: 和尚
第4章 王国と帝国という名のエリア
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第86話 王国と帝国



「ええい、忌々しい……あのようなチンケな国1つ落とせんとは、不甲斐ない!」


ここは、トリエッタ王国王都。その中心部にある、王城の一室。

高価な調度品が揃えられ、贅をつくした作りになっているその部屋で、1人の男が悪態をついていた。


既に年の頃は中年をすぎ、壮年にさしかかっている。茶色の豊かな髪の毛には、白髪などは見られないが、顔のしわや、顎や腹の所のたるんだ肉が、年齢相応に衰えつつある肉体を見せている。


その男……トリエッタ王国現国王は、茶請けとして机の上に置かれている菓子をかじりながら、先程から誰に言うでもなく独り言を言い続けていた。


不機嫌の原因は、数十分前に上がってきた報告が原因だった。


トリエッタ王国は現在、隣国であるゲルゼリア帝国との戦争中である。戦況は一進一退であり、どこかで勝てばどこかで負け、を繰り返し……実質的な膠着状態となっていた。


先の帝国の王都強襲のための攻勢をしのいだはいいが、そこで切り札の1つである『勇者』の1人を失ってしまった。

帝国も皇族の1人がその戦いで死んだらしく、結果的に相打ち、ないし痛み分けになったわけだったが、戦力そのものを失った王国の方が、どちらかと言えば傷は大きい。


無論、帝国も皇族が死んでいる以上、無傷などとは口が裂けても言えないが、どうやったのかその傷は即座に塞がれ、ほとんど何の問題もなく領地・国家運営が続けられていたのだ。

強大な戦力であった『勇者』の1人を消失してしまい、しばらく混乱の続いた王国とは、明らかな差だった。


それ以降、目立った進展もない戦況に一石を投じるべく計画されたのが、今回の軍事行動。

北方に国境を接する『ウィントロナ連合国』。特に際立って資源的に豊かなわけでもなく、起伏の多い山林が国土の大部分を占めるため、魅力的とは言い難い国である。


しかし、王国と帝国、両方と国境を接しているこの国は、今の戦況においては有用だった。


もしここを抑える、ないしは安全に通ることができれば、今までは接している国境から攻め込むしかなかった帝国に対し、横撃をかけられる位置が手に入る。それですぐに、劇的に何かが変わるわけではないが、戦略の幅が広がることは確かだった。


だが、王国がそれを狙って使者を送ったものの、中立を保っているウィントロナ連合はそれを拒否。他国との戦争のために、軍を自国に入れることを断った。


予想はしていたものの、それに苛立った王国は、武力行使を決意。ウィントロナ全体とは言わないまでも、南部の行軍に使える土地を切り取ってしまうべく、軍を動かした。


ウィントロナは確かに、自然条件など様々な要因がかみ合って、かなり攻めづらい土地だ。

しかし、『攻めづらい』だけで、『防衛に向いている』わけではない。野山で動きづらいのは、戦いとなれば相手も同じなのだ。


だからこそ、単純に軍事力……数で押せば、被害は出るし時間も少しかかるだろうが、戦えないことはない。そう、王国は睨んでいた。


実際、連合国の軍事力は高くない。本気で王国とことをかまえることはできないだろう。

であれば、一当てして領土を切り取り、実効支配でもなんでもしてしまうことは十分に可能だという結論に達したのだ。もちろん理想は、最初の使者で、話し合いで解決することだったが。


だが、帰ってきた結果は……失敗。

領土のひとかけらも切り取ることはできなかったばかりか、道中で、軍ですらない魔物に襲われ、壊滅状態となって帰ってきた、という報告。


「帝国軍と戦ってならまだしも、あんな田舎の国の野良の魔物を相手にして不覚をとるなど……我が国の恥さらしめが!」


もうずいぶんと前のことになるが、彼が父の後を継いで王位についてからというもの、王国は急速に発展を続けて来た。


国力をフルに使って産業を発展させ、軍備を増強し……周囲の小国をことごとく取り込んで、国力をどんどん上げてきていた。


彼は……国王は、その実績を誇りに思っていた。

同時に、即位前から思っていた、この国をもっともっと強くすべきだという自分の持論・方針は間違っていなかったのだと、それを見て確信していた。


これからもこの方針を続け、祖国を並ぶものなき超大国にすることこそ、自分の使命だと。


(今は単に試練の時なのだ……我が国がさらなる高みへ至るための、一時の苦境だ。それを……今が一番大事な時だと言うことをわからぬ、無能な愚か者どもめがッ!)


帝国攻略の新たな一手となる作戦を失敗したことに苛立つ国王は、次にどう動いたものかと考える。


本来なら、軍部の高官を招いて意見を聞きたいところだったが、今まさにそのウィントロナの件で対応に忙しく、召喚することが可能な者はまだいないのだ。

ゆえに、1人の時間を過ごしていた。


「今回は、指揮官が無能だったのと……運が悪かったのだとしても、このままあのような田舎の国に舐められたままでいいわけがない。いずれあの国は攻め滅ぼすとしても……帝国への侵攻はまた別なプランが要るか……」


今回、王国は連合国を攻めるために、あるいはそのまま陥落させるために、それなりの戦力を動員した。

それがそのまま壊滅してしまった損害は、決して小さくはない。その補填と再編に――人的にも、組織的にも――かかる期間と費用はバカにならないことは、誰の目にも明らかだった。


すでに指揮官は更迭した上、物理的にも首を飛ばしてあるが、上を挿げ替えただけで万事OK、となる話ではないのだ。


しかも、壊滅するにしても、その仕方がまた悪かった。


連合国に入ることすらできず、国境付近で魔物に襲われて壊滅した……というのであれば、まだマシだったかもしれない。

そうであれば、逃げることもできただろうし、王国内であれば、援軍を出すなり、近くの基地に迎え入れて保護するなりやりようはあった。物資もそこから補給できただろう。


だが、今回の王国軍は……表向き、途中までは何の問題もなく進軍できた。できてしまった。

それこそ連合国をそれなりに深い所……行軍するのに有利に使えそうな所まで。


しかし、そこに至って周囲からの魔物の襲撃が加速度的に苛烈さを増し、だんだんと軍隊の力をもってしても対応できないものになっていった。単に数で攻めてくるだけならまだしも、森の中から隠れて忍び寄って強襲してきたり、攻撃に毒が付随してきたりした。


しかも、なぜか急激に成長する植物がそこら中にあり、何度も道に迷い、現在地がわからなくなった。困惑している間に、また襲われた。


魔物の襲撃以上に脅威だったのは、物資の不足だった。

間断なく続けられていた、後方からの補給がいつしかなくなり、大軍はたちまち物資不足に陥った。武器も、食料も、薬もすぐになくなった。


現地で調達しようにも、なぜか進軍ルート上の村々は引き払われており、そこに残されていた食料は毒で汚染されていた。食べたもののほとんどがまともに動けなくなった。


森で獣を狩ったり、野山の山菜や果物を探すのはもっと無謀だった。似たような見た目の紛らわしい、毒草や毒キノコなどが当然のように混じっているし、そもそも探している間にも普通に魔物は襲撃してくる。


場所はわからない。物資はない。魔物は襲ってくる。

なまじ奥地まで進んでしまったために、簡単に撤退するということができなかった。

行く地獄、戻るも地獄。


結局、多大な犠牲を出しながらも、どうにか連合国を抜け出た王国軍は、帰り道に飢えと渇き、そして魔物の襲撃でさらに数を減らしながらも、どうにか王国へ戻ってきた。


その数は、出発時の2割を下回っていた。

その後まもなくして、病や毒で結局死んだ者を加味すれば、1割を切った。


そのような報告を、王は書面で受け取っていた。

誇張しすぎだと、責任逃れだと一笑に付し、指揮官を処罰したが、これが10割嘘であるということもないだろうと思っていた。


少なくとも、あの国にまともに王国と戦える軍備などない以上、本当に自然環境や魔物には厄介なものが生息しているのだろう、とは思えた。


「忌々しいが、軍の再編を急がなければならん以上、向こうに差し向ける戦力はない、か。ならば少しでも早く、帝国と戦うための軍備の増強に注力・集中した方がいいな」


王は頭を切り替え、その為にどうするか、何ができるか、と考え始めた時だった。

こんこん、と、今いる部屋の扉がノックされる。


「? 誰だ?」


「お父様、私です」


扉の向こうから帰ってきたのは、若い少女の声だった。

それを聞いて、王はすぐに緊張感を解く。よく知っている声だったからだ。


「カリーナか、入れ」


「失礼いたします」


許可を受け、部屋に入ってきたのは……華美なドレスで着飾った女性だった。


まだ年若くはあるが、既に『少女』と呼べる年齢は過ぎているように見える。

すらりとしたやせ型の体躯。ストレートの明るい茶髪を背中まで伸ばしていて、顔立ちは整っているが、気の強そうな目が特徴的だった。口には、赤紫色の紅をさしている。


その女性は……この国の王女の1人。名をカリーナという。


「お父様、軍部からの報告を聞きました。かの国にて大敗を喫したと」


「ああ……そうらしい。不甲斐ないことだ。我が国が大事な時にあるというのに」


「全くですわ! かような恥をさらす無能な指揮官に軍を預けることなどできません、即刻罷免して、軍を取り上げてくださいませ!」


「案ずるな、娘よ。既にそう命じてある……次はもっとマシな奴を選ばねばな」


「まあ、さすがですお父様! さすがはかつて、武門にて辣腕を振るわれたお方……期待しておりますわ!」


カリーナのその言葉を聞いて、王はささくれ立った心が幾分和らぐのを感じた。

愛する娘にそう言ってもらえるならば、部下の無能に心を痛め、時間を割いて仕事をこなした意味もあったというものだ、と。


「任せておくがいい、あんなちんけな国、力が戻ればすぐにでも攻め滅ぼしてやるわ! ……だが忌々しいことに、すぐにというわけには行かんがな。準備には時間も金も必要だ」


「まあ、今までのようにあるところから持ってくるわけには行きませんの?」


「そう簡単ではないな……奪う相手がいなくなってしまった。国が大きく、強くなりすぎたのも原因の一つか……ははっ、ままならぬものよ」


現在、王国と帝国が侵略戦争を繰り返してきたことで、周辺にめぼしい小国はもはやなくなっている。今までのように、自国の損害を、他国から奪うことで補填することはできない。


残っている国はほとんど、一筋縄ではいかないレベルの大国ばかりだ。帝国以外とは、刺激することが得策ではない現状、正式な国交という形で関係を保っている。


「もっとも、いずれは全て滅ぼして取り込んでしまうつもりだがな」


「その意気です、お父様! しかしならば、こういうのはどうかしら? 国外から奪うことができないのなら、国内から搾り上げてしまえばよろしいのですわ」


「ほう? どういうことだ?」


「簡単ですわ。適当な、反抗的な貴族を、何かしら理由をつけて取り潰しにして、財産を没収するのです。私、前々から思っていたのです。この国の華々しい未来のために、日々お父様は身を粉にしているというのに、それを理解できない愚か者どもが多すぎると! 此度の出兵も、無謀だの、費用対効果だのと言って反対した者が幾人かいたと聞いておりますわ!」


「ふむ……なるほどな」


「罪人からであれば、財産を没収しようと何も問題はありませんわ。国家反逆罪あたりが一番いいですわね。一族郎党殺してしまえば後腐れもないですし、その責は、周囲の家臣にも及びます。従順な者だけ残して、反抗的な者は殺してしまいましょう。領民は奴隷にして……そこから助ける代わりに兵役を科すとして救済すれば、お父様に心から感謝して、国に尽くすことでしょう」


「おお、素晴らしい策だ! さすが我が娘……よし、そうしよう。これを機に、国内の膿を出し尽くすのだ」


「はい、がんばってくださいませ、お父様!」


親子そろって、頭の中は似たような構造をしているらしかった。

娘のありえない進言を受け、短絡的にもほどがある決定を頭の中で下した王は、さっそくその方策を実行すべく、部屋に備え付けのハンドベルを鳴らして人を呼ぶのだった。


鳴らしてから、ふと、王は思い出していた。


まだ、彼が王位についていなかった頃……同じように、自分の方針に、さらには当時の国の大勢いにさえ異を唱えることの多かった、身の程知らずの貴族がいたことを。


最早名前も覚えていないが、結局あの家は、権力争いで姦計に嵌められ、没落したはずだった。

その際、前々から王家が目をつけていた、家宝だという宝剣を接収した。『勇者』の1人であり、他ならぬ目の前のカリーナと結婚させた男に持たせていたが、先の戦いでそれも失われていた。


(ちっ……嫌なことを思い出した。まあ、言うほど大した剣ではなかったから別にいいが……忌々しい。どうしてこうも思い通りにいかんのか。私の考えというものを理解できる有能な輩が少なすぎる。我が娘を見習ってほしいものだ)


悪態をつきながら、家来が来るのを待つ間、王はまた茶菓子をほおばる。


有能であり、民にも慕われていたはずなのに、邪魔だからという理由で見捨てた『ロニッシュ家』に対して申し訳なく思うような殊勝な気持ちなど、どこにも持ち合わせていなかった。


☆☆☆


ところ変わって……こちらは、その王国と戦っている、ゲルゼリア帝国の側。

その帝都は宮殿の深部にある、会議室。そこで、喧々諤々の議論が展開されていた。


「王国は此度の負け戦で大きくたたらを踏んだようですな」


「この隙に攻勢をかけるべきでは? 以前の王都強襲作戦の際の傷は、わが方にとっても小さくはないものでした……どこかで取り返さねば」


「いや、そこまで急ぐ話でもなかろう。相手が勝手に自滅してくれたのだ、立て直すのに苦労しているのは向こう……この間によりこちらは国力を盤石にだな……」


「生産もそうだが、こちらも戦に有用な環境の開拓に力を入れるべきではないか?」


娘からの進言、ないしは妄言で方針を決めた、隣国の国王に比べれば、はるかに建設的な議論がかわされていたが……こちらはこちらで、十分凝り固まった内容、ないしは方針だった。


少なくとも、皇族の1人としてこの会議に参加している彼には、そう思えていた。


(まあ、定石ではあるが……毎度毎度同じ話しかせんな。やる意味があるのか、この会議?)


「アルベルト殿下はどうお考えですかな? 一軍を預かる者として、ご意見をお聞きしたい」


と、話を振られた彼……アルベルトは、心の中に浮かんでいた少々の呆れを微塵も表に出さず、いつもの笑顔を顔に張り付けて、それに応じる。


「そうだな……私なら、先程も財務大臣から意見が出たように、足元を盤石にするだろう」


その言葉に、おぉ、と幾人かから感嘆の声が漏れる。

自分の意見を後押ししてもらった形になる、財務大臣のそれも含まれていた。


「皆、承知のこととは思うが……このところ、国内外の流通が活性化している。戦争特需、とでも言えばいいのか……まあ、戦争に伴って雇用やら需要が生み出され、色々な産業が恩恵にあずかっているわけだ。戦争はバカみたいに物資を消費するからな」


「ふむ……言い方は多少トゲはありますが、その通りですな」


「それがどうかしましたか? こう言っては何ですが……まあ、当たり前のことでしょう?」


「そう、当たり前だ……だが、この当たり前に例外がある」


ぴっ、と、人差し指を立てて注目を集め、アルベルトは言う。


「他ならぬ……お隣の王国だ。あの国は自国内の産業を……特に、戦って接収したそれを大事にするということを知らんからな、戦いが長引くにつれて、それらがどんどん擦り切れてすり減って、悲鳴を上げ始めている。既にあの国は、自国内だけで戦争を続けて居られる状態ではない」


王国にとって、占領した他国は大切に扱うようなものではない。敗者には一切の権利はない、とでも言うかの如く、全てを奪い取り、搾り上げ、残りかすすらむさぼり……何もでなくなったら捨てる。そうして今までやってきた。


ゆえに、下支えになる供給源がなかなか育たなかった。国そのものが肥大していったにも関わらず、単体でそれを成り立たせるだけの力を持っていないのだ。


その結果どうなったか。


「現在あの国は、友好国……まあ、『今のところの』というのが頭につくかもしれないが、それらの国からの輸入に頼って国家を運営している。食料は主にフルフォンフ共和国から、工業資材は主にユグノー大公国あたりからだな。その他の細かいところはノドーナ民国やディアイエ帝国だが……あのあたりは早くもと言うか、そろそろ王国に見切りをつけそうな気配もある」


「ふむ……確かにかの国は、単体で戦争できる状況にありませんな」


「すると、それらの国に帝国から働きかけて、供給をやめさせれば、我らに一気に有利になると?」


「いや、あくまで国と国との付き合いだし、横から口は出せん。彼らからすればただの商売だしな。王国に支払う金がなくなれば勝手に離れていくだろうが……ただ、帝国の場合は、彼らに頼る必要がない。少なくともしばらくはな……国単体で自給自足できるだけの生産能力がすでにある」


食料自給率、工業資源の生産地、それらを加工する設備……それらを全て国内に備える帝国は、極端な話、他国に頼らずとも必要なものを調達できる。

戦争が長引き、消費がどんどん増大すればその限りではないだろうが、仮に他国との取引が全くなくなってしまっても、すぐに困ることはない。


それに対して王国は、自国内の産業が……表面上は活性化しているように見えても、資源の調達や生産能力が虫食いだらけである。他国との取引、そこからの供給がなくなれば、たちまち窮地に立たされるだろう。これまで、自国内の産業の土壌をないがしろにしてきた結果だった。


「注目したいのは……今すでに兆候が見られるが、それらの国際取引の値段が上がりつつあることだ。戦争のために、食料や資材が湯水のごとく消費されるおかげで、すでに品薄になるものが出始め、供給が追い付かず、流通が枯渇するルートも出てきている」


「……! 遠からず、他国からの輸入に頼った資源確保ができなくなるということですな」


「そう……誰も何もしなくとも、このままいけば確実にそうなる。フルフォンフもユグノーも、自国内で余る、余裕がある分を輸出しているだけだから、それらが全て金に変われば……な。そして先程も言ったように、そうなった場合……我ら帝国と、王国とで、困るのは片方だけだ」


再び、おぉ、と感嘆の声が上がる。今度は、先程よりも大きく、会議室全体から。


「遠からずそうなる。少なくとも、近いうちにそれに近い事態になる。そうなった時に失速しないために、我々はより一層足元を固める必要がある。そうすれば、我々は何も変わらずとも……向こうから勝手に転落していってくれるだろう」


その後、アルベルトの意見を皮切りにして、会議はさらに活性化していった。


どの分野、どの品目の生産に力を入れるべきか。他国への根回しは必要か。状況把握のために、調査員を増やして配置するべきではないか……etc。


そんな様子を眺めながら……アルベルトは、この先のことを考えていた。

ただし、議論を白熱させる彼らとは……全くの別方向に。


(もっとも、そこから帝国がたどる道筋は、今彼らが見ているものとは全く別だがな……。確かに王国の屋台骨はガタガタだ。嘘はない。他国依存で、自国の下支えはほとんどない……が……)


ニヤリ、と、その口元の笑みがわずかに深くなる。

直後にはすぐに消えてしまったが。


いかんいかん、と、アルベルトは適度に表情金を引き締める。会議に参加している他者に、見られることのないように。


(その土台、ないしは土壌は今もある。すでに生産能力は無くなっているとはいえ、それはかつては確かにあった。条件さえ整えば、十分な生産能力を発揮できるはずなのだ。それを復活させたうえで有効活用することは、あの国の王政府には不可能だが……彼女たちならそれができる)


脳裏に思い浮かぶのは、先だって協力関係を結んだ少女たち。


黒髪の吸血鬼と、桃色髪のハーフエルフを頭目と右腕に、エルフや人間の手勢からなる組織。

そして、アルベルトと同じ……『黙示録』の所有者である『王宝牙棺キングギフト』を筆頭に、様々な無機物系メインの魔物の軍団。

それらの構成によってなる……『ダンジョンマフィア』の一団。


恐らくは、王政府を除けば、いや、裏社会では既にあの国随一の影響力を持つに至っているであろう者たち。アルベルトの、心強い協力者。


(『ドラミューザファミリー』の産業掌握規模は、現状で既に無類だ。当然だな……王国が、そしてそれが占領した国々が持っていた生産機能をそのまま掌握しているに等しい。国家運営には最高の『下支え』であり、戦争に終止符を打つ決定打にもなる。そのためには……私も、私の仕事をしなければな。彼女たちの助けになるように……そして、本格的に動き出すときのために)


王国の生産能力と、帝国の執政機能・統治機構、そして、アルベルトの手勢と『ドラミューザ』が独自に持つ人脈や戦力。


それらを十全に生かした、『本番』とも呼べる戦いが来た時のために、アルベルトはその頭脳をフル回転させ、未来予想図とそれに至るプランをより精密なものにしていく。


それを発揮する時は、もう間近に迫っている、と肌で感じながら。





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