第71話 はじめての縄張
タイトルは……『縄張』と書いて『シマ』と読みます……
……どうでもいいですね。はい。
旧・リスタス王国王都……現・トリエッタ王国辺境にある町『リートアス』。
この町に、戦争によって刻まれた傷は大きく……政治機能や経済状態をはじめ、戦争の後、回復することかなわず崩れ去ってしまっていた。
それを知ったトリエッタの王政府は、半ばその町を『捨てた』と見えるような政策をとる。
治安維持のための兵士もろくに置かず、ほぼ放置している状態。そのくせ税金はきっちりととるという……この町に暮らしている者達からすれば、あんまりな対応。
しかし、この町で税金を取られるような者達は、まだまともな暮らしぶりをしている。数少ない王国軍の兵士たちも、そういう者達には一応、目をかけているということもある。
それ以下……スラムにいるような者達や、闇市に出店したり、利用したりしている連中には見向きもしない。彼らは兵士たちにとって、見下す対象……というより以前の問題。半ば、同じ人間としてすら見ていないような状況だからだ。関わるだけ、時間と労力の無駄だと。
彼らにとっての敵はむしろ、飢えなどを除けば、彼らを弱者と見て横暴・暴虐を働いたり、平然と恐喝や婦女暴行に及ぼうとする、傭兵崩れや盗賊だった。
力を持たない彼らは、彼らが現れると黙って耐えるか、身を隠して震えているしかなかった。
また、スラムなどから時折現れる浮浪者や孤児などにも注意が必要だった。
盗賊たちのように暴れることこそないとはいえ、今日食べるものにも困窮している彼らは、生きるために必死で……闇市で、盗みを働くことも珍しくないのだ。
それらから商品を、売り上げを守ることも、商売人たちにとっては頭の痛い問題だった。
そんな、冷遇と呼ぶのも温い環境の中で……懸命に生きてきた彼ら、リートアスの民。
しかし、その彼らの生活が……少し前から、少しずつ変わり始めていた。
異変は、闇市のいくつかの店の軒先から始まった。
割と長いことこの闇市に通い、店を出している者達……その一部が、今までと少し違う『商品』を売り始めたのである。
この辺りではあまりお目にかかれない、やや厚めのベーコンやハム、乾燥させた果実や、塩漬けにした葉野菜や山菜など。
時には、大きさはさすがに小さいが、切り身を乾物にした魚が並ぶこともあった。
食べ物だけではない。雑貨類にしても、徐々に変化がみられるようになる。
比較的、という前置きが付くものの、他の店のものと比べて質のいいものが増えていった。
刃の欠けていない、ちゃんと切れるナイフ。
大きさの揃った、金属製の……安っぽいが使いやすい食器類。
ほつれたり痛んだりしていない、色々なことに使える丈夫なロープ。
その他にも、工具や裁縫道具、生地や紙など、統一性のない……しかし、逆に言えば、何でも扱う闇市らしい品揃えで、彼らは様々なものを売った。
中でも、食糧品や武器以上に人気を博したのが……水だった。
この町では、近くに手ごろな水場もなく、長い列を作って並んで井戸からくみ上げなければならない。戦争前にあった水路は、トリエッタ王国軍の破壊工作や、その後の魔物の縄張り移動などで使えなくなってしまっていた。
そんな中、数日に一度、大量の水……しかも、透明に澄みきっていて、塩辛かったり、生臭くも金属臭くもない味もをどこからか入荷して売る店は、いつも繁盛していた。
しかし、そのようにいいものを売る店があれば……当然絡んでくる者も現れる。
盗賊や傭兵崩れの横暴がその店に迫るのは、必然と言えたし、皆、心のどこかで予感していることでもあった。
それでも……実際にその時が来た時、皆、悔しく思ったし……願わくば、このような嫌がらせにも負けず、これらの店がここで商いを続けてほしい……そう思っていた。
……そしてここに至って……彼らは、二度目の『予想外』を目にすることとなる。
「お、覚えてやがれェッ!!」
負け犬を絵にかいたような有様で、そんな情けない捨て台詞を残し……撃退され、退散していくならず者たち。
それを追い返したのは……件の店の前に立っている、見覚えのない男たち。
外套をはじめとした、旅人のような旅装に身を包み……しかし、その体は、日々の訓練で鍛え上げられたものとなっていることが、服の上からでも見て取れた。
似たような雰囲気の男たちが、数人……いずれも、『最近品ぞろえが少し豪華になった店』の前に、守るように立っていた。
というより、その中の何人かは……今、実際に店をならず者たちから守ったのだが。
服装は、ありがちな旅装というだけで、これといって他に共通点などはなく、ばらばらと言ってよかったが……ただ1つだけ、同じところがあった。
全員が……体のどこかに、似たような『箱』を身に着けていたのである。
ある者は、ベルトに取り付けて、ウエストポーチのように。
ある者は、腕のバングルに取り付けて、小物入れのようにして。
ある者は、紐をつけて首から下げていた。
彼らのトレードマークのようにも見えるその『箱』が何なのかはわからないが……彼らが、その特別な店を守っているのだということを……ほどなくして、その場にいた全員が理解した。
彼らは、やはり用心棒であり……何度、ならず者たちが訪れても、そのたびに叩き返し……店に被害をもたらすことを許さなかった。
しかし、それ以外……彼らと協力関係にあるというわけではないらしい店に対しては、たとえそれが目の前で行われていることでも、手を貸したり、助けることはしなかった。
それを非難する者もいたが……それもすぐになくなった。
理解していたからだ。彼らは……報酬をもらって店を守っているのだと。
……そうなると……他の店が、ならば自分たちも、相応の報酬を支払えば……という考えにいたるまでに、さほど時間は必要なかった。
蓄えに余裕があるものから順に……彼らに声をかける者が出始めた。
彼らが守る店が、増え始めた。
守る彼ら自身の人数も、いつからか徐々に増え始めた。
いつしか……その闇市そのものが、トレードマークの『箱』を身に着けた『彼ら』によって守られるようになった。
そこに店を出すものは、彼らに金銭を支払い、ならず者たちから店を守ってもらうのだ。
別に、それを依頼してなくても店は出せるし、『彼ら』も文句は言わない。
しかし、そういった店は……たちまちならず者たちに目を付けられ、潰されてしまう。
『彼ら』の守護があるかないかで、その闇市でたどる道筋がくっきりと分かれるようになり……さらにその2つは、売る商品にも違いが出てくるようになった。
彼らとのつながりは、店の安全以外にも様々なものをもたらすのだろう。付き合いが長く、深くなると……その店は、徐々に他の色々な品物を入荷するようになっていったのだ。
ほんのわずかずつ、長い時間の中で、気が付くと……というレベルだが、徐々に闇市利用者の、そしてその周辺に住む者達の生活のレベルは上がっていっていた。
町の中心部に住む富裕層たちからすれば、五十歩百歩の差。気にすることでもなく……せいぜい、ようやく戦後復興が進み始めただろうか、という程度だ。
もう少し彼らが豊かになったなら、税金をかけるのもいいかもしれない、などと思っていた。
しかし、それもまだ1年か2年は先のことだろう、と思っていた。
未だに、スラムや都市郊外は無法地帯……この状態で重税などかければ、餓死者が続出するか、反乱を起こす可能性があったからだ。
自分たちの所属は『トリエッタ王国』。支配者、搾取者として強者の立場にいる彼らは、自分たちに被害が及ばなければ、今の状況を維持するだけで、他には何も望まないのだった。改善も、改悪も……興味はなかった。
ただ、仕事がそつなくこなされ、税がきちんと集められればよかった。そして仕事のほとんどを、自分たちの下僕である、敗戦国の元・統治者たちに任せていた。
……その、馬車馬のように使われている元・統治者たちの元にも、同様に……『彼ら』の手が忍び寄ってきていることを……当然ながら、搾取者たちは、知らない。
戦争の勝利者、という立場の上に築かれている、絶対安泰だと思っている自分たちの牙城が、内部から蚕食され始めていることに……のんきな彼らは、まだまだ、気づかない。
☆☆☆
えーっと……
【挑戦可能クエスト一覧】
・スラムの闇市で稼げ(目標金額別) CLEAR
・露店にからむチンピラを撃退せよ CLEAR
・盗賊団の下っ端を撃退せよ CLEAR
・盗賊団の襲撃を阻止せよ CLEAR
・盗賊団の襲撃を阻止せよ(夜襲編) CLEAR
・盗賊団のアジトを壊滅させよ CLEAR
・闇市の人々の信頼を勝ち取れ(レベル・達成度別) CLEAR
・リートアスのスラムを掌握せよ(達成度別) CLEAR
……現在、影響力という名のシノギを、徐々に確立していっている、ビーチェ配下の『男衆』のみなさんだけども……今、何の気なしに『黙示録』を見てみたら、こんな感じになっていた。
こういうクエストも起こるんだ……つか、知らん間に達成されとる。
しかも、ちょっかいかけてきた連中……盗賊?に追い打ちかけて、拠点ごと潰してるよ……やる気出してるな、男衆のみなさん。
……まあ、うん。いいんだけどね? 儲かるし。
それに……達成度とやらが、目に見えてわかるってのもありがたい。こりゃ嬉しい誤算だな……やっぱこのネタバレブック、便利すぐる。
……試しに、どれ……人々の信頼度41%、スラム掌握率46%か。
もう半分近いとは……これは、計画は順調……と言ってよさそうだな。
影響力確保班は順調……と。
さて、次は……物資・商品の調達班か……どんな感じかな?
半ばこの『黙示録』が報告書代わりになったりするから、助かるな。




