第51話 クリア後のご褒美もろもろ
『ダンジョンボスを撃破しました』
『ダンジョン『栄都の残骸』の攻略に成功しました』
『攻略者全員に攻略報酬が送られます』
『攻略者チームが『黙示録』を所持していたため、報酬が追加されます』
『シャープ達は『秘密の部屋のカギ』を手に入れた!』
『シャープ達は『隠し宝物庫のカギ』を手に入れた!』
『シャープ達は『魔剣・トゥルーブラッド』を手に入れた』
『シャープ達は『闇の歯車』×5を手に入れた!』
そんなアナウンスと同時に、何もない空間に光が寄り集まって、いくつもの形を成した。
現れたのは、古びた鍵が2本と、鞘に入った剣が1本。
それが、ゆっくりと降りてきて……かちゃ、と静かに床に置かれた。
そして同時に、部屋の奥に突如として現れる扉。
重厚なその見た目から、ボス部屋の扉を一瞬連想してしまったけども……どうも、見た目とか色々違うな? 周囲の壁に比べて、造形に違和感があんまりないし……やたら古びた感じに見える。
しかも、ど真ん中に何か……紋章みたいなのが……
「あれは……ロニッシュ家の家紋か? なぜ、こんなところに……」
と、レガート。
ダンジョンの中の扉に、ロニッシュ伯爵さんち――つまり、レーネとビーチェの実家の家紋? 何でそんなもんがついて……
「……まさかとは思うけど、レガート、そのロニッシュさんって個人でダンジョンを所有してたとか、そんなことは……」
「あるわけがないだろう。だが、あれは間違いなく、ロニッシュ家の紋だ……」
「……ねえ、この鍵にもついてるわよ? 同じマークが」
と、レーネが、今空中から落ちてきた鍵の1つを手に取って言う。
見せてもらうと、確かに同じ紋章が刻まれていた。それに加えて、扉の方には……ちょうどいい感じの鍵穴がある。
レーネが、手にしている鍵をそこに入れて回すと……がちゃり、と、いかにもな音が。
取ってを引いてみると……動く。どうやら開いたようだ。
ので、そのまま開いて中に入ると……そこは、今までのダンジョンのつくりとは全く違う感じの空間になっていた。
というか……同じ『ダンジョンの中』だとは思えない空間だ。だってここ……
「……何ここ? 休憩所?」
「ダンジョンに、そんな場所があるというのは聞いたことがありませんが……そもそも、休憩も何も、我々はもうこのダンジョンを攻略した後なのですし……」
「じゃあ、隠しエリアとか? もしくは、攻略達成した人だけがこれるボーナスエリア」
「『隠しエリア』に『ボーナスエリア』ね……そのまんまなネーミングだが、言い得て妙だな。たしかに一応、そういうのがあるダンジョンもあるらしいが……今回は違いそうだぞ? 置かれてる家具が……どれも高級品だが、見た感じ普通に店売りの品だ」
「確かに……貴族の家の客間、って感じかも。というか、この配置……見覚えが……」
と、ビーチェが言ったところで、はっとしたようにレガートが、
「配置? ……! そうだ、この家具の配置は……ロニッシュ家の離れのリビングと同じ!」
「……あ、ホントだ。そう言われればそうかも」
「え? マジで? 何だってダンジョンの中にそんな空間が……」
「いや、間違いない。棚、机、ソファ……それに他の扉の位置も……何もかも同じだ。見た感じ、家具の種類は違うが……単なる偶然にしては、あまりにも……」
と、さっきにもましてきょろきょろと周囲を見回すレガート。
ビーチェがおもむろに歩き出し、今僕らが入ってきたもの以外にもいくつかある扉のうちの1つに手をかけて……開ける。
「……やっぱり、ここの扉が調理場」
「間取りも同じ、ってこと?」
レーネの問いに、首肯するビーチェ。
「もしここが、あの屋敷の離れを模して造られているのなら……この向こうは、寝室のはず」
言いながら、また別な扉を開くレーネ。
開けた先には、大きめのベッドが2つ。寝室だ……ビンゴ。
ただし、その上に……余計なものが載っていた。
「「「……?」」」
一瞬、誰か人が寝てるのかと思った。けど……違った。
置かれていたのは……鎧だ。人間用の……全身を覆う、西洋甲冑だ。頭の部分のパーツ以外が全部そろって、まるで人間が寝ているみたいにそこに置かれている。
ちょっとそれを不思議に思った僕が、部屋に入る前にそれを『鑑定』してみると……
★品 名:ロニッシュ家私兵の騎士甲冑・特注
レア度:3
説 明:ロニッシュ家の上級私兵だけが身につけることを許された騎士甲冑。
鋼鉄製であり、かなり重いが防御力は戦場でも通用するレベル。
本品は騎士・フェルミアーテの専用にと作られたオーダーメードである。
そんな鑑定結果が出た。
へー、ロニッシュ家の私兵のねえ……てか、誰だフェルミアーテって?
知ってる人いないか聞いてみたら……レガートとビーチェの手が挙がった。びっくりした顔で。
聞いてみると、どうやらレガートと並ぶ私兵の幹部の1人だったらしく、剣の腕はレガートと同等かそれ以上。元主人の覚えもめでたい、優秀な護衛兵だったそうだ。ちなみに女性。
レガートとは、実働部隊のレガートに、護衛部隊のフェルミアーテ、って感じで、双璧をなすように語られる存在だったそうな。
そんな人の鎧が何でここにあるのやら……というか、やっぱり気になるぞ。このスペースは一体何なんだろう? 何度も言うけど、何でこんなダンジョンの奥に……
その後、部屋をひとまず全部調べてみた。
カギがかかってる部屋があったけど、攻略報酬として出てきたもう一つの鍵……『隠し宝物庫のカギ』を使うと開錠できた。つまりは宝物庫である。
普通にリビングに隣接する感じで扉あったし、『隠し』てはない気がするけど……まあ、こんなところにある時点で十分隠れてるか。
で、そこには……すごい量の、とまでは言わないけど、かなりの量の金銀財宝が納められていた。金貨や銀貨はもちろん、宝石・貴金属類や、なんか高そうな壺やら何やら。剣とか鎧とかの武具も、かなり高品質そうなのがたっぷり収められていた。
売れば、日本円で数億は下るまい。何年遊んで暮らせるか……いや、もし仮にあのスラムでの生活をベースとすれば、あそこにいる全員が数十年食うに困らないかもしれない量だ。
……まあ、金持ってることによる弊害とかもあるだろうから、一概には言えないけど。
しかし、そんな感じで家探ししてみたものの……他にめぼしいものはなく、結局謎は謎のままだ。
僕らは、もらえるものを全部……それこそ、家具とかも状態のよさそうなものは折角だから全部いただいた上で、ダンジョンを制覇したことによって使えるようになる、ワープの効果がある魔法陣(さっきボス部屋に新しく出てるのを見つけた。奥の宝物庫まで調べた後で出てきてくれる親切設計だろうか?)を使い、地上に戻った。
☆☆☆
教会に戻ると、ちょうど夕方近い時間になっていたので、そのまま夕飯を食べ……大人連中にだけ、『ダンジョンを攻略した』って話しておいた。びっくりしてた。当然だけど。
で、その後の諸々の説明とか対応はレガートとビーチェに任せて、僕とフォルテ、それにレーネとリィラは、ダンジョンから持ち帰った戦利品の整理を、奥の広い部屋で行っている。
……丸一日以上ダンジョンに潜って戦い続けてただけあって、とんでもない量がたまったもんだ……これ下手したら、朝までかかるんじゃ……?
スケルトンからはぎとった装備(剣とか槍とか)、ダンジョンの中の宝箱とかから入手したアイテムや金貨銀貨各種、最後の隠し部屋から出てきた金銀財宝各種。
まあ、なんていうか……価値のあるものが多いおかげで、『鑑定』して仕分ける時に驚かされることも多く、精神的にも結構刺激的で楽しくもあるので、苦痛ではない。
けど……1つだけ、気になってることがあるのだ。
それはさっき、一休みして落ち着いたところで、やっべ忘れてた、と思って『黙示録』を確認したときのこと。
≪挑戦可能クエスト一覧≫
・『運命の子供たちと契約せよ!』≪キークエスト≫……CLEAR!
・『路地裏のならず者たちを倒せ!』
・『孤児院の子供たちに救いの手を』……CLEAR!
・『ダンジョン『栄都の残骸』を攻略せよ!』……CLEAR!
・『ロニッシュ家の隠し財宝の謎を解け!』
・『●●●●●』
『契約』と『攻略』の2つのクエストが『CLEAR!』表記になっていた。
ここで、奇妙なことが発生していることに気づく。
『攻略』がクリアになってるのに、『隠し財宝』のクエストが未達成になっていることだ。
よくわからない? じゃあ……『攻略』の詳細な条件を表示しようか。
≪クエスト詳細情報≫
・『ダンジョン『栄都の残骸』を攻略せよ!』
期限:なし
状況:CLEAR
攻略条件:
1.夜間に挑戦せよ……達成
2.アンデッドモンスターを150体以上倒せ……達成
3.第4層にいる『エリートスケルトンナイト』を討伐せよ……達成
4.最下層で『ロニッシュ家の隠し財宝』を手に入れろ……達成
5.ダンジョンボスを討伐せよ……達成
以上5つ全て達成でクリア
この通り。もうわかっただろう。隠し財宝関連の条件がおかしいのだ。
クエストの条件としての『手に入れろ』は達成。
しかし、クエストの『謎を解け』が未達成。
このことから、おそらく、あの宝物庫の金銀財宝ざっくざくが『隠し財宝』だったのはわかったけども……それらの財宝に、まだ『謎』とやらが残っていることになるのだ。
なので、わからなくならないように、宝物庫の財宝の方にはまだ手を付けていない。他全部の仕分けと収納が終わった後で、じっくり仕分けしつつ調べようと思っている。
……で、深夜までかかってようやく普通のアイテムの仕分け・集計が終わり、宝物庫の中身の仕分けに進んだんだけど……こちらは、全体から見れば種類も量も少なかったので、高価な文慎重にやっても、1時間とかからずにすぐに終わった。
が……『謎』に絡みそうな要素は1つも見つけられていない。
宝物はどれも、かなり高く売れそうなものばかりではあれど……何の変哲もない、と頭につけてもよさそうなくらいに、そのまんま『宝物』な品ばかりだった。
武器とかの中には、攻撃力UPとかの特殊効果が付くものもあったけど、そこまでずば抜けた特性のものは出なかった。
全部を全部鑑定し終えたところで、再度『黙示録』をチェックしてみたものの……やはり、『謎を解け』は達成になってはいない。
一体どうすりゃいいんだか……謎って何よ、謎って。それがもう謎だよ。
その後、念のためもう一度、一通り宝物庫の財宝を調べてみたものの……それらしいものはなし。
いくつか混ざっていたマジックアイテムや貴重な武器も、何か『謎』を連想させるようなものはなかった。
★品 名:ミスリルの短剣
レア度:4
説 明:ミスリルでできた短剣。
鋼よりも頑丈で、アンデッドや悪魔系統の魔物に対して効果が高い。
★品 名:魔よけの宝珠
レア度:4
説 明:周囲に低級な魔物を寄せ付けない結界を張ることができるアイテム。
どの程度の魔物にまで有効かは、発動させたものの魔法力による。
★品 名:乾燥マンドラゴラ
レア度:5
説 明:様々な秘薬の原料となる魔法植物を乾燥させ、劣化、腐敗を防いだもの。
引き抜く時に、聞いた者の精神に大ダメージを与える悲鳴を上げる。
この悲鳴によるダメージは、聞いた者の魔法力で上下する。
普通のお宝じゃないのはこの3つだ。しかし、どれも、何か特別なマジックアイテムというわけではなさそうで……。
まあ、どれも有用なアイテムだから、不満ってことはないんだけど……。
一縷の望みで、専門家と呼べるフォルテに見てもらっても……何もわからなかった。
あーもう、わからん! 何なんだよ謎って……。
『手に入れろ』がクリアになってるんだから、この中に何かしらのヒント、ないし『謎』そのものはあるはずなんだけど……。
「お疲れー。仕分け、まだ終わんないの? もう夜中過ぎてるけど……」
そんなところに、パジャマに着替えたビーチェがやってきた。そんなかっこで寒くない?
「いや、それは終わったんだけど……」
と、レーネが言ったところで……ビーチェの目が、ふと何かに気づいたように『ん?』って感じのものになった。
その視線の先には……さっきも鑑定したばかりのアイテム『魔よけの宝珠』がある。
「……? ちょっとそれ、見せてもらえる?」
「え? いいけど……これがどうかしたの?」
レーネからそれを受け取ったビーチェは、その宝珠……指でつまめるくらいのサイズの、半透明な水晶玉だ。そこに、キーホルダーみたいな金具がついてる。
これに魔力を流すと作動して、魔よけの力を発揮する、ってことらしいけど……。
その宝珠を、ビーチェはじっと見つめたり、なぜか匂いを嗅いだりしていたかと思うと……
「……あむっ」
ぱくっ、と、
飴玉を食べるみたいに、口に含んでしまった。
「「「……!?」」」
あっけにとられる僕らの目の前で、ビーチェはホントに飴玉を食べているように、口の中でころころと宝珠を転がしているようで……数秒後、はっと我に返ったレーネが立ち上がる。
「ちょ、ちょっとビーチェ!? あ、あんた何して……!?」
「――ぺっ、やっぱりそうだった」
と同時に、口に含んでいた宝珠を掌に吐き出すビーチェ…………ん?
「何そんなもの口に入れて……え?」
手の中を覗き込んだレーネ以下、僕ら全員が、また違う驚きと共に、そこに視線を集中。
ビーチェの掌の上にある、吐き出されたもの。
それは……さっきまでの『宝珠』ではなかった。
さっきまでのがピンポン玉くらいで、色は無色・半透明だったけど……今は、ビー玉くらいの大きさで、色は金色だ。しかも、キーホルダー的な部品が取れて、バラバラになっている。
ビーチェは、その金色の玉の表面を、ハンカチで軽く拭くと……こっちに差し出してきて、
「はい、コレ。鑑定しなおしてみて?」
とのこと。
言われるままに、謎の金の玉を見てみると………………はぁあああ!?
★品 名:ダンジョンコア
レア度:10
説 明:ダンジョンの核となる神秘の物質。ダンジョンを作ることができる。
使用者は、作ったダンジョンのダンジョンマスターとなる。
なお、『黙示録』を持っている者は、詳しい使用法等がそこに記載される。
『クエスト『ロニッシュ家の隠し財宝の謎を解け!』を達成しました』
『シャープ達は『ダンジョンコア』を手に入れた!』
『シャープ達は『ロニッシュ家の極秘文書』を手に入れた!』
『シャープ達は『カート・ル・ロニッシュの手記』を手に入れた!』
『条件を満たしました。特殊なクエストが発生しました』
『特殊クエスト『明かされるロニッシュの真実』が発生しました』




