第84話 裏工作パート
どうも、お久しぶりです。
最近……どころじゃなく開きましたが、半年ぶりに更新させていただきます。
結局、『ウィントロナ』で一番の強敵は、やはりあの『マッシュロード』だった。
アレを討伐してエリアを制圧した後は、『シェイアーガー』の出番もなく、普通にその周辺のエリアを含めて制圧・吸収を完了。僕らの作戦行動は、つつがなく終了した。
そして、『気づかれずに完遂する』っていう努力目標もクリアだ。
色々な理由で、僕らがこの国の領土に入って色々やってたってのはあまり知られたくないし。だからまずは少数精鋭で来たんだし。
大軍を相手にすることになった『マッシュロード』との戦いがちょっと怖かったけど、相応に奥地での戦いだったことが幸いした。少々騒がしくはなったようだが、僕らの存在が露見した様子は……今のところないようだ。都市部に潜り込ませているスパイ達からの連絡では。
そしてだ。ここからこの国での仕事は、そのスパイたちにバトンタッチするのである。
さっきも言ったように、僕らは基本的に……『ウィントロナ連合国』に入ったということを知られず、外側から『ドラミューザ・ファミリー』の看板をきちんと掲げてコンタクトを取り、徐々に浸透してくる……という形にしたいと思っている。
最初から、『トリエッタ王国』から守ってやるという話を持ち込んで、恩を売る形で関係を作る……という選択肢はない。実力的にはともかく、今、そこまで目立つわけにはいかない。
それに……こないだの『勇者』のこともある。
調査結果によれば、王国が召喚したという『勇者』は、あの時戦った1人だけじゃないらしい。まだ同じようなのがいるのであれば……警戒しておく必要がある。
その為にも、今回の『ウィントロナ』での戦いは、背後に僕らの関与を疑われない形で妨害する必要があるし……無理だと思ったら深追いせずに引くことが大事だ。
ウィントロナ経由のルートを王国が握っても、そこまで致命的ってわけでもないし。
ただまあ、できれば阻止したいのも本当なので、それなりに力は入れる。
その上で、バレないようにする。
どうするかというと……こないだのビーチェの話を覚えているだろうか?
『これを機に、『ドラミューザ・ファミリー』の影響力をウィントロナにも伸ばすわ。そのためにリィラ。あなたが新しく手に入れた能力を使いたいの。この手段……それなりに強力な、それなりの数の人手がいるからさ』
こんなことを言っていたわけだが、ここでこの、リィラの新能力が出てくるわけだ。
リィラにも実は、僕の『眷属小箱』のような、眷属ないし配下を作り出す類のスキルがある。僕のスキルほど汎用性はないし、燃費が悪いなど、扱いづらいが。
ただ、リィラが作り出す配下は……ぶっちゃけて言うと、ロボットみたいな見た目なのである。それも、人型の。二足歩行の。
パペット系のスキルに『人形遣い』ってのがあるらしい。恐らくはその類型だとは思うんだが……何というか、非常に僕好みな外見をしている。
それがどうしたのかって? もちろん、この能力を重要視する理由は、形だけじゃない。
この能力で作ったリィラの眷属……仮に『機械人形』とでも呼ぼうか。こいつらは、僕の『絡繰細工』で改造することが可能なのだ。
普通の道具とか、他の魔法生物系の魔物でもできなくはない。実際、今まで僕はいくつも改造武器を作ってきたし、フォルテの外見とか仕込み武器、『シェイプシフター』だったころの僕の体そのものなど、色々と魔法生物系の魔物の体もいじってきた。
だが……こいつらは、いっそ異様なまでにその幅が広い。
本当に、プラモデルでもいじってるみたいに、あれこれ好き放題弄り回せる。
ひょっとしたら、僕やフォルテの影響を『杯』のスキル経由で受けているのかもしれない。
その特性を生かして、色々と後付けで能力・武装その他を組み込むことが可能な上……なんと、僕が『眷属小箱』で作った眷属を組み込むことまでできた。
まさかの、眷属同士のアナログ『合体』である。いや、カスタムとでも言うべきか。
そして、眷属はその主の影響を受ける。つまり、僕とリィラの。
なんと……リィラの能力『擬人化』が使えるのだ。
僕の眷属では、能力不足なのか使えないが、リィラの眷属は使える。すなわち、人に化けて、人間の中に紛れ込むということまで可能なのである。
ただし、眷属の魔物の例にもれず、リィラの眷属も頭はちょっと弱い。単純な命令なら十分こなせるものの……複雑な命令をこなしたり、臨機応変かつ柔軟な対応、っていうのができない。
そこで輝くのは、『ロボットドール』のまた別な特殊能力。
100でも200でも数をそろえられる僕の『眷属小箱』と違い、リィラの『機械人形』は一度に数体しか作れない。しかし、その分強力な特殊能力がそろっているのだ。
そしてその1つが『遠隔操作』。
PKO活動……だか何だかで、地雷除去だか危険区域探査だかに使われているような、遠く離れたところでコントロールするような機械の話はよく聞く。人間には出向くのが難しい場所にあるから、自分は安全なところにいて操作するわけだ。
これを、リィラは全ての感覚を結合させたうえで行える。
『テレイグジスタンス』って知ってるだろうか? 『遠隔存在感』ないし『遠隔臨場感』と直訳できるテクノロジーで、遠く離れたところにあるものや出来事を、あたかも近くにあるように感じつつ、リアルタイムで現場の機械ないしロボットを操作する、という技術だ。
昨今有名な(地球でだけど)VR技術の一種というか、一分野である。
これを応用して、今言ったような危険作業の他、例えば遠く離れたところにいる名医がロボットを操作し、病院にいる患者の手術を行ったり……なんてこともできるらしい。
それと同じことを、リィラもできる。離れたところにいる眷属に感覚を接続し……あたかも自分がそこにいるかのように操ることができるのだ。幽霊になって憑りつく感じに近い。
もちろん、リィラ本体に比べれば戦闘力は各段に落ちるし、この状態になるとリィラは、1人で2つの体を動かさなきゃいけない。
今『幽体離脱』からの『憑依』を例に出したけども、『遠隔操作』は、元の体との接続が切断すわけじゃない。なので、負担が大きいというか……疲れるのである。
本体をベッドにでも寝せて、眷属を集中して動かせるようにでもすれば大丈夫らしいが。
ただこれ、一度に複数の体を動かすことになれれば、1人で2つ、3つの体を同時に動かして戦えたりもするってことなので――脳みそが2個3個必要になりそうな気もするが――気長に頑張ってもらえないかな、と思う。
さて、話を戻すと、この能力で何をしたいのか、だ。
つまりこの能力があれば、リィラは……眷属をあらかじめそこに配置しておけば、その場所に一瞬で出現できるに等しいのである。
この世界に『テレポート』の類の魔法があるのかどうかは知らないが、現在、僕らの移動手段は、一番早くて大人数が移動できるもので、僕の『バス』だ。それはそれで十分早いが……今回の行先は国外である。僕でも移動に日単位の時間を要する場所であり、とっさの動きがとりづらい。
そんな時……僕らが制圧したエリアと、この『眷属』+『遠隔操作』の力が役立つのだ。
あらかじめ、エリア内のどこか安全地帯にでも、リィラが作り出し、僕が魔改造した『眷属』を作って配置しておく。そして、『ウィントロナ』で何か緊急事態が起こったら、リィラが『遠隔操作』でその眷属にラインを繋ぎ、疑似的にではあるが現地に行って対応する。
こうすれば、バス(僕)で数日かかる日程を一瞬に短縮できるわけだ。
王国軍が進軍を始めるまでまだ日はあるが、念のため、ってことで。
それに……これらがかつやくするのは、むしろその『進攻』の後だしね。
僕らはすでにウィントロナの南側10%ちょいを影響かに置いている。もうそろそろこの辺でいいかな、ってことで……これからそれらの準備に取り掛かるつもりなのだ。具体的には、4体くらいリィラの『眷属』を作り、それを改造して各エリアに配置する。
それをもって、僕ら『ダンジョン・エリア攻略部隊』、この国での仕事は終わり。
エリアはともかく、ダンジョンはなかったのはちと拍子抜けというか、残念だったな。まあ、作戦に直接かかわってくるわけでもないし、別にいいけど。
☆☆☆
さて、僕らの仕事は終わったところで……今後、この『ウィントロナ』でどう動く予定なのか、それをおさらいがてら説明するとしよう。
このウィントロナは、ほどなくして王国軍が侵入してくる見込みとなっている。外交で『来るな』『通らせろ』とか色々やっているらしいが……ウィントロナとしては、王国と帝国、どっちにも味方したくないらしいし。
しかし、おそらく王国軍は攻めてくるだろう。そして、ウィントロナ全土と言わずとも、南側の何割かを持っていかれるだろう。
国力で決定的に劣るウィントロナは、いくら外から攻めにくいと言っても、進攻を完全に防げるわけでもない。それに王国には、勇者のような一点突破型の戦力もいる。
最悪、南側のいくらかを切り取られる覚悟もしているはずだ。それで済めば、と。
……済まないと思うなあ……今はよくても、後から調子に乗ると思う。
で、それをもちろん僕らが座視しているわけもなく……邪魔します。
具体的には、エリアの魔物を利用して襲って、軍を敗走させます。
エリアボスとなっている僕は、全てがそうではないとはいえ、そこに住むいくつかの魔物の支配権を持っている。ボスとしてエリアに配置するような魔物を強化したりできるのだ。『黙示録』そのものの成長も相まって、色々とできることが増えて来た感じがあるな。
具体的には、ある程度以上の知能を持つ魔物であれば、使役することができる、といった感じである。ただし、絶対的に隷属するとかいう感じじゃないので、あくまでペット感覚だが。
それに加えて……変身能力を持つ眷属である『変幻罠魔』を使って、外見をごまかした魔物なんかもいくつか作って配置しておく予定だ。普通の野生の魔物では対処できないような敵が出てきた場合でも、僕の眷属なら大体何とかなる。勇者でも出てこなければ。
そうして、まずは王国軍については撃退するわけだが……その裏でさらに色々する。
まず、帝国との直接戦闘に比べれば劣るとはいえ、戦争は戦争。人だけでなく、物資もそれ相応の量が必要になる。食料とか、武器とか。
それを今、それ専門の部署をフル稼働させて作ったり、他国から買い付けたりしているわけなんだが……それを、表の顔、ペーパーカンパニーを介して王国軍に売りつける。
そこで、僕らがもうけさせてもらう。
それも、相場を調整してだ。
王国は今、決して物資も資金も豊かとはいえない状況だ。戦争して併合した他の国から奪いまくってるから、表面上は羽振りがよく見えるが、その実、その収入が『続かない』形になっている。
果物のなる木を、実だけ取って残しておけば、来年もまた実がなるだろう。だが、木を切り倒して材木にし、薪にするなり、建材にするなりしてしまえば、それっきりである。
つまりはそういうことだ。侵略して一時的に搾取しても、それが続かないのだ。
搾取するにもやり方はあっただろうに……戦争中という状態がそれを許さない。勢いよく搾り取りすぎて、後が続かなくなった。
結果、都市部以外の所では、買い物しようにもそもそも物資がない。なので、途中途中にある基地なんかから補給するわけだが、それだって余裕があるわけじゃない。
なので、国中に手を回し、あちこちから買い付ける必要に駆られている。
それを逆手に取り……王国の軍部に、手近で手ごろな取引先として認知されているいくつかのペーパーカンパニーを使って、高値で物資を売りつけているのである。
加えて、基地も都市もない田舎……それこそ、これから王国軍が進む先である、王国北部では、そういう買い付けができる店がそもそも少ない。なので、完全にこっちが主導権を握れる状態だ……向こうは、僕らの息のかかった業者から買う以外にない。
まあ、やりすぎると面倒なことになりかねないから、調整はするが。
……逆に、僕らの息がかかった業者がいなかったとしたら、どうするつもりだったんだか。途中で略奪でもするつもりだったのかな……あり得るから困る。
実際、ウィントロナに入った後はそうするつもりだっただろうしな……点在する町や村を襲って、食料や奴隷を調達するつもりだっただろう。そしてそのまま進軍し、領土を切り取って実効支配、帝国との戦いにおける進軍ルートに……という感じ。
実際には、その目的は半分以上達成されないわけだが。
魔物をけしかけて引っ掻き回すのはもちろんとして……途中の村々には、軍が来るタイミングで、必要なら避難勧告を出して避難させる。少数で奇襲かけてきたりとか、そういう可能性もあるし。そうでなくても、善意の第三者(何者かは明言しない)を装って彼らを逃がし、極力死人が出ないように助ける。この辺は、構成員たちに任せる予定だ。
全ての村に護衛役の魔物を配備して守るのは無理だ。
その前に王国軍を敗走させるのも難しい。
だからこんな風に、村のいくつかはあえて捨てる。人間だけは非難させて、村は……食料とか家畜をほとんどそのままにして、捨てて出てもらう。もちろん、その後の食料とかはこっちである程度面倒見るが。
そして、村に残してある食料には……毒を仕込む。
それも、無味無臭の上、すぐには効かず、後になってから徐々に体内で凶悪になってくるタイプの……病原菌に近いものを。感染とかはしない。あくまで毒なので。
……我らが薬師様がまた張り切ってくれました。ホントに最近、レーネ有能。
食べ物にそういうことするの、あんまり好きじゃないんだけども……まあ仕方あるまい。
悲しいけど、これって戦争だもの。しゃーぷ。
で、それもあって軍隊はガタガタになる見込み。
進軍は失敗し、そこから帰る途中で……また襲う。魔物で。
そしてそれをしのいで、命からがら王国に帰ってきても……その北部でとどめにまた襲う。そのへんのエリアとかも制圧しておいて。
加えて、避難させた村人たちは、他の村に避難させつつ、ここでまた別なペーパーカンパニーの名前で自己紹介し、食料の提供とか援助を申し出るわけだ。
そのペーパーカンパニーは、今潜入中のスパイたちが立ちあげている最中である。最低限の業績やつながりを作って、活動する際に極力怪しまれないようにするために。
そのラインで、王国軍撃退後、村々に、ひいては地方に対して影響力を作る。そして今後、それを足掛かりにこの国に影響力を伸ばしていくわけだ。
また、帰る場所がない、あるいは村の受け入れ能力がなくて路頭に迷う結果になりそうな者達については……『他国、あるいは僻地でよければ行くあてはある』と言って……『ドラミューザ』の管理下にある集落や町、村、あるいは住み込みでの作業場に紹介する、なんてことでもいいかもしれない。労働力としてなら、人手はいくらでも需要あるしね、今んとこ。
そんな感じで妨害工作に走るわけだが……さて、仕事そのものはひと段落ついたけど、これからは別ジャンルで忙しくなりそうだ。
ここからは経済と裏工作をメインに戦うことになる。そして僕は、バックヤードに回って色々やることになるだろう。……僕の能力、今思い返しても、暗躍や裏工作に向いてるの多いしね……。密輸とか、密造とか、違法改造とか……その他色々……。
繰り返すけど、戦争だし仕方ないよね。
ああ、あともう1つあった。
こないだ、うちの本部の方に、ちょっと宅配便?が届いた。
僕ら『ドラミューザ』のことを調べようとしても、外から調べても元の所にはたどり着かないようになっている。下請け、下請けの下請け、そのまた下請け……って感じで階層構造になってるから。下っ端から1段階上って探るだけでも大変なようになってる。
なのに……僕らのいる本部に限りなく近いところ、『男衆』達が拠点にしてる、カモフラージュも完璧なはずの所に、届け物があった。
ちょっとびっくりすると同時に警戒したけど……送り主の署名を見て、『なるほど』と思った。
そこには、たった一言……『ウサギ』と書かれていた。
……あの皇子様なら……まあ、不思議じゃない、か。
そのくらいの頭脳持ってるようだったし……『黙示録』もあるしな。
ところで、問題は中身だ。
見たところ、食糧品……それも、日持ちするものの詰め合わせのようだ。なるほど、これなら……仮に開けられて改められても、特に今こういう商品のやり取りが活発化している状況だ。不思議でも何でもないだろう。
しかし、どうやら本命はその中に、隠すというか埋もれるように入っていた……1本の剣。
見た目、長剣みたいに見えるけど……やたら細いな?
刺突剣……いや、細剣か? しかも何か、年季入ってるように見えるな……
……っていうか、柄の所に入ってる紋様に、見覚えがあるんだけども……?
そしてなぜか、それを見て……あの鎧に引き続き、またしても、と言っていいのか。
レガートとビーチェを含む、『ロニッシュ家』の関係者が……目を見開いて驚いていた。
そしてその後、レーネとその剣を順番に見ていた。
……えーと? 今度は何ですかね?
とりあえず、話聞く前に『鑑定』で先んじて物品の情報を拝見いたしますと……ああ、なるほど。こら驚くわ。
そしてレーネ見るわ、そりゃ。
★品 名:ロニッシュ家私兵のレイピア・改
レア度:4
説 明:ロニッシュ家の上級私兵に配布されていた装備の改良品。
量産品を後付けで魔法金属等で補強・強化しているため、他のものより頑丈。
本品は騎士ピュアーノ・セライアにより使用されていた品である。
…………たしか、もう1個か2個あったな、『あの』アイテム。
こりゃ……幹部、もう1人増えるか?
何か色々設定盛りすぎたというか……すでにいくつか活用してない死に設定が出てきてるのは、作者として力不足を嘆くばかりです。
きちんと完結はさせたいなあ……そのあとリメイクなりなんなりするとしても。




