第68話 ビーチェと闇市と箱(僕)
お久しぶりです。
お待ちいただいていた方(いるのかわかりませんが)、大変お待たせして申し訳ございません。
またいつまで続けられるかはアレですが、更新再開いたします。
……夏~秋はリアルが忙しくて……こないだなんとか一区切りしたんですけども。
では、最新話、どうぞ。
トリエッタ王国南部の町、『リートアス』。
復興は進みつつあると言えるものの、今だに戦争の爪痕が強く残る町。
元・王都だけあって、結構大きくて立派な町だったようだけど……っていうか、僕この世界に転生してから、まともな街並みってもんを1つも見れてないな……。
多分、何ていうかこう……栄えてた感じの街並みが、いい感じに焼かれたり壊されたりして、最低限の都市機能しか残ってない感じが、今のこの町だな。うん。
敗戦国が受けた暴虐や略奪の結果、か。
まず、町を歩いている人々の服。
新品に見えるような、まともな状態・品質の服を着ている人がほとんどいない。どこかしらが破けてたり、つぎはぎだったり……明らかに着れなそうな服を無理に来ている人もいる。
あちこちに物乞いや、道端に立ってる……娼婦と思しき女性を見かける。多分、いや間違いなくコレ、経済がまともに機能してないっぽいな。
スラムとほぼ変わらない、とは、僕同伴でここに来たビーチェの弁だ。
で、そんな街の裏通りでは、今回僕らが目的としていた『闇市』が開かれている。
そこに僕たちは、昨日と一昨日、客として来てぶらぶら回っていた。
形こそ『市場』って感じにはなってるものの、並んでいるラインナップは……『闇』だけあって、表側のそれと同じようにそろっているとは言えないのが現状のようだ。
商品として、売れなくはない。
が、決して胸張って、いい品物、と言って売れるようなものは、多くない。
いくつか露店で、興味本位で商品を買ってみたりもしたけど……まあ、予想はできてたけど、品質のいいものは全然なかったな。
硬いパン、しなびた果物、かけた食器、切れ味の悪いナイフ……
こんな風な感じだ。一応商品として扱えそうなものもあれば、そのへんで拾ったものを売ってるだけにしか見えないような露店も決して少なくはなく。
中には、薬草かどうかも疑わしい何かの葉っぱをすりつぶしただけの色水を『傷薬』なんて言って売ってる店も……コレ見たらまたレーネがキレるかもしんない。
買ってく? って聞いたら、苦笑いしながらビーチェも首を横に振ってた。
恐らく、比較的まともな商品とかは、よそからどうにかして仕入れてここで売ってるんだろうけど……それでもこのくらいの品質しか無理なのか。
思ったよりも、この地域が受けてるダメージは大きいらしい。
まあ、戦争でボロボロになった挙句、税とかだって容赦なくとられてるだろうしな……当然か。
そんな闇市で、僕はビーチェと、男衆何人かと一緒に、今日は売る側として参加している。
特に仕切ってる組織もないらしいここでは、売るものがあれば誰でも出店可能。
ただしまあ……その分、と言っていいのか、トラブルとかもそこそこ起こるようだけど。
それも含めて、商売を体験する感じでやってみよう、と今。
ちなみに、レーネ、レガート以下エルフ連中は、種族が問題なので不参加。
エルフって……トラブル呼び込むからね。奴隷商人とかに人気の種族なのよね。
襲われても負けるとは思わないけど……避けられるもんは避けといたほうがいいってことで、『絆』スキルの効果でレーネ同様僕を使いこなせるビーチェが来たわけだ。
ビーチェなら、見た目は人間と変わりないし、お供の男衆はホントに人間だ。どちらも、服装だけ目立たない感じにし解けばおK。
そして僕は、変形・変身しとけばただの箱にしか見えない。なので、代表して護衛魔物としてついてきました。
まあ、ただその辺にいるだけじゃなくて、きちんと……というか、メインでビーチェ達の役に立ってるんだけどね、僕。
今、僕らは、フリーマーケットみたいに、木箱を重ねてその上に商品を置いて……って感じの雑なつくりの露店をやっている。周りに馴染むように、狙って。
売っているのは……この闇市で言えば、『中の上』から『上の下』って感じの品質のもの。
割といい方の品質なので、ちょっとだけ高めの値段設定でもそこそこ売れる。
試しでもあるので、品物の種類は多くはない。
数打ち程度の品質の剣。型はバラバラ、あえて、戦場とかそのへんで拾ってきたのを、軽く手入れして売ってる……っていう感じに見えるように。
生鮮食品。果物とか山菜とか。
珍しくもない種類だけど、とれたばっかりでかなり瑞々しい感じのものをそろえてある。
保存食。干し肉とか。
魔物狩って加工しただけ。エルフの皆さんの提供。彼ら、狩猟民族だからこういうの得意。
他、食器とか衣類とか、雑貨各種。
どれも、僕が『財宝創造』で作ったもの。原価、限りなくタダ。材料の金属とかは、その辺に転がってる鉄くずを集めて加工するから、ちょっとの時間でいっぱい作れるのだ。
加えて、並べてる多くは生活必需品の類。
品質もいいし、結構売れる。
食料はもちろんのこと……衣類とかタオルとか、色々と出番多いし、食器だってなるべくなら質のいいものを使いたいだろう。
嗜好的な意味じゃなく……ここの食糧事情とかってやっぱりあんましよくなくて、安いものだと、食料も食器も、表面が凸凹してたりざらついてたり、ひどいとすぐ壊れたり、入れた食べ物に欠片とかが入って食べた時にがりっ、なんてこともある。
その心配がないってだけで、魅力的に見えるもののようだ。
そんなものを売ってるわけなので、うちの店、そこそこ人気。
多分だけど、上から数えた方が早い程度にははやっている。初日にして。
そしてその店で、僕はもう1つお手伝いをば。
今ちょうど、お客さんが来た。
カウンターの上の見本とかを見て、ビーチェに色々質問しつつ……いくつか雑貨と食料品を買うことに決めた様子。
えーと、ナイフ2本に干し肉、平皿4つね。
全部合わせて小銀貨3枚に銅貨6枚になります。はい、小銀貨4枚お預かりします。
――と言っているのはビーチェだけども、ここで僕の出番。
現在僕は、一抱えあるくらいの大きな箱に変化して、ビーチェのすぐ横に置かれている。
接客中のビーチェがふたを開けると……中蓋みたいなのがそこにはあって、
そこについている枠?の1つに、ちょうどおつり分の銅貨4枚が入っている。ビーチェはそこからそのまま銅貨4枚取り出してお客さんに渡し、また別な枠に、受け取った小銀貨4枚を入れ……ばたん、と蓋を占めた。
その直後、またお客さん。はいはい、今度は銀貨2枚に小銀貨5枚ですね。そしてはい、銀貨3枚お預かりですね。
再び僕のふたをあけるビーチェ。再び出現する中蓋。溝にはこんどは小銀貨5枚。
それを同じようにつかみ出しておつりとして渡すビーチェ。
……まあ、これでわかっただろう。僕が何をやってるか。
そう……レジ代わりである。
見た目はただの箱だから、中蓋とか引き出しとか、そういう感じで出し入れをカモフラージュしておけば怪しまれることもない。実際、周りの店舗はみんなそんな感じだしね。祭りの出店よろしく、手ごろな箱や袋にお金を入れて清算・管理している。
しかし、ビーチェが傍らに置いている箱こと僕は、レジと金庫と倉庫とついでに護衛が一緒になったスペシャルなアイテムである。えっへん。
必要に応じて、貨幣や品物を取り出し、逆に収納し……しかもそれを、『無限宝箱』から直接行える。
おつりが必要なら、その分僕がインベントリから出す。
受け取ったお金は、適当に中に入れさせて、ふたを閉めた瞬間に『収納』する。この繰り返し。
おつり渡すときに計算が暗算で必要だけど、まあ、何とかなる範囲だ。
繰り返すけど見た目が『箱』だから、貨幣とか品物を中から取り出したりしまったりする……すなわち僕が、おつりとか必要に応じて計算しただけの額をやりとりしても、売って減った分の商品を陳列棚に補充するために出させても、ちょっとカモフラージュするだけで不審には見えない。
……こうしてみると、ミミックってつくづく商売のお供に最適な魔物なのかも。
僕みたいな、きちんと意思を持つ個体を、きちんと使いこなせば……だけど。
とまあ、こんな感じでここ数日、闇市を観察してみてるわけだけど……
「で、観察して、紛れ込んでみて……どんな感じ?」
「……上々、だと思う。予想より」
客の切れ目を狙って聞いてみたところ、帰ってきたのはそんな返事。
……意味は、わからない。
「自分自身の実体験しか参考にできるものがないから、正直ちょっと不安だったんだけど……王国の侵略や、その戦争のしわ寄せで冷や飯に遭ってるのは、どこも同じみたい。皆、その日その日を精一杯生きてるし……王政府に対しては、不満でいっぱい」
「あーまあ、そりゃそうだろうね。言ってみれば、諸悪の根源なわけだし」
「だけど、今言ったようにその日その日を生きるので精いっぱいだし、そもそも王国そのものに逆らうとか、戦うなんて選択肢は普通は出てこないから、今の状況に甘んじてる感じ。でも……」
「でも?」
「逆に言えば、きっかけさえあれば不満が一気に爆発するような土壌ができつつあるし……王政府に何かあったとして、それを守るために動くようなのはまずいない。占領地にはね」
そりゃそうだ。
この町含め、王国の侵略のせいで被害にあった国は……敵国だったからって理由で冷遇されてるところがほとんど。王政府に義理立てするような考え方は欠片も持ち合わせてないだろう。
むしろ、危なくなったらさっさと夜逃げでも何でもしようとか考えたり、ビーチェが言うように……隙あらば寝首を搔こうとか考えてる奴らの方が多そうだ。っていうかほとんどだろう。
この辺じゃないけど、占領に反発するレジスタンス勢力が暗躍してる地域もあるらしいし。
「おまけに、そういう土地だから治安維持も最低限で雑。つまり……王国に損、彼らに得な裏稼業をやるには理想的な土壌ってわけ。それが分かっただけでも十分な収穫だったかも」
「じゃ、これからここで本格的に動き出すの?」
「いーえ、それは第2段階。第1段階はまず、私たちの屋台骨をしっかりさせるところからね……今日で闇市偵察は終わり。別行動してたレーネ達と合流するよ」
「了解。……ちょっとこの違法フリーマーケット、楽しくなってきてたんだけどな」
レジ役も慣れてきたところだったんだけど。残念。
「あとでまたやれるから我慢して。明日からは……バトルでストレス発散できるからね」
そう言いつつ、ビーチェはにやりと笑った。




