第50話 VSスケルトンドラゴン
『アークデーモン』戦と同じで、『スケルトンドラゴン』との戦いは……相手の開幕攻撃から始まった。すごい勢いで、こっちに突進してくる。
翼を使って飛ぶ様子はない。4本脚で突っ込んでくる。あえて飛ばないのか、それとも飛べないのかはわかんないけど……どっちにしろすごい勢いだ。
「全員下がってろ! シャープ!」
「OK!」
フォルテの声に応じて、後方にいた僕は前に飛び出し、武器……ではなく、大型のタワーシールドに変形して、その隣に着地した。
大柄なフォルテがすっぽり隠れてしまうサイズの盾。それを手にして、構えるフォルテ。
一瞬間をおいて、ドゴォン! とすさまじい衝撃が来る。
お、重っも……!? なんて威力だ……僕の体がちょっと軋んだぞ。
防御力では相手の攻撃力を勝ってるのに……加速してて勢いがついてたからか? いや、単純にでかい分重さが乗ってたから、って可能性も……どっちでもいいか。
突進が止められたことを悟ったスケルトンドラゴンは、今度は両手を振り上げて、その爪を叩きつける攻撃に移ってきた。
これをフォルテは、今度は僕を使って受け流す感じでいなして対処していく。
さっきよりはだいぶ楽だけど……やっぱ衝撃大きいな。響く。
その横合いから、リィラがクロスボウを連射してくる。
矢の種類は……全弾『銀の矢』だ。大盤振る舞いだけど……大して効いていないらしい。
防御力もあるだろうけど……それ以上に、この『神聖属性耐性』とやらのせいだろうな。
さっきからフォルテも、隙を見て魔力弾とかで攻撃してるんだけど、いまいち効果が芳しくない。普通のスケルトンなら一撃で粉砕できる攻撃なんだけど……どうも、炸裂した瞬間に、威力の大部分が散っちゃってるような……そんな風に感じ取れる。
これが『耐性』の効果か……本来通るはずのダメージがカットされている。
スケルトンドラゴンの攻撃はだいぶ大雑把だ。慣れれば、よけたり受け流したりするのは難しくない。ただし、こいつは素の攻撃力が尋常じゃないので、相応の防御力を持ってないと、受け流す以前に強引にぶっ飛ばされそうだけど。回避メインが吉か。
「ちっ……硬ェなこいつ。効いてないわけじゃなさそうなんだが……手が足りねえか」
「フォルテ、ならば我々も……」
「だめだ、俺たちの火力でこれだと……少々の打撃斬撃じゃ焼け石に水だ。魔法使えるのは……」
「なら私が精霊魔法で戦おう。レーネとビーチェ様は……」
「いや、私はほら……使えるけど、ろくに練習とかできてないから……実践レベルじゃないし」
「私も、使えるけど火力あんまないかも……」
レーネとビーチェは魔法に自身がないようで……物理攻撃が通じないとなると、対応が難しいわけか。となれば……
「フォルテ、これ使え!」
言うと同時に僕は、ハルバードを出した。かなりの重さで、刃もあるが鋭くはない……刃物と鈍器の中間で、『叩き切る』って感じの使い方をする奴を。
ただし、ちょっと改良してあって……刃の部分に、『銀』を混ぜてあるのだ。
フォルテは、それを見ただけでこっちの意図を察し……ハルバードを手にすると同時に、鞄モードに戻った僕をレーネに放る。
「うぇ!? しゃ、シャープ、何!?」
「作戦変更! フォルテがあのハルバードで前衛やるから――」
説明してる間に、スケルトンドラゴンを相手に猛攻を仕掛けるフォルテ。
重さと、それに似合わない速さと取り回しで攻め続ける。
攻撃は最大の防御、と言わんばかりの怒涛の連続攻撃。しかも、意外と芸が細かく……極力、骨と骨の継ぎ目……関節を狙って叩きつけている。そして、骨のど真ん中の肩そうな部分を叩く時は、斧の刃でない方で『打撃』を使っている。耐性があっても、斬撃よりマシなようだ。
そして、その間を縫うような感じで……火炎弾が飛来し、スケルトンにぶつかっている。
レガートの精霊魔法だ。アンデッド相手には、一番効くのは『神聖』と『光』、次いで『火』だ。セオリー通りだが……そこそこ効果的なように見える。
しかも、弾丸だけじゃなく、紐みたいに絡みついたり、弾けて目くらましになったり、火炎放射みたいに継続して吹き付けたり……変幻自在だ。まるで炎が生きているかのようだ。
おまけに、魔法の構築が早い……実戦で研ぎ澄まされた感じが見て取れる。
やっぱり、ベテランの戦士は違うな……ステータスではレーネやビーチェの方が上だけど、あの戦い方は、あれによる戦果は、とても真似できないだろうし。
とか思いつつ、レーネに作戦の概要の説明を終了。
難しいものじゃなく、レーネが僕を使ってフォルテと一緒に接近戦、レガートが魔法で、ビーチェとリィラが武器を使って遠距離戦、って感じだ。
が、聞き終わったあとでレーネは、
「それなら……私よりビーチェがいいわ。攻撃力高いし。私は、ちょっと別にやってみたいことがあるから……頼める、ビーチェ?」
「え、ええ~……ちょ、ちょっと正直自身ないんだけど……うん、わかった、やってみる」
「よし、よろしく。シャープ、ビーチェが使いやすそうな武器に変形したげて。私はその間……ちょっと小細工するから」
「……? よくわかんないけど……了解。ただし、危なそうだったら元の作戦でいかせてよ? じゃ、ビーチェ……武器どうする? 斬撃があんまり効かない相手だから、鈍器系か、叩き切る大剣とか戦斧とかがいいと思うけど……」
「……そ、それじゃあさ、―――とか、できる?」
「……えっと……うん。やったことないけど……うん、やってみる」
言ってから、僕は変形を開始。
箱部分を展開し、いくつもの角ばった棒状に枝分かれさせ……その中心に、円筒形にしたパーツを通して、それを覆うように固定。あ、銀まぜとこ。
さらにそこに、槍とかの要領で長い柄を生やして、重量に負けないように、強化。
出来上がったのは……メイスだ。
ただし、殴打する槌部分はドラム缶くらい大きく、柄の長さは長物のそれという、巨大メイスだ。
殴打武器ってことで思い浮かんだのがコレらしいんだけど、アレ相手に近づきすぎると手痛い反撃をもらうことになると思うので、遠心力とかも生かせるように長くした。
それを手にし、さらに手の保護のためにガントレットも貸してあげたうえで……いざ、参戦。
ちょうどよく、フォルテがスケルトンドラゴンの攻撃を受け流し、敵がこちらに横っ腹を向けて隙ありの状態だったので……素早く踏み込むビーチェ。
訓練の成果だろう、速さ、タイミングともに、申し分ない踏み込みだ。
中段に僕を構え、引き絞ってためてためてためて―――
「――ィやああぁああっ!!」
後ろ足の片方をめがけて、わずかに振り上げる感じでフルスイングすると……ばぎぁあっ!! と、とんでもない音がして……そのままスケルトンドラゴンがひっくり返った。
直撃した足は……蜘蛛の巣みたいにひびが入り、変な方向を向いていた。普通に骨折である。
「おいおい、エレー威力だな」
「……うそぉ……」
周囲、唖然。
ビーチェも唖然。一番驚いとるかも。
……当初、僕が単独でなく、武器に変形してレーネに使われる攻撃方法を選んだのは……そうすると、レーネのステータスに僕のステータスを相乗させた威力を出せるからだ。条件にもよるけど、僕単体で戦うよりも、手数は減るが威力は上がる。
恐らくこれは、『使役術』とか『契約』系列のスキルが絡んでくる要素もあるからだと思ってたんだけど、『絆の杯』で僕とつながってるビーチェがこれだけの威力をたたき出したところを見ると、あってたみたいだな。
それにしたって……すごい威力だ。ビーチェの攻撃力が、フォルテに次ぐ水準だったこともあるだろうけど……『耐性』が入ってる相手の防御をこうも豪快にぶち抜くとは。
が、これはうれしい誤算だ。ありがたくその恩恵にあずかるとしよう。
「やるわねビーチェ……コレは私も負けてらんないわ!」
そんな声が聞こえたかと思うと、僕らの斜め後方にレーネがいて……なぜか、野球のピッチャーの投球フォームみたいなポーズをとっていた。
ポーズだけじゃないな、何か実際に投げようとしてる。手に何をもって……瓶?
そのまま、いっそほれぼれしそうなくらいに見事なフォームで、大きく振りかぶって……投げました一球目!
速ぇ!? 160とか出てないアレ完全に!?
大リーグで通用するんじゃないかってレベルの剛速球は、ちょうど起き上がろうとしていたドラゴンの――今しがた僕らが亀裂骨折させた部分に吸い込まれるように飛んでいき、ガシャン、と音を立てて砕け散った。中身の、何かの液体が飛び散ってええええええ!?
「と……溶けた!? び、ビーチェ!? 何アレ!?」
「ふっふっふ……でかかろうが骨には変わりないでしょ? 生身なら骨まで溶かす。食虫植物の溶解液……それをちょっと、手に入る材料で再現してみたのよね。量がないから使うタイミングがなかったんだけど……いやあ、作っといてよかったわ」
「怖えー……」
そんなん作ってたんすか……知らんかった。保管とか気を付けてよ?
無数の亀裂もあって脆くなっていた骨は、その凶悪な薬品攻撃で、どろりと大腿部から溶け落ちてしまい……スケルトンドラゴンはまともに立つこともできなくなってしまった。
恐らく、完全に無事な状態の骨にかけてもあそこまでの効力はなかったと思うけど、ひびが入って表面積が増えてたから、致命的だったのかも。内側まで流れ込んだだろうし。
そんな有効打が決まったというのに、レーネはさらにまだ何かする気らしい。
また別なビンを振りかぶって……投げた。
今度は肋骨のど真ん中に命中。バリンとわれて、中身がべちゃっと…………『べちゃ』?
何だアレ? 鳥もちみたいに、肋骨に絡みついてくっついて……煙が立ち始めた?
また溶解液……ちがう、あの感じは……
「まさか……銀?」
「そうよ。こないだ分けてもらったでしょ? フォルテ産の銀。アレを細かく砕いて、あの鳥もち状にした液に混ぜてあったの。で、それがくっついて苦しんでるってわけ」
ホントだ、ドラゴン、苦しそう……っていうか、動きづらそうにしてる。
「耐性あっても、全く効かないわけじゃないみたいなのは見てわかったからね、じわじわ効いてくるわ。これでだいぶ戦いやすくなるでしょ」
片足の喪失に、毒物に等しい『銀』の付着……バッドステータスと言ってもいいそれに縛られ、目に見えて動きが悪くなっているスケルトンドラゴン。
こうなれば、あとは……遠くから叩くだけだ。
振り下ろされる、フォルテのハルバード、ビーチェの巨大メイス。
遠距離から掩護する、レガートの魔法とリィラの狙撃。時々、レーネの薬品。
途中からレーネは、僕が出した大剣に持ち替えて、ビーチェと一緒に攻撃に回ってた。
役割分担がそれ以降上手くはまり、最前線でタンクもかねて戦ってたフォルテ以外は全く被弾なしに、数分後……とどめの一撃に、レーネが大剣モードの僕で、ドラゴンの頭蓋骨を首から切り離し、さらにもう一発叩き込んで真っ二つにして、戦闘は終了した。




