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第53話 軍靴の足音



ダンジョン攻略の翌日。

あんまり必要ない睡眠を、ちょっとの時間だけ取って起きてみると……何やら、スラム街が騒がしくなってるような気がした。


外に出て気づいた程度のそれではあるけど、何だろう……大通りからかな? 大勢の人が集まって……演説? みたいなのを聞いているようだ。


ちょっと気になったので、鞄モードになり、リィラにでも持ってもらってカモフラージュしつつ、行ってみようかな、なんて思って準備してたら……中庭で、ビーチェ達が、リィラも一緒になって……子供たちに『今日は外に出ないように』と言って聞かせているところだった。


「ビーチェ、何かあったの?」


「あ、リィラ……と、シャープか」


手荷物になっている僕は一拍遅れて気づいたらしい。


そのビーチェの横には、レガートやバートも立っていて、なぜだか一様に真面目な……というか、殺気立った、とすら言えそうな雰囲気になっていた。

……何かはあったみたいだな。これは。確実に。


「丁度いい、これからシャープ殿らにも話そうと思っていたところなのだが……」


どうも、王政府から臨時に『志願兵』の募集があったらしい。

さっき、表の通りで何やら騒がしかったのは、それだったそうだ。


この国がかなり頻繁に、戦争やそれに類することをやってるってのは、前にも話題になったことだけど……その際に当然必要になるのが、兵隊である。


常備軍の他に、戦争を続けるうえで必要になると判断されれば、戦時中の日本みたいに、国民で戦えそうなのを『徴兵』して使うこともある。


そして、それでも足りなければ……志願兵という形で、本来、正規の募集企画からすれば適さない立場の者を連れ出すこともある。

今、このスラムで行われているのは、それらしい。


食い詰めたスラムの浮浪者たちに、『1日3度食える』『給料が出る』『必要なものは体だけ、他は全て支給される』などの雇用条件を殺し文句として並べ、兵士として戦う者を募る。

まあ、その多くは使い捨て上等の消耗品として扱われるわけなんだけども。


配給品もないスラムの人たちは、正規の市場か闇市かを問わず値上がりが続き、食うに困る者が続出。場所・状況によっては餓死者まで出ていることもあり……この誘いに乗る人は見てる感じでも多く、すでに数十人単位で志願者が出ているそうだ。

彼らはこの後、軍の屯所で簡単な試験を受け、そこで合格すれば兵士となる。


そしてそれとは別に、めぼしい奴に軍の方から声をかけるスカウトみたいなのもあるらしい。

もちろん、兵士に適した若い男が中心だけど……裏方の雑用に使えればいいっていう判断基準から、多少ひ弱そうでも受かるし、戦力には絶対になりようにない若い女でも、飯炊き要員や、たくましいところでは……慰問団なんかに入って稼ごうとしたりもするそうだ。


孤児院の子供で、年長の子あたりなんかもそこに含まれるので、そういうことのないように『外に出るな』と言っていたんだそうだ。


軍隊も、さすがに家――ほとんどが廃屋――を一軒一軒回ってまで勧誘したりはしないらしいので、しばらく大人しくしていれば大丈夫だそうだ。

子供たちは外に出さず、大人……若い衆も、日雇いはしばらく休んでいるとのこと。


いつもならその間、食料その他を得るのが普段にもまして困難になるそうだけど……今回は、僕らが調子に乗ってダンジョンで狩りまくったので、その心配は多分ない。


「ちょっと不謹慎だけど……戦争の間は、武器や防具の材料になる鉄くずなんかが高く売れるから……そういうのを専門に取り扱う買い取り業に持ち込めば、かなり余裕できると思う。一気に売ると目をつけられるし、買いたたかれるから、少しずつ売ることになるかもだけど」


「おそらくですが、今ある分のうち……我々の取り分としていただける、と言われた部分だけで、この先数か月は何もせずとも食べられるでしょう」


「……でもさ、このタイミングで鉄製品とかを一気に持ち込んだりしたら、それだけで目つけられないかな? ちょっと工夫した方がよくない?」


「大丈夫よ……こんなスラムで持ち込まれるものなんて、まともな方法で手に入れたものじゃない、ってこと自体が前提みたいなものだから」


さすがに戦争中。それも、ただでさえ普段から無法者の地帯のスラム街。

これでもかっていうモラルハザードなんだな。


「仲買は儲かれば何でもいい。それをさらに買い上げる軍隊は、資材が入れば何でもいい。どちらも、自分にとって望む結果さえ得られれば、少しくらいおかしなことがあったからって、それ調べるのに使う労力がもったいないから見逃してくれるわ」


「なるほど……ちなみにシャープさん、工夫ってどうするつもりだったのですか?」


と、ビーチェの説明に納得しつつ、リィラが訪ねてくる。


「あーほら、そこは無難に……その辺にありそうな鉄くずに偽装するとか、さ」


「なるほど、怪しまれないためですか……加工するのは、シャープさんのスキルを使えばさくっとできてしまいますし……それが必要な時にはいい手かもしれないですね」


「まあね。時間さえもらえればさっとやっちゃえるし。そのへんにありそうな、金属の窓枠とか、扉とか、雨樋とか……アレな言い方だけど、かっぱらって売っぱらえるラインのものでさ」


孤児とか浮浪者とかって、人のいない廃屋とかからそういうの見つけ出してきて、売って金にする、っていうやり方で稼ぐってよく聞くし。その延長上だから、そんなに違和感もあるまい。物価高で大変になった分頑張ったとか思ってくれればもうけものだ。


「正直ぶっちゃけすぎにもほどがあると思うですが、実際その方がいいので複雑なのです」


ため息をつくリィラ。


しかし、もう1人分ため息が聞こえたので、聞こえた方を見ると……ビーチェだった。


「男手の稼ぎがないのはつらいけど、今までと違って懐に余裕がある分ましだね。さっさと終わってくれるのを待つしかないか……」


も1つため息をついて、手にしている紙を見ている。


「コレ、そこの通りで軍がばらまいてたチラシよ。朝市での買い物帰りに、ナーディアが拾ってきてくれたの。身近に見込みありそうなのがいたら声かけてみてくれ、だってさ」


そう言って、ぴらっとひっくり返してこちらにも見せてくる。

へー……何か、簡単というか、ざっくりというか……。


絵……っていうより、版画かコレは。兵隊と、金貨銀貨の絵。

あと、下の方に、申し訳程度に雇用条件がちょっと書いてあるだけ。


日本のバイト募集みたいに、詳しく雇用条件とかが書かれてるわけじゃないんだ?


「スラムには字が読めない者も多いですから。でもこの絵なら……『兵隊』をして『報酬』をもらう、って意味だとわかるでしょう? 街頭で兵隊さんたちが説明もしてますし」


と、ナーディアさん。なるほど。

字が読めなくても意味が分かるチラシ。もっと詳しく聞きたきゃ、直接聞け、ってことね。


するとその時、一緒に見ていたリィラが何かに気づいた。


「ん? ビーチェ様コレ、下の記載に『若く健康な男性を募集』って書いてありますけど……」


「え? うん、そうだね。まあでも、多少年食ってても受かるよ、審査雑だから」


「いえ、そうではなく……女は募集しないのでしょうか? ほら、さっき言ってた、慰問とか」


「? そういえば……でも、この募集があるってことは、そういう女性の募集もあるっていうのは、半ば常識っていうか、暗黙の了解の域だし……載せるまでもなかったんじゃない?」


「いえ、それがちょっと違うみたいで……そう思ったらしい、娼婦っぽい女性が声をかけていたんですけど……『今回は女の募集はまだない』って言われて、断られてましたね」


と、ナーディアから補足。それを聞いたビーチェは、


「『まだ』ない、ってことは……後回しってこと?」


「『近いうちにある』とは付け足してましたね。具体的にいつかは言いませんでしたけど」


ふーん、そういうこともあるんだ?


「……私が知る限りは初めてだけどね。何か意味あるのかな?」


「さあ……募集をそもそもしないならともかく、わざわざ遅れさせるとなると……人員が足りているか、はたまた、今現在懐に余裕がないか……」


「後者だとしたら、この国の戦況ってやつが本格的に不安になるわね。王都でしょ、ここ? むしろ物資とかお金なんて集積してるような場所でしょうに。ケチなのかやばいのかどっちよ」


「いや、知らないけど……てかレーネ、いつの間に」


いつの間にか、レーネが横からチラシを覗き込んでいたことに気づいたビーチェ。


「まあ、どっちにしても私らには関係ないし……放っといていいんじゃないの?」


「私もそう思ってたんだけど……ちょっと嫌な予感を示唆されて不安かも。この国、ひょっとしてさすがにピンチなのかな?」


「いえ、聞いた感じ、普通に戦えているようです。どちらかと言えば、優勢だそうですよ?」


「あっそ。じゃ、考えすぎかしら?」


「だといいんだけど……」


ちょっとだけまだ不安そうにしつつも、もうすぐみんなで朝ごはんタイムなので、その準備のためにビーチェ達は部屋を出て行った。


……僕もちょっと心配だな。

こういう嫌な予感に限って当たるもんだからな……というか、この世界に来てからは、大体こういうタイミングで何か凶報が飛び込んでくるか、何かが起こるか……あるいは、その前段階として頭の中に――


――ぴこーん!

『特殊なクエストが複数発生しました』

『キークエストが複数発生しました』


――来ちゃったよ。しかも、特殊とキークエ両方? しかも、複数?

どうしよう? タイミングがタイミングだけに、見るのガチで怖いんだけど……


けど、見ないともっとやばいことになる可能性も……ええい、仕方ない。

おいでませ、黙示録ネタバレブック



≪挑戦可能クエスト一覧≫


・『運命の子供たちと契約せよ!』≪キークエスト≫……CLEAR!

  報酬:契約メンバー全員の成長限界突破(一段階 永続) 特殊能力獲得

・『路地裏のならず者たちを倒せ!』

・『孤児院の子供たちに救いの手を』……CLEAR!

  報酬:受取済

・『ダンジョン『栄都の残骸』を攻略せよ!』……CLEAR!

  報酬:金貨3枚 小金貨20枚 攻略者全員経験値獲得

     魔剣トゥルーブラッド 闇の歯車×5

・『ロニッシュ家の隠し財宝の謎を解け!』……CLEAR!

  報酬:受取済

・『明かされるロニッシュの真実』……CLEAR!

  報酬:特殊クエスト開放 特殊能力『●●●●●』獲得フラグレベル1

・『帝国軍の夜襲』  Count ≪16:44:12≫

・『王都エイルヴェルを防衛せよ!』

・『スラムの民達を助け出せ!』

・『帝国軍を撃退せよ!』

・『スラムを脱出せよ!』

・『帝国軍主力・魔物部隊を倒せ!』

・『帝国軍の襲撃部隊を殲滅せよ!』

・『王都エイルヴェルへ進撃せよ!』

・『王都エイルヴェルを制圧せよ!』

・『●●●●●』

・『●●●●●』



ほらあ……なんか不吉なのわんさか出てるよー……


と、とりあえず……


『全員集合―――!! 緊急事態! ガチでやばい! 地下室で会議―――!!』





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