第73話 『枯れ果てた鉱山』
元々が自給自足の狩猟民族や、貴族仕えの兵士(準公務員?)であるだけあって、みんな仕事はきっちり真面目にこなしてくれる。
自主的に色々考えて工夫して、しかし余計なことはしないように注意して……期待以上の成果を出してくれている。
スラムや闇市は、だんだんと僕らのグループの庇護下に置かれている店が増えてきて、もうちょっとすれば、常連の店では入っていないところの方が少数派になる勢いだ。
たむろしてるチンピラの中でも、徐々に『手を出したらやばい連中』だっていう評判が立ってきてるせいか、僕らや、僕らの庇護下の店を避けていく連中も多い。
それでありつつも、普通に店を利用する者には害をなさないのも知られているので、店の売り上げは上がっている。その上さらに、僕らに信用を積み重ねていけば、僕らにいい『仕入れ先』を紹介してもらえる……なんて話も、一部で有名になってきている。
といっても、まだまだごく一部だし、限られたもんだけど。
僕ら自身の仕入れ能力も問題としてあるし……そこをもっと太く確立するまでは、『拡大しすぎ』るのもよくないから。
そして……男衆やエルフ達、非戦闘員や元教会・元スラムといった面々が働いている間……もちろんのこと、僕らも働いている。
僕らの力の根幹部分である、戦闘要員の『戦闘力』を上げると同時に……拠点であり、収入源でもある『エリア』や『ダンジョン』を手に入れる。それが、僕らの役目だ。
『エリア』は、エリアボスを叩くことで、あるいは……エリアボスがいない場合は、『黙示録』に表示される一定の条件を満たすことで、
『ダンジョン』は……条件が『エリア』以上に色々だ。ダンジョンボスを倒す、ダンジョンコアを壊す、ダンジョンマスターを倒す、最深部に到達する、その他、一定の条件を満たす……etc。
今のところ僕らは、『エリア』は5つほど手に入れたけど……『ダンジョン』はまだだ。
王都のあのダンジョン……『栄都の残骸』だったっけ? あそこも、黙示録が『銀』になる前の踏破だったから、手に入れたわけじゃなかったしな。
と、いうわけで……実入りをさらに増やすため、僕らはこれから『ダンジョン』に挑むところである。挑んで、クリアして、『手に入れる』つもりである。
現在、僕らの仲間たちのうち、『戦闘要員』の皆は、そこそこの力は持っている。狩りその他の戦闘でちょくちょく経験を積んでいるし、この作戦始める前に一応だけどレベリングもした。
だから、そこそこ強い。少なくとも、この世界における『平均』は余裕で上回ってるはずだ。
それに加えて、ドーピングもしている。
……いや、やばい薬使ってるとかじゃなくてね? ああでも、いざって時用の、一定時間能力ブーストさせるポーション(エルフ謹製)とかはあるけど。
何を言ってるのかというと……僕が固有能力『秘宝創造』で作ったマジックアイテムやマジックウェポンで武装してるってことだ。しかも、ぱっと見はそうとわからないような、地味な見た目の奴で。
効果も、炎が出るとか雷が迸るとか、そういう派手な見た目の奴じゃなくて……能力値にブーストがかかるとか、状態異常を軽減ないし無効化するとか、そういう奴をね。
で、そんな感じのアイテムで武装してる戦闘要員の皆さんなので、この辺で出没するようなチンピラ連中はまず相手にならない。多対一でも余裕でぶっ潰せる。
それに、基本2人1組以上で行動するように言ってあるし、さっき言ったように、僕の『眷属』達もいざとなれば出られる。よっぽどのことがない限り大丈夫だ。
そんなに長く空けるつもりもないし。長引いても、せいぜい2週間かそこらくらいだろう。
僕らが今回挑むのは、この旧『リスタス王国』領にいくつかあるダンジョンのうちの1つ。
およそ『人里』と呼べる範囲から大きく離れていて……そこを行き来する労力や危険度と、そのダンジョンからの実入りが釣り合っていないがために、不人気ナンバーワンとして知られているダンジョンである。
オーソドックスな地下に伸びている迷宮型で、一応、各階層の『ボス』や『ダンジョンボス』はいるものの……出てくる宝物とかもしょぼいし、魔物から高く売れる素材が取れるわけでもない。ほぼアンデッドしか出てこない、『栄都の残骸』とどっこいって感じのがっかり度だ。
もっとも……どっちも僕らにしてみれば、『求めるものは手に入る』っていう意味では、十分有益なダンジョンだと言えるんだけどね。
『荒地』のエリアのさらに先の方、帝国との国境付近の岩山の中腹にあるダンジョンで……しかし、その周辺環境の過酷さゆえに、かなり不人気でほぼ誰もいない。
その名も……『枯れ果てた鉱山』。
その名の通りというか、遠い昔に採掘しつくされた鉱山がダンジョン化したものだそうで……出てくる魔物は、『魔法生物系』が中心。ゴーレムとか、そのへんだ。
しかし、主に体が土や泥、石で構成されているそいつらは、硬かったり再生能力があったりしてしぶとい上に、大していい素材も、ドロップアイテムも落とさない。硬い敵を殴ったり斬り付けるから武器も劣化しやすいし、地下だからか、空気もよどんでいる上……所々有害なガスとかが発生していたりするらしい。
他にもいろいろな理由があって、これでもかってくらいに人気の出る要素がないダンジョンだけど……今の僕らには、うってつけの場所なのだ。
ぜひとも、欲しい。
僕が変形したバスで、途中に野宿を挟んで2日ほど走り……ようやく到着した『枯れ果てた鉱山』の前で、僕、レーネ、フォルテ、レガート、ビーチェ、リィラの6人は……そんな風に考えつつ、決意を新たにしたところだ。
どうやらここは、洞窟の中だけでなく……外部の『採石場』だったあたりから、すでに『ダンジョン』としての領域であるらしい。
まだ魔物は出てきてないけど……『黙示録』に表示が出ている。
【挑戦可能クエスト一覧】
・ダンジョン『枯れ果てた鉱山』を完全攻略せよ
・クレイゴーレムを20体討伐せよ
・ストーンゴーレムを10体討伐せよ
・ロックゴーレムを5体討伐せよ
・ドロップ宝石を獲得せよ
・徘徊モンスター『ミネラルビースト』を討伐せよ
・ドロップ宝石を5個集めよ
・ゴーレム系モンスターを120体討伐せよ
・ガーゴイル系モンスターを100体討伐せよ
・徘徊モンスター『ジュエルビースト』を討伐せよ
・ドロップアイテムを一度の探索で大金貨10枚分以上収集せよ
・ドロップ宝石を全種類集めよ
・ダンジョンボスを討伐せよ
・ダンジョンコアを破壊せよ
≪クエスト詳細情報≫
・『ダンジョン『枯れ果てた鉱山』を完全攻略せよ!』
期限:なし
状況:挑戦中
攻略条件:
1.10人以内で挑戦せよ
2.魔法生物系モンスターを500体以上倒せ
3.第7階層にいる『銀人喰箱』を討伐せよ
4.第8階層にある宝箱(罠含む)7つ全て開けて中身を入手せよ
5.ダンジョンボスを討伐せよ
6.第9層にいる『カースエメラルドコブラ』を討伐せよ
7.●●●を討伐せよ
以上7つ全て達成でクリア
……●●●についてはもういいとして、中々に苦労させられそうなダンジョンだ。
だが……だからこそ、いい。
僕らには、都合がいい。
☆☆☆
中に入ってみると……何というか、殺風景なところだな、と思う。
いや、だからダンジョンに快適な生活空間みたいなのを求めても仕方ないってのはわかってるんだけどね。むしろ、何かあったら戦うのに邪魔だろうし。
そして、インテリアの代わりとばかりに湧いて出てくるモンスターたち。
石材や土の壁や床から、文字通り『湧いて』出てくる。
色々な素材で形作られた、ゴーレムたちが。
「そ……れぇっ!」
間合いに入った瞬間、レーネは大剣――ただの剣じゃなく、僕が『秘宝創造』で作った魔剣だ――を一閃させて、1体と言わず3体まとめて叩き切っている。上半身と下半身に分断された、人型の石の魔物……ストーンゴーレムは、3体中2体、そのまま砕け散ってただの石になった。
そのまま返す刀で……半分になりながらも上半身だけでこっちに向かってきていた残りの1体に振り下ろす。こちらはさらに細かく砕け散って、今度こそ沈黙した。
その向こうでは、『機人モード』のフォルテが拳で同じストーンゴーレムを粉砕している。背後に回り込んできた奴に対しては……生やしてある尻尾で叩いて砕いていた。
適宜、肩のキャノン砲や、口から出すレーザーブレスなんかも使っている。
こうしてみると、『機人』って割と使い勝手いいな。やや戦闘力が落ちるものの、元々の強さが圧倒的な僕らには些細なものだし、多彩な技のバリエーションはほとんどそのまま使えるし。
逆側では、ビーチェが『吸血鬼』の膂力を生かして、レーネと同じく僕お手製のメイスでゴーレムたちを殴り壊し、レガートは殴打系武器が得意じゃないからか、魔法メインで攻撃している。一応、彼女にもメイスは持たせてあるんだけど。
リィラは普通に銃撃で戦っている。が、口径が小さい銃だと有効打にならないので、ショットガンを使っていた。これなら、広範囲に攻撃できる。
普通っていうか、地球での知識なら……ショットガンだと、大型の獣には致命傷にならない場合も多いんだけど。熊とか、ゾウとかの。
小さい弾を無数に放つわけだから……あまり体が大きいと効きづらいんだよね。
ましてや、体が岩石でできているような奴に、普通は効くとも思えないんだけど……そこは、攻撃力500を超える上に、射撃系の攻撃に補正が付くスキル『臨戦・射撃』によるものだろう。散弾が当たったゴーレムは、石だろうが岩だろうが爆散していた。
また、当たった数秒後に爆発する『榴弾』というのもあるんだけど……反響してうるさいので、極力使わないようにしているようだった。
そして僕は、フォルテと同様に殴る蹴るがメインで……しかし、適宜、武器や……ちょっと思い付きで作ってみた新能力?兵器?も使ってみている。
……しかし、さっきから思うんだけど……実際に体験してみると、このダンジョンが不人気になった理由がわかるな。実入り以外にも、色々あるってのが。
まず、アンデッドもそうだったけど、ゴーレムも……率直に言って、死ににくい。
人間とか他の動物なら即死するような攻撃でも、死なずに向かってくることが多々ある。さっきレーネに真っ二つにされても、上半身だけで向かってきたストーンゴーレムのように。
ある程度まで体をバラバラないし粉々にしないといけないので、1匹あたりにかかる手間が大きい。獣なら最悪、大傷をつけて失血死するのを待つ、って手もあるのに……こっちはそんなんじゃ死なないどころか、動きが鈍るかどうかってレベルだし、最悪再生すらする。
次に……敵が多い。
四六時中そう、ってわけじゃないけど……結構な数の群れが一度に襲い掛かってくることが多い。それも、スケルトンとかと同じで、味方が巻き込まれるのとか一切お構いなしで来る。
このせいで、さっきから僕らは分散して、1人当たり少しでも多くの敵を相手にする感じで戦っているのだ。
さらには……こいつら、リポップが早いのだ。
『ポップ』ってのは、ネトゲ用語だったかの1つで、ダンジョンとかで敵が湧いて出ること。ほら、ああいうの待ってると何もないところから敵が出現するじゃん? 歩いてると遭遇するようなパターンも多いけどさ。
それの類義語というか派生語というかで、倒した敵が再度発生するのを『リ』ポップ、という。
ここのダンジョンでは、それが……ばらつきはあるものの、異様に早く発生する。
一説には、ゴーレムを倒したことでその体内の魔力その他が散り、周囲の土や岩石に宿って凝固することで、一定確率でゴーレムが誕生するとかなんとか。
そんな感じで、時にめちゃくちゃな数のゴーレム軍団を相手にするのがこのダンジョンなわけだ。
ステータスで圧倒できる僕らだからどうにかなってるけど、普通の冒険者なら……この階層ですでに武器も、体力も持たないかもしれない。
それでいて、手に入るのは、こいつらの体を構成している土くれや岩石だけ。
……そりゃ、人気も出るはずないよな。
他のところ……ダンジョンでなくても、普通の危険区域とかで狩りしてた方が、よっぽど実入りがいいだろう。最悪でも、肉とか毛皮は手に入るわけだし。
一応、このダンジョンでも、もっと下の方に行けば、もっとまともなドロップアイテムや素材が手に入らないこともないんだけど……そこ行くのに、この労力を何度払わなきゃいけないのか、って考えると……うん、普通は行く気なくすな。
そしてとどめに……倒した後の敵が邪魔。
前にも言った通り、ダンジョンの中で魔物を倒すと、一定時間経過後に死体が消滅する。
ダンジョンに『食われる』とか『溶ける』って現象なわけだけども……それは、このダンジョンでも同様だ。
……が、最終的には消滅してくれるとは言っても、それまでがね……
ゴーレムの体が崩壊した、石やら土やらが、そこら中に散らばってて、邪魔で仕方ないんだよ。あいつら、基本体かなり大きくてかさばるからさ。
大型のだと、倒した次の瞬間に土くれの山ができて道がふさがって、そこに追い込むかのように他の敵が……なんてことも。邪魔。
こんな感じでアレな場所だけど……繰り返すけど、僕らには都合がいい場所なのだ。
邪魔が入らない作業場兼、石材とかの採掘場……そして、レベリングのための経験値獲得場所を欲している僕らには、ね。
さー、そろそろ階層ボスかな? 気張っていこう。




