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第57話 逃亡戦線



「何ぃ? 高速で走る貨車だと? しかも町の外に向かっている……王国軍の別動隊かもしれんぞ! 多数の兵士か、あるいは何か重要な物資を運んでいるのかもしれん! 止めろ!」



「町の外に向けて高速で何かを運んでいる……帝国の隠密の連中が何か持ち出したのかもしれん! 確保しろ! 無理なら殺せ! 市民が周りに? かまうなそんなことに!」



「……ってな感じで注目されたのかもな!」


「あーすごいそれ納得! でもどーしようもないからこのまま行こう!」


何でか知らんけど襲ってくる帝国軍と王国軍を、正当防衛で蹴散らしながら進んでいく。

僕は走るのに、フォルテは神聖魔法のバリア張って防御に専念。


なので、迎撃は主にビーチェとレーネとリィラ、あと、男衆とエルフ達に任せている。

僕が各所に設置しているバリスタやクロスボウを使って。


リィラだけは、自前のクロスボウとかで応戦できてるけど。


高速で走るトロッコの上から撃つだけの簡単……かどうかはわからないけど単純なお仕事。

一発の威力が、僕の攻撃力の補正入ってかなり高いので、とりあえず当てることさえできれば何とかなってる感じだ。


「でもすごくないコレ? さっきからレベル結構な勢いで上がるんだけど……そんだけ倒せてるってことだよね?」


「ダンジョンの魔物を一方的に倒せる威力のバリスタですから、当たった数×倒した数でそうなってるです! おまけに敵はどんどん湧いて出てるです!」


「何もありがたくないけどね……それに、一応人が死んでるわけだから、喜んだりはしゃいだりするのは今はやめましょ! 正当防衛とはいえ、ちょっと不謹慎!」


ビーチェ、リィラ、レーネの順にそんなことを。

よかった、余裕ありそうだな割と。


「……シャープ! 11時方向に進路変更を! あそこが一番確実に抜けられそうだ!」


と、レガートの指示が飛んできたので、それに従って走る。

このまま逃げ切れますように……と願いつつ。


☆☆☆


「ちぃ……こうも簡単に撃退されるとは! その貨車とやら、ひょっとすると王国軍の重要な何かを運んでいるに違いない! 見失った? 探し出せ! 何としても確保するのだ!」


帝国の陣営で怒号を飛ばす、指揮官であり皇子・ディヴォル。


彼は……思ったように進まず、それどころか押され始めている戦況に焦りを感じていた。


こちらの切り札を使ったにもかかわらず、王国軍はそれ以上の手札を持っていたのだ。こちらの事前の情報では、全く察知できていなかった切り札を。


「くそっ、くそっ、くそくそくそっ! あのような手を持っているなど、卑怯なり王国軍!」


(お前の『悪魔召喚』も似たようなもんだろうに……しかしまあ、王国が『勇者召喚』とやらを成功させていたとはな、そのへんは純粋に驚きだ)


「かくなる上は、撤退するしかない……おい、軍の3割を殿軍として遅延戦闘を行え! 2割を例の貨車の捜索と確保に充てろ、なんとしても探し出すのだ! 手土産が少しくらいなければ帝都に帰れん……残りの5割で我ら本陣を守れ!」


「はっ!」


「くそっ……せっかく、森一つ切り開いて新たな進軍ルートを開拓したというのに……! その森とて、あると聞かされていた宝物はなく、貴重な悪魔を一体失う羽目になったし……」


「あの、悪魔とその配下を使って切り開いたという森か? 確か、先住の亜人の集落があったのを滅ぼして開通させたと聞いたが……なんだ、そんなに苦労してたのか」


「だまれアルベルト! お前の子飼いもさっさと動かせ! ここは戦略的撤退だ!」


(意味も知らず適当なことを……しかし、確かにその貨車とやら、少し気になるな……? ちと、こちらでも調べてみるか……?)


☆☆☆


どうにか逃げ切った。


完全に戦線からは外れ、流れ矢にも巻き込まれようがない位置にまで逃げることに成功した。

遮るものがなくなってからは、車輪を増やして一気に加速した甲斐があったな。


ひとまず、安全なところまで来たところで、とりあえず僕らは休憩を取っていた。


買い込んで、あらかじめ調理していた食料で食事をとり、あらかた疲れが取れたら出発の予定である。


見張りは後退でエルフの戦闘要員と、元ロニッシュ家私兵の男衆に任せている。

加えて、一応僕が毎度おなじみ『箱庭セーフゾーン』を使っているので、一応安全性はある程度確保されている。


「ふー……やれやれ、とりあえず一安心かしらね」


硬焼きのパンをスープで流し込みつつ、ふぅ、と一息ついたレーネが、そんなことを。

その隣で、相当硬いはずの硬パンや干し肉を、普通にかみちぎっているビーチェ。すごいな吸血鬼、顎の力と牙の鋭さが可能にするんだろうか?


「けど……結局逃げ出すことになっちゃった。あーぁ、これからどうしよ?」


「大丈夫だって。何とかなるよ……私もほら、隠れ里滅んで旅に出てる身だし、これからがんばろ?」


「……また反応に困る慰めをどうも。お姉ちゃん泣けてくるわ」


そんな皮肉交じりのセリフだけども、その実、ちょっとだけ嬉しそうにしていた。

頼もしさとか、心配してくれる嬉しさみたいなのは感じてるのかもしれない。


「まあ、先行き不安みたいなのもそりゃあるんだけどさあ……それと同じくらい、『今まで住んでたのに追い出されたー!』っていう感じの悔しさもあるんだよ……」


「ああ、それもわからなくもないけど……でも、今回は仕方ないんじゃない? だって、もともと環境的に住めたような土地でもなかったっていうか……あ、いや悪く言うつもりはないんだけど……ほら、いつその、王政府とかいう連中の都合でひどい目にあうかわからなかったんだし」


「まあね……今回みたいにね」


「その点私はほら、よくわかんないうちに故郷滅ぼされてるけど、何とかなってるし」


「いや、だから反応に困るんだって……」


「とりあえず、私たちもそうなんだけど……まず、旅しながら、どこか住み着けそうなところとか探してみるつもりでいるし。ビーチェ達もさ、一緒にのんびり旅しよーよ?」


「そうだね……もうこうなったら、そうするのが一番、かな」


……まあ、彼女たちからしたら、いきなり住んでたところから追い出された形なわけだから……心の整理をするには、もうちょっと時間が必要かもしれないな。


とりあえずはこの先、魔物とかに気をつけつつ……今まで、王都につくまでやってたみたいな旅を続けることになるかな? とか思ってたんだけど……


……この後、そんな考えが、根本からひっくり返されることになると……まだ、僕らは、知らない。




それは……休憩を始めてから十数分後。

そろそろ出発しようか、って考え始めたくらいのタイミングで起こった。


いや、現れた。


「「…………!」」


それに反応したのは、レーネやレガート、そのほか……エルフ達だけだった。

まるで、何かが聞こえたかのように、ゆっくり休んでいた姿勢からばっと起き上がり、目を鋭くしてあたりの様子をうかがっていた。


聞こえたらしいんだけどね、実際に……『笛』の音が。


エルフ達が狩り、もしくは戦いの際に相互連絡に使う、エルフの聴力や魔力波長をもってしなければ聞き取れない音を出す笛で……アナログではあるけど、魔力ほぼゼロで素早く使えるため、重宝している。


その笛の音で、見張りの皆さんが知らせてきた情報とは……


「……何て? レーネ」


「……こう、聞こえたんだけど……レガートさん、どうだった?」


「私も、そう聞こえた……信じがたい、というか、厄介極まりないが」


「ああ、そう……よし、じゃ……」


逃げよう。



『北から、王国軍。静かに接近中。30分ほどで追いつかれる見込み』


『東から、帝国軍。隠れて接近中。20分ほどでここに来る見込み』



現在時刻、午前4時。まだ日も登ってきていない、暗い時間帯。

何だかもう、しつこいストーカーのごとき両軍に追われる形となっている僕らは……その魔の手から逃れるべく、さっさと荷物をまとめて出発するのだった。





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