表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/118

第58話 悪魔と勇者



「ええい、そこの荷車止まらんか! 止まらんと撃つぞ!」


「もう撃ってんでしょ!」


そんなツッコミと共に、レーネがクロスボウで帝国の兵士を撃ち抜いて倒す。

その反対側では、リィラが同じように、自前のそれで王国の兵士を倒している。


「何としてもとらえろ! あのような面妖な荷車……何か重要なものを積んでいるに違いない!」


「帝国の手先か、いや、帝国とも争っているような……ええい、どちらでも構わぬ! 確保して手柄にしてやる!」


現在、王国軍、帝国軍、そして僕らの三つ巴。

両軍はそれぞれ、僕らのこの特殊すぎる装いから、『敵国の手の者かも』って勘ぐって襲ってきたらしい。


僕らがどっちも相手にしてるこの現状を見て、その誤解については解けたと思うんだけど……どっちにしろ手柄になりそうだから確保しようとしてる感じだ。

そしてそのために、


「おのれ帝国の手先どもめが! 敗れた以上さっさと尻尾を巻いて逃げればよいものを!」


「なんの、この王国のクズ共! 我々は断じて負けてなどいない、戦略的撤退だ! 次の勝利のためにも、その荷車は我々がいただく!」


「勝手なこと言ってんじゃないこのぼんくら共がァ!!」


―――どごごぉっ!!


人身事故発生。しかし無視。

トップスピードの僕にはねられ、轢かれ、止めることかなわず散っていく兵隊さんたち。


きりがないな、どうしようか……


次どこに向かって走ればいいか、レガートに指示を仰ごうとした……その時、


「おぉっと、待ちなそこのぶげらっ!?」


「「「ん?」」」


突如として、上空からそんな声が聞こえたかと思ったが……反射的にハルバードを振り回したフォルテによって一瞬にしてぶっとばされていた。


あれ、でも何だ今の?

何か……気のせいじゃなければ、人間じゃない何かが空飛んでたような……?


「て、てめえらよくもっ!」


と、思ったら、同じようなのがもうちょっと上空にもう一匹……んん?

あれって、もしかして……



★種 族:グレムリン

 レベル:23

 攻撃力:98  防御力: 53

 敏捷性:78  魔法力:109

 能 力:通常能力『炎魔法適正』

     通常能力『毒の牙』



「あれはっ……魔族!?」


空に飛んでいるのは、人間っぽい体だが、ほぼ全身鱗に覆われており……蝙蝠の翼と、するどい爪と牙を持った、見た目まんま悪魔っぽい何かだった。

いや、多分実際に悪魔なんだろうけど。


体は小さい。人間の子供と大人の中間くらいだけど……能力値はけっこう高めだ。

少なくとも、雑兵レベルで相手できるようなものではなく……その証拠に、


「う、うわあああ、出た、あ、悪魔だ!」


「畜生、帝国の奴ら……また悪魔召喚を! 禁忌の術を!」


兵士たち……王国軍の奴らが主に、戦慄。ガクブルってる。

帝国の連中も、ビビってはいるようだけど、恐慌状態になるようなのはない。


……今のセリフから察するに、この魔族とやら、帝国の戦力なのか? 召喚……とかなんとか使うのが帝国にいるようなことを言ってたけど。


で、その悪魔であるが……2匹いたっぽいんだけど、早速片方がぶっ飛んでまして。

で、残り1匹の方……


「貴様らよくも相棒をォ! 俺たt」


――ドドドッ!!


「戦場でおしゃべりな奴は早死にするのです」


何か言う前にクロスボウ3発ヘッドショットが直撃し、絶命。

リィラ、容赦なし。つか、歴戦の傭兵みたいな決め台詞に僕ら一同唖然。誰、君?


用済みとばかりに、死んだのだけ目視で確認して他の兵士たちの排除に戻ろうとしたリィラと、唖然として手も仕方ないので同じようにしようとした僕ら。

しかしその時……


「……っ!?」


空からさらに一つ、気配が舞い降りてきた。

それも……さっきの奴と比べて、全然格が違う、圧倒的な存在感が。


「ふははははっ! なかなかやりおるな、貴様ら! グレムリンがあっさり殺されたのが分かったから、何かと思ってきてみれば……面白い奴らがいたものだ!」


上空から現れたそいつは……まぎれもなく、悪魔だった。


しかし、今瞬殺した『グレムリン』なんかとはくらべものにならない……いや、こないだ戦った『アークデーモン』よりもさらに上だろうと確信できるレベルだ。見るからに。


ヤギか何かのようにうねった3本の角。ぎょろりとした目。筋骨隆々の肉体。どす黒い爪。大きな蝙蝠の羽……そして、そこからほとばしる膨大な魔力。


明らかに、これまで戦ってきたどんな魔物よりも格上。ドラゴンスケルトンですら遠く及ばないんじゃないか、ってレベルの圧倒的な強さを肌で感じる。


そしてそれは直後、目できっちり見て確信するに至った。



★種 族:グレーターデーモン

 レベル:33

 攻撃力:871  防御力: 424

 敏捷性:439  魔法力:1089

 能 力:希少能力『暗黒魔法適正』

     固有能力『魔魂の契約』

     固有能力『召喚術・悪魔』

     特殊能力『炎魔法適正』

     特殊能力『封印』



……やばい、やばすぎる。


何だこのステータス!? アークデーモンやスケルトンドラゴンがかわいく見えるぞ……魔法力1000超えてるし!? 攻撃力も900近い!?

本気でやばいぞこれ!? 僕の防御力でも防ぎきれないレベルだ。


何でこんな化け物がここに……やっぱり『悪魔召喚』って奴のせいなのか!?


「んん……荷車を確保しろなどとつまらん命令を受けたかと思えば、予想外に楽しめそうだ。どれ……まずは、その他の有象無象の掃除から始めようか」


言うなり、膨れ上がる魔力。グレーターデーモンの手元に収束していく……火?


それを感じ取るなり、とっさに僕は『セーフゾーン』を、さらにフォルテが『神聖魔法』のバリアを張って全力で防御していた。


その数秒後、あまりの威圧感に、防御どころか逃げたり、動いたりすることすら満足にできない状態の兵士たち……というか、ここら一帯に向けて、グレーターデーモンの魔法が放たれた。


アークデーモンの火炎ブレスをしのぐ威力の爆炎。それが、とんでもない範囲に広がるように吹き付けられ、あたりを蹂躙する。

無数の兵士がそれに飲み込まれ……消し炭となった。


僕らを守っていた2重の防御は、抜かれることこそなかったものの……大きくバリアがきしんで、一瞬も気を抜けない状態だった。これが、1000超えの魔力か……!


「ふははははっ! 見晴らしがよくなったわ……どれ、では……」


と、高笑いしつつグレーターデーモンがこちらに注意を向けた……その時。



「うわっ、何だこれ!? めっちゃ強そうな奴いんじゃん!」



そんな、この惨状の中にあってあまりにも場違いな、軽い感じの声がした。


その声に、僕らはもちろん、セリフをぶち切られた形の悪魔も、『ん?』と不機嫌さをわずかににじませて、声のした方を見ると……そこにいたのは、1人の少年だった。


軍服のような、しかしそれにしちゃちょっと華やかな感じの服に身を包み、手には剣。

顔は……まあ、イケメンといっていい部類に入るそれで、この惨状を前に、にやにや、へらへらと笑っている。ちょっと、場違いというか……気味が悪い印象。

しかし、何だろうか……それ以上に、気になることがある。


気のせいじゃなければ……こいつ、何か東洋人に近い顔のつくりをしてるような……?

しかも、黒髪に黒目……肌も、白人とかのそれじゃない気がする……。


その時、何かに気づいたように、ぱん、と手を叩いて大仰なリアクションをとった悪魔が、


「おぉ! これはこれは……まさかこの目で、こんなにも早く見られるとは思わなかったぞ……お目にかかれて光栄というべきかな? 王国に呼ばれし、『勇者』殿!」


…………何?


とっさに、こいつも鑑定してみると……!? マジかこれ!?



★名 前:長谷川はせがわゆう

 種 族:人間・異世界人

 レベル:23

 攻撃力:533  防御力: 208

 敏捷性:444  魔法力:1397

 能 力:固有能力『召喚されし勇者』

     固有能力『英雄魔法』

     固有能力『英雄剣術』

     特殊能力『英雄の生命力』

     特殊能力『限界突破』



こいつ……日本人……!? しかも、勇者!?


何、召喚されたってか!? 異世界に召喚されちゃった日本人ですか!? 何それ、どこのラノベの主人公だよ!? いや、それ言っちゃ僕の状況もたいがいだけども!


混乱している僕らの目の前で、グレーターデーモンはご機嫌で勇者に話している。


「王国が古文書を読み解き、禁忌の魔法である『勇者召喚』を行ったとは聞いていた……今回、わが召喚者の軍を敗走せしめたのもその力と聞いてはいたが、こうして会えるとは運がいい!」


「あん、何だお前? 見るからに……魔物だな? ふん、ならここで退治してやるよ、勇者である俺の目の前に出てきたことを後悔するがいいさ」


……気のせいか……随分と偉そうな感じに見えるな? 現代日本では、還暦超えた一部の頑固おやじくらいにしか見られないような態度だ。少なくとも……若者でこういうのは少ないだろう。


少し気になる。こいつどうやら、名前からして、地球の日本から多分召喚されてきたっぽいんだけど、その頃からこんな感じの、いわゆる『痛い』性格だったんだろうか。それとも……


……あんまり考えたくないけど、ラノベでよくあるような……召喚されて、勇者って祭り上げられて、調子に乗ってるパターンだろうか?

だとしたら……厄介極まりないんだけど。自己陶酔の気が見えるし。すでに。


その勇者は、ちらっと僕らの方を見て、また悪魔に視線を戻す。


「ふん……王様の頼みは、攻めてきた帝国の将軍を倒してほしい、ってことだったんだけどな……まあいいや、まだこの近くにいるみたいだし、その前にお前らさくっと倒してやるよ。女は大人しくしてれば……いや、やっぱいいや。汚らしいし、持って帰ろうかと思ったけどやめた。めんどくさいから全員殺してやるよ、全く、仕事増やしやがって」


あ、なるほどこういう感じですか。調子乗ってますね、クズですね、はい。


「ふははははは! そうかそうか、コレは愉快なり! 勇者と悪魔、そして巻き込まれた哀れな民の三つ巴というわけだ……よかろう! 楽しもうじゃないか!」


言うが早いか、勇者が駆け出す。


悪魔はまた、手もとに炎を起こす。


ちっ、やばいなコレ……とんでもない戦いに巻き込まれた!

油断するとあっという間に死人が出る……この事態、どう切り抜ける……!?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ