第59話 マジギレが呼ぶ奇跡
それからはもう、はっきり言っていっぱいいっぱいだった。
悪魔は、相変わらず人の迷惑考えずに、しっちゃかめっちゃかに魔法使って攻撃してくるし、配下らしい悪魔とかどんどん召喚して攻めてくるし……何気に1体1体が強いし。
勇者は、『英雄剣術』とかいう、剣に魔力をまとわせて切り裂いたり、斬撃を飛ばしたりして攻撃してきて……しかもしっちゃかめっちゃかに振り回すから危なくてしゃーないし。
周囲の自然環境をお構いなしに破壊しながら戦うそいつら相手に、僕らは、非戦闘員たちがケガしないように立ち回るので精一杯である。余裕ねえな、ちくしょー!
「ふはははっ、やるな勇者よ! それに、そこの哀れな難民共、お前達も存外しぶといではないか! 予想外に楽しませてくれる……礼を言うぞ!」
「ちっ、ああもう鬱陶しい……さっさと死ねよお前らっ!」
『グレムリン』2体を一撃で切り捨てた勇者は、こっちをも巻き込む軌道で、『英雄魔法』とやらの金色の炎を放ってきた。
グレーターデーモンが召喚した悪魔を何体も巻き込んで焼き殺しながら迫ってきた火炎を、フォルテが神聖魔法で減衰させ、僕の『箱庭』で防ぐ。
僕らが健在なのを見て、勇者、チッ、と舌打ち。殺したいこいつ。
でも、さっき隙を見てリィラがクロスボウで狙撃してたけど……あっさり避けられたり、剣で叩き落してた。態度は最悪だけど、実力は一応あるようなのだ。
それは……何度かすでに、『グレーターデーモン』に対して手傷を与えていることからもわかる。
近接戦闘の能力では向こうの方が上なんだけど、どうもこいつのスキル……おそらく『勇者』っていうそれが、能力の強化補正になってるっぽいんだよね。刃が通るはずのない相手に、攻撃が届いている。……大したご都合主義だ。
ただ……どうやら悪魔限定で作用してくれているらしく、たまにこっちに飛んでくる攻撃も、僕らなら何とか打ち払えるレベルなのがありがたい。
しかしながら、こっちの攻撃はろくに通らないので、戦線は膠着状態なのだ。
その膠着状態の戦線に一石が投じられたのは、数分後――もっと長く感じられたけど、多分そんくらい――だった。
突如、森の向こうから……何人もの、帝国の兵士を引き連れた、見た目一発お偉いさんらしき男が姿を見せたのである。
馬に乗って、無駄に見えやすい位置で。
必然的に全員の視線が集まる中、
「おい! 悪魔! いつまでかかっているんだ、さっさと……」
「で、殿下!? ダメです、戦闘中のようです、前に出ては……」
それを聞いた勇者が……はっとしたような表情になった後、にやりと笑って、
「そうか……お前が帝国軍のボスだな! よし、お前を殺せば終わりだ……死ね!」
地面を蹴って剣を構え、一気にその『殿下』さんへ向けて駆け出した。
「殿下、お下がりを!」「近寄るな、この下郎!」
「うるさい邪魔だ!」
立ちふさがった数人の兵士を、2人は剣で斬り捨て、残りは魔法で吹きとばす勇者。
そのまま、屍を文字通り踏み越え、勢いを殺すことなく『殿下』へと駆け寄る。
「ひ、ひぃいっ!? お、おい、俺を守れ、悪魔ぁっ!」
「やれやれ……」
なんか、めんどくさそうな、呆れたような声音でそう言うと、悪魔は手下に指示を出し、複数方向から同時に勇者を襲わせ、時間稼ぎをさせる。
それもすぐに消し飛ばされるが、その間に素早く飛んで勇者と『殿下』の間に割り込み、今まさに放たれた勇者の飛ぶ斬撃を受け止めた。
爆発、そして舞い上がる土煙。
それが晴れると……悪魔は健在。しかし、片腕が根元から消し飛んでいた。
勇者、チッ、とまた舌打ち。
「お、おい、あああ悪魔ッ!? お前、腕っ、だ、大丈夫なのかっ!?」
「いやいや、ご心配召さるな、召喚者よ……この程度、すぐに再生できます。しかし……あの勇者、中々の手練れですな……このままでは、勝てないやもしれません」
と、唐突にそんな弱気なことを言い出す悪魔に、『殿下』――名前とか名乗ってくれないもんかね、呼びづらい――の顔が青ざめる。
対照的に、自分の有利に気をよくしてにやりと勇者。わかりやす。
「な、なんだと……ど、どうするのだ!? そ、それでは誰が私を守るというのだ!? おい、何とかしろ悪魔、49人もの生贄をささげてお前を呼び出したのだぞ!」
えれーことやってんなおい。生贄召喚なのかよ、悪魔。非人道的っ!
「そうは言われましてもな……せめて、この身を縛る『封印』がなければ……」
そう言って、悪魔がちらっと見ると、青ざめる『殿下』。
「ふ、封印を……しかしそれは、つまり……私の魂を……」
「何、死ぬわけではありません……しかし、個々で私が負ければ、あなたはどうなるか……王国の勇者が見逃してくれるとは、思えませんなあ……」
……何やら、交渉をしている様子。
どうする? チラッチラッ、って感じで見てくる悪魔に、顔を青くしながらも……決心したような顔をして、こくりとうなずく『殿下』。
「わ、わかった、やむをえまい……契約執行! 『私の魂のかけらと引き換えに、汝の封印を解き放たん!』 真の力を我に示せ、魔将・バルバトス!!」
そう唱えると、『殿下』の体から、ぼうっと光が立ち上って、悪魔に吸い込まれていく。
それはほんの数秒で終わり……光が見えなくなると、『殿下』は、疲労に耐えかねるかのように、膝をついた。
それを好機と見て駆け出そうとした勇者だったが、直後……その身をこわばらせ、驚愕にその顔をゆがめる。
それは、僕らも同じだった。
目の前で……グレーターデーモンの体が、徐々に変容を始めたのだ。
「ふはははっ、感謝するぞ召喚者よ! 力がみなぎってくる……枷が外れた! これぞ、わが真なる力……これを再び、地上で振るえる日が来ようとは!」
★名 前:魔将・バルバトス
種 族:グレーターデーモン
レベル:65
攻撃力:1171 防御力: 824
敏捷性: 739 魔法力:1689
能 力:希少能力『地獄魔法』
固有能力『魔魂の契約』
固有能力『召喚術・悪魔』
特殊能力『煉獄魔法』
特殊能力『封印(解除中)』
鑑定結果が……とんでもないことになってる。
何だコレ……ちょっとの間にインフレ起こりすぎだろ。軒並み能力上がってるぞ!?
攻撃力1000超え……しかも、一部のスキルの名前も、見るからに物騒なものになっている。何だ、『地獄魔法』だの『煉獄魔法』だのって……!? そして一番下。『封印(解除中)』……ひょっとしてコレのせいで、今まで能力に制限かかってたのか? レベルごと!?
さらに、さっきまで表示されなかった、個体名が出てる……バルバトス、ってのが、こいつの名前で、封印が解けて全力で戦えるようになったから出て来たのか?
ただでさえ大変な戦況が……もっと大変なことになった……! 下手撃ったら一撃で消し飛ばされる可能性もある。
そんな悪魔の視線の先にいる勇者はというと……少し動揺してるように見えるけど、すぐに構えなおして、ふん、と鼻で笑って見せる。
「本気モードかよ、へっ……上等だ! 『限界突破』! 俺の本気を見せてやるよ!」
直後、勇者の体から吹き上がる魔力、威圧感、存在感……ステータスに変化はないのに、明らかにさっきより強くなっていると肌で感じる。
さっきまでもあった、わけわからん勇者補正の類型か……ホント、本人が調子乗るのを後押しできそうな能力がそろってるな。
さらに! と自分で言いながら、勇者は腰に差しているもう1本の剣を手に取り、抜いた。
元々持っていた剣は左手に持ち替えて……新しく抜いた剣は、身の丈ほどもある大剣だった。
……明らかに鞘の大きさとあってないぞ? 巨大化する魔剣か何かか?
と、その時だった。
その剣があらわになった時……今まで、迎撃と戦局把握に集中していたレガートの顔が……驚きにゆがみ、目が大きく見開かれた。
その視線は……剣に向けられている。
「いいか悪魔! この剣は「その剣をどこで手に入れたっ!?」……あん?」
突如、声を張るレガート。
レーネやビーチェ、他全員が『何事!?』って感じで見ると、驚愕と怒りが入り混じった表情になっている状態のレガートがそこにいた。なぜか、体はわなわなと震えている。
「あ? 何だよ、あんた? 今俺が話してんだけど……この剣がどうかしたのか?」
「その剣だ! なぜお前がその剣を持っている!? それは、それは……」
一拍置いて、絞り出すように、
「その剣は、ロニッシュ伯爵家に代々伝わる宝剣だ! かつて、数代前のロニッシュ家当主が、軍を率いて王国内に現れたダンジョンを攻略した際に手にしたとされる聖剣! 20年前に盗難にあって失われたはずの剣を、なぜ貴様が持っている!?」
……え、マジで? あれ、ロニッシュ家ゆかりの品ですか?
ええと……
★品 名:聖剣ミュルグレス
レア度:7
説 明:あるダンジョンのボス討伐報酬としてもたらされた剣。
使い手の魔力を増幅する力がある他、まだ他にも封印されている能力がある。
正当な所有者以外は使うことができない。
備 考:一部能力の封印状態
けど……『20年前に盗まれた』? 20年前っつったら……ええと、レーネのお母さんとレガートが退職したのが15年前だから、それより前だな。
必然的に、ロニッシュ家が取り潰しにあうよりも、前だ。
「はぁ!? 何だよ、知らねーぞそんなの? コレは王様からもらったもんで……あ」
と、不機嫌そうにしつつも、レガートの言葉で何かを思い出したような様子の勇者。
しばしの間、空中に視線を漂わせたかと思うと、
「あー……そういや宝物庫の担当の奴が、何か言ってたような……ああ、思い出した。コレ、ちょっとした小細工して用意された、訳アリの剣だとか何とか言ってたな」
……訳アリ? どういう意味だろ?
何か嫌な予感がして、その先を注意して聞いてみたら……勇者の口から語られたのは、予想外の真実というか、裏事情だった。
「何でもこの剣、強力だから、王様が戦争に使おうと思ってたらしいんだけど、持ち主の貴族が戦争反対派で、しかも持ち主以外は使えない上に、その血族しか継承できない剣だから、いつまでも宝の持ち腐れだったんだとよ。それで確か……適当に冤罪でその貴族を一族郎党殺して、持ち主がフリーの状態にしたんだってよ。で、今は俺が所有者なんだけどな」
……おい、マジかそれ?
つまり……王家、その剣が使いたいっていう打算もあったから、邪魔なロニッシュ伯を謀略から見殺しにしたってことだな?
つかそれだと、20年前に盗んだのもひょっとしたら王家だな?
レガートとビーチェは、衝撃の真実に絶句していた。
まさか、敬愛していた主が、父親が……こんな風にどす黒い、自分勝手な欲望から謀略にはめられて殺されてたなんて、そりゃショックだろうな。
「俺、お姫様と結婚して今一応王族だから、こうしてこの剣の力を使えるってわけ……で、この剣がどうかしたのかよ?」
……ちょっと待ってあげて。多分今、衝撃の事実を飲み込むのに必死だから。
その後、マジギレすると思うけど。
……とか思っていたら、その前にまた別な方向から声が。
「くそくそくそっ、なぜこうなった!? どうしてこうもうまくいかんのだっ!」
疲れ?が少しはとれたらしい、『殿下』さんが、残った部下たちに支えられながら、どうにか立ち上がったところだった。顔色悪いな……魂とやらを削った影響か?
その真っ青な顔に、脂汗を大量に浮かべながら、口だけは元気にわめく。
「せっかく他の兄弟を出し抜いて、古文書を解読して悪魔召喚の秘術を手にしたというのに! 能力が一部封印されているとはいえ、絶大な力を持つ魔族だったはずなのに! 解読に莫大な金をかけ、私兵を大幅に増強して戦に備え、王国への奇襲のために森一つ切り開いて道を作ったというのに……なぜ負ける!? なぜ私が、魂の一部を!?」
誰に聞かせる意図があるでもないだろうに、ぎゃんぎゃんわめく。
「おまけにその森に眠っていると見られた財宝は見つからんし……送り込んだ悪魔は尖兵のオーク共々何者かに返り討ちにされる始末! 予定通りエルフの集落は潰して行軍路に変えられたからいいものの、それもこれで無駄になった! 何から何まで大赤字だ、くそがぁっ!」
ぎゃんぎゃん……おいちょっと待てこら。
こっちはこっちで衝撃の真実が明らかになりませんでしたか今?
何、まさかあのエルフの村が襲われたの……帝国とやらの仕業ですか!?
お前か犯人。王国と戦うためのルートづくりのために、あのエルフの森を切り開いたってか! 悪魔使って! オークたちに襲わせて!
その途中で、どこからかの情報で『黙示録』がその村にあるって聞いて、それも狙ったか!
振り返ると……ビーチェ、レガートに引き続き、レーネも同じ顔になってた。
無理もないけど。
そのまま、向こうの方で『殿下』と悪魔と勇者はぐちぐちあるいはあぎゃあぎゃあと言い合っていたわけなんだけども……
……突然に、
「「ふっっざけんなああぁぁぁああああっ!!!」」
レーネと、ビーチェの、魂のシャウトが響いた。
2人とも、どちらかと言えば華奢な体躯のどこからそんな声が出せるんだ、と言いたくなるレベルのその大音量に、その場にいた全員、びっくりしてフリーズ。
2人のそばにいた、僕らも。レガートすらも。
そんな中で声を響かせ続けるのは、当の2人。
それぞれの陣営のやらかしたことによって故郷を追われる形となった、姉妹である。
「あんたらよくもやってくれたわね! おかげでこっちはどんだけ迷惑したか!」
「そうよ! この自分勝手共、よくもまあ住む場所から何から奪ってくれて!」
「いきなりオークが襲ってきてめっちゃ怖かったんだから! その後も色々捨てながら命からがら逃げてきたし!」
「私なんてよくわからないうちに家がなくなってたし! 色んな意味で! それからずっとスラムで節約生活だよ!」
「進軍ルート!? そんなもんのためにエルフの里を……冗談も休み休み言いなさいよこのボケ! 素直に和解しろ! そんなんだから赤字になるんでしょうがバーカバーカバーカ!!」
「いかにも国のためにやりました的に言っといてやってることただの強盗殺人じゃない! それで正義だの勇者だの何!? ふざけてるの!? バカなの!? 死ぬの!? つーか死ね!!」
なんか一気に爆発してる姉妹。
レーネなんか、耳隠して帽子取って地面に叩きつけてるし。
しかし連中、唖然としつつも、話の内容は聞いていたようで……2人が、住んでいた森を追われたエルフの生き残りと、ロニッシュ家の何らかの関係者だということはわかったらしい。
だが、それで気まずそうにするとか、神妙そうにするとかいうことはなく……勇者は鬱陶しそう&面倒くさそうにしていて、一方帝国サイドの悪魔と『殿下』は、なんというか……あざ笑う感じの笑みを顔に浮かべている。何を今更、とでも言いたげだ。
しかし、そんなことはお構いなし。
連中が何か言うのを待たず……というか、何か言うよりも早く、姉妹は続ける。
そして……この上なく正直な本音と……今、こうして真実を知った結果として、彼女たちの心の内にともった思いのたけを、決意を、ぶつけるのだった。
「とりあえずその剣! 返してもらう!」
「で、あんたたちはぶっ殺す!」
女の子が『ぶっ殺す』とか……相当キてるな。無理ないけど。
「そもそもが納得いかなかったんだよね……私たちは何一つ悪くないのに、住んでた場所を追い出されなきゃいけないなんて、そんなの道理が通ってないもん」
「そうね。こんな馬鹿どものために、私たちが我慢しなきゃならない理由なんてないわよね? そっちがその気なら、こっちだって何したって許されるってもんよね」
「だよね。だったら決まりだね」
「ええ……決まりね、やってやるわ」
一拍、
「帝国も……王国も……どっちも潰す!」
「そして私たちは……故郷を、取り戻す!」
「「よく言った!!」」
ガシャン!×2 と、
僕とフォルテが、そう言い切ったレーネとビーチェの前に飛び出た。
一拍遅れて、リィラも飛び出して、僕らに並ぶ形で2人の前に立つ。
なんで出て来たって? ばっきゃろう、そんなこといちいち聞くな!
レーネとビーチェがここまで見事に啖呵切って吠えたんだ……それを、間近で見ていた僕らの心の震え! 嬉しさ! お分かりいただけるだろうか!?
熱い! 熱いぞレーネ、ビーチェ!
『絆の杯』を介してだろうか、彼女たちの心の燃え上がり具合が、その熱がこっちにも伝わってくる! 心が震える、ってのはこのことか!
昨今、冷徹だったり軽い感じの主人公が人気だったりするし、どっちかと言えば僕もそいういうのが好きだったはずだ。戦記物とか、ピカレスクロマンとか。
けど、男の子だからかね……今の超! 心に来た! 僕にもまだこんな部分があったか!
「御大層な目標言うじゃん、2人共。聞く限り、いばらの道どころじゃなさそうだけど」
「誰かに言ったら、んなこと無理だって一蹴されるレベルの妄言だぜ? 現に目の前にいる連中は、小娘が何言ってんだ、って感じの顔になってるようだしよ」
「まあ、およそまともな脳髄を持っていれば、正気を疑われる発言なのは否定できないですね」
「「それがどうした!」」
ハモる姉妹。打ち合わせしてないよね?
「妄言? いばらの道? 正気を疑われる? 上等! 誰が何と言おうと勝手にすればいいよ……そんなこと気にしてたら、余計に、いや絶対届かない目標だもの!」
「好きに言わせとけばいいのよ。油断してくれるならありがたい限りだし……それが本当になった時の、私たちを怒らせた連中のほえ面を拝むのが楽しみってもんだわ」
「……かっはっはっはっ……野郎みてえな、いや野郎でも言いそうにないことをはっきり言うじゃねーか……だが、結構好きだぜ、そういうの!」
「お2人がその気なら私からは何も言うことはない……どこまでもお供するですよ!」
「OK! それじゃあ今度は僕らも……2人の気概に応えて見せないとねッ!」
「ふん……茶番は終わったのか? 下賤な平民に亜人、それに組するけちな魔物どもめ」
と、さっきまでに比べていくらか冷静になったらしい『殿下』。
近くに自分より騒がしかったり、取り乱している人がいると冷静になれるって聞くけど、その類だろうか? ……だいぶ違うんだけどね、彼女たちの騒がしさの種類は、お前達とは。
「うざいし……さっさと消えろよ、意味わかんねー。何熱くなってんだよ、これから死ぬのにさ、今のうちに逃げればよかったんじゃね? もう無理だけど」
「ふはははっ……美しい友情、といったところか? だが残念、貴様らではここでの我らの戦いの先に行くには、いささか力不足というものだ……せめて、潔く消えるがいい」
そう言って、手元に炎を……今までのそれよりもはるかに大きな規模のそれを作る悪魔。
数秒後には、こちらに向けて発射されるのだろう。
この隙に攻撃でもなんでもすりゃいいのに、王国側の勇者、動かず。
へらへらと、こちらをあざ笑うのに全力である。いい御身分で。
まあ、コレくらったら……普通に考えて僕ら全員死ぬだろうし、実際余裕なんだろう。
それでも、
なぜか……僕らの心の中に、怯えはなかった。
『この程度、怖くない。どうにでもなる』……そんなあやふやな、しかし確信にも似た思いが……なぜだか、僕らの胸中にはあった。
「で、どうするよシャープ?」
「さっき、お2人の気概に応える的なことを言ってましたが……何か考えがおありで?」
「ふっふっふ……当・然。といっても、さっきフッと思いついだんだけどね……このはた目から見ても絶体絶命の状況下、僕らのやるべきは、そう………
………合体だ!」
「合体!?」
「合体!」
「合体?」
「合体!」
「合体!?」
「合体?」
「合……体?」
さて、どれが誰の声でしょう。……どうでもいいね。
でも、僕は至って真面目である……さっきから、そうするのが最善だと、頭の中で、声みたいなものがガンガン鳴り響いているのだ。
半分は本能、もう半分は厨二病と見ている。
そしてだ。アナウンスも太鼓判を押してくださってます!
『特殊能力『合体』の使用条件『契約関係』『種族適正』『合体メンバーのレベル差一定値以内』『燃えるハート』『心からの絆』を満たしました』
『能力発動により『???』に合体進化が可能です』
と、いうわけで……いよいよもって、悪魔の手元から炎が放たれたタイミングで、
「いくぞ、2人とも!」
「「応!!」」
☆☆☆
『何だ、これは?』
それは、その光景を目にしている者達全員に共通の思いだった。
彼女たちの仲間である、エルフ達や人間の元私兵たち。
王国の勇者。
帝国の皇子、その召喚契約悪魔。
そして……レーネ、ビーチェ、レガートの3人までも。
迫りくる悪魔の炎。
それが、3体の魔法生物系モンスターの体から立ち上った黄金の光によって散らされ、消し飛ばされたのである。
その中心にて、黄金の光は渦巻きはじめ……そこで、変化が起こる。
一番前に立っていた?ミミック型……大きめの、宝箱を模した魔物。
『変幻罠魔』のシャープが……ガシャンガシャンガシャン、と音を立てて変形していく。
アーチ型の蓋や、箱前面部のカギ、装飾などの特徴を残しつつ……側面・底面等の各部パーツがスライドし、展開し、折りたたまれ、せり出し……内部から、様々なパーツが出現。
直方体の箱型が、長細くなり、中何か所かで折れる。
中から出てくるのは……甲冑の籠手をベースにしたと思われるデザインの『手』。関節各部にはいくつものパーツが組み合わさったそれが設置され、肩や手首付近の部分には、鎧を模したような、それでいて『箱』の原型を残した部品。隙間から、クロスボウの矢や仕込み刃が覗く。
さらに、別な1体……傀儡型の魔物である、『武装傀儡』のリィラもまた、同じように……こちらは、体の各部が折りたたまれ、その一部のパーツが展開したり、体を覆うように組み変わっていく。
頭は収納され、下半身は二の腕と肩を形作った。ツインテールの髪だけが外に出て、帯となって二の腕や関節を覆い、戦闘服がアーマーのように腕の各部に装着される。腕は一度ばらけてまとまることで手の指に姿を変えた。
瞬く間に、箱の装飾と装甲が施された右腕と、それよりもやや丸みを帯びた人形由来の左腕が出来上がり……その間になる、最後のパーツもでき始める。
『銀悪魔像』のフォルテは、ほとんど体はそのままに……やや曲がっていた背筋と足が伸び、各部が細かい展開と装着を繰り返して、怪物の体から、ほとんど人間のように見える、鎧のような姿に変わった。
尻尾は2つに割れて、その付け根のパーツと共に背中に競り上がり……まるで燕尾のような、羽のような形にまとまる。もともとあった翼は、わずかに競り上がってその上部に接合した。
その、頭だけがドラゴン、あとは大柄な甲冑の騎士のごとき形になったフォルテの両腕が、折りたたまれ、後ろに回り……変形した上で肩口に接合。そこに、2門のバズーカ砲のような形となって装着され……前方に、その砲門を向けた。
隻腕となったその体に……シャープとリィラが変形した両腕が、ガシャン、という機械的な音と共に装着される。ややではあるが、体に比して大きくも見えるその左右非対称の両腕は、奇妙な威圧感と重厚さを醸し出していた。
そして最後に、爬虫類を模したようなデザインのフォルテの頭部が、真ん中から左右に――水平にではなく、斜めに角度を入れて、正面から見ればV字に見えるように――開き、兜となる。
中からは……人間に見えなくもない、だが明らかに無機物とわかる、ロボットの顔が出現。
その両の目が…………命を吹き込まれたかのように、ぎゅいん、と光った時……
この世界に、今までなかった存在が、一時とはいえ、誕生した。
『変幻罠魔』のシャープ、
『銀悪魔像』のフォルテ、
『武装傀儡』のリィラ、
その3体が、レーネ・セライアと、ベアトリーチェ・ドラミューザによって紡がれた絆を軸に、その身を一つにして完成させた……鋼の戦士。
『『『無機物合体!! シェイ アー ガー!!!』』』




