第49話 検証と最下層
とりあえず……こんな、何ていうか、タイムリーな感じで変化せんでも。
マジで『杯を交わして云々』な感じの能力が開花しちゃったよ。それも、そういう自由業的な雰囲気とはかけ離れた感じの美少女2人に。
レーネとビーチェの新しいスキル……その名も『絆の杯』。
どうやら、『契約』と『使役術』を合わせて、さらに上位互換にした能力のようで……関係性を指定できる上、受けられる恩寵がより強力で、より『幅広い』ようだ。
何せ……レーネとビーチェのみならず、その子会社的に『契約』を交わしている――いや、以後は『杯』を交わしている、というべきか?――僕らまで、相互に恩恵にあずかっている。
わかりやすい例を言えば……僕が、リィラのスキルである『人化』の恩恵を受ける形で、『擬人化』を習得した。
恩恵のルートが、リィラ→ビーチェ→レーネ→僕って感じで、遠くても生きる。
加えて、強化された分の恩恵の分、ステータスも上がってたので、スキルや能力の検証を兼ねて……もうちょっと地下4階を回ることにした。
そのまま、結局半日を費やして検証を進めた結果……色々分かったことがある。
全部並べようとするとけっこうな手間と量になるので、ざっと説明でも。
まずは、僕。
レベルと能力値については置いておく。
さして変化なかったしね。レベルアップによるもの以外は。
まず、これ以降の全部の仲間に言えることではあるんだけども……特殊能力『杯』。これが、今回僕が新たにスキルだ。
多分、レーネ達にプラスされた特殊能力『杯の絆』の対になる能力だ。
『共鳴』を含め、他にもいくつかの能力が消えている……けど、それが失われた感じがしないことを考えると、テイム関係の能力の一切合切はここに統合されたんだろう。おそらくは……より強化された形で。
しかしながら、他の新しい能力……てっきり僕も人型になれると思った『擬人化』や、一番気になってた『合体』は……何の音沙汰もなし。
能力としてそこにあるのに、使えない。何も起こらない。
……僕がまだ未熟……ってことなのかね? まあいいや。
続いて、フォルテは……『杯』以外はほぼ変化なし。
レーネとビーチェは、さっき言った通り新しいスキル『絆の杯』を手に入れている。効果についてもさっき説明した通りだ。
なお、実はその説明は……ちょっとした実験に基づいた検証結果を含んでいた。
何のことかというと……こんな感じ。
★名 前:レガート・ディミニー
種 族:エルフ
レベル:60
攻撃力:121 防御力:117
敏捷性:189 魔法力:233
能 力:希少能力『精霊魔法適正』
希少能力『悪魔特効』
特殊能力『杯』
なんか、仲間外れ的な空気になってるレガートがアレだったので……こっちから提案して『契約』してみました。契約相手は、付き合いの長さでレーネに。
その結果、『杯』の補正による強化が……すごいことになったな。
軒並み大幅に上がってるよおい。特に、敏捷と魔法がけっこうなもんだ。
しかも、今後の数値上昇にも補正がかかるとなると……むしろこれからが本番だ。
何気に今まで触れてこなかった気がするけど、僕らモンスターも、レーネ達みたいな『ヒト』に分類できる種族も、ある程度のレベルで『成長限界』に達する。
そしてそのレベルは、実は、個人の資質によって異なるそうだ。
僕やフォルテは、普通に10とか30とかのきりのいいレベル――進化可能なレベル――まで進んで進化してたけど、個体によってはそれより前……7とか、27とかで止まることもあるんだ。
……そういや、だいぶ前に、何かのクエストの報酬で『成長限界上昇』とかが出た気がした……アレは、この限界レベルを底上げするものだったのか。
で、そのレベルに達し……かつ、十分な潜在能力がある者のみが次の『位階』に進めるわけだけども……人間や亜人種族も大体同じだそうだ。
種族的に、進化することがそもそもない者もいるそうだけど。
人間は、進化しない。
エルフは、進化する。
吸血鬼は、進化する。
その他、獣人とか、亜人は大体進化するらしい。
つまり、レガート……は、もちろんのこと、レーネやビーチェもこの先があるってことだ。
純粋に楽しみである。果たして彼女たちは、どういう『進化』をするのかね?
まあもっとも……『亜人』が進化できるレベルは、モンスターが進化するより高い場合がほとんどらしいし、種族によっては決まっていない場合もあるらしい。
もちろん、潜在能力的に進化できない人もいるそうだけど……何となく、このメンツは大丈夫だと思える。根拠はないけど。
さて……話を戻そう。
そんなわけで、レガートやレーネ、ビーチェは強くなった。もちろん、スキルだけでなく、能力値も。
で、最後に残ったのは……リィラだ。
彼女もまた、スキルのは変化はなかったものの……
★名 前:リィラ
種 族:武装傀儡
レベル:28
攻撃力:329 防御力:230
敏捷性:222 魔法力: 88
能 力:希少能力『連携強化・中』
固有能力『臨戦・射撃』
派生:『格納庫』『狙撃』『連射』
『矢弾製造』『自動装填』
特殊能力『変形』
特殊能力『人化』
魔法力こそ大きく劣るものの――いや、コレでも一般基準から見れば十分すぎるくらい高いんだけど――残り3つの能力は、レベル上げの効果もあってがっつりと上がっている。
僕やフォルテには及ばないものの、十分に一戦で戦えるレベルだ。
よくよく見れば、僕やフォルテが同じくらいのレベルだった頃と比べて、能力が低い。
もしかしたら、成長が早い種族の弊害とか、かな?
でもまあ、決して不足があるわけじゃない。十分強いと言える。
今後、戦い方をさらに洗練させていけば、もっとすごいことになっていくだろう……しかし彼女、何気にまだ生後1週間たってないんだよね。すごい話だ。
成長しやすい種族+地球仕込みのパワーレベリング+『黙示録』で経験値UP……の結果か。
それにしたってコレは……本人の潜在能力の高さもあるんだろうけど。
……潜在能力、ね……レーネやビーチェも高かったな。
ひょっとしてパペット系の魔物って、潜在能力が高い主人の元に生まれると、強くなりやすいとかそういう因果関係が……いや、よそう。想像しても、確認のしようがない。
☆☆☆
十分にならしも終わったところで……いよいよもって地下五階……最下層だ。
一応もう一回、地下4階のボスであるあの骸骨をきちんと倒してから、出現した地下への入口へ入った……その直後から現れ出す、アンデッドの軍団。
しかも、まだ降り切ってないうちから……足場の狭い階段で襲って来とる。
何コレ、マジで殺しに来てるってこと?
ちょっとびっくりしつつも、僕らは迎撃に移った。階段を下りながら。
勝手が違う分ちょっと戸惑いはあったけど、まあ、どうにかなる範囲だった。
そこそこ大変だったけど、やってることは変わらない。なので、特筆する点はあんましない。
魔物の種類も、地下4階とほぼ同じだったし。
そうして戦っているうちに……わかったことが1つ。
僕らが降りていた階段は、どうやら巨大な円筒状の空間の外周に沿って設置されている『螺旋階段』のようで……そこを、下に進もうとすればするほどに、魔物が出てくるのだ。
しかも、暗闇に強いビーチェに頼んで、階段の手すりから下を覗き込んでもらったところ……不自然に、先が見えない空間が広がっているらしい。
恐らくは……この螺旋階段そのものが、最下層、あるいはその代わりなんだろう。
一番下が、『吸血鬼』であるビーチェでさえ見えないのは、降りきるとそこにボスがいるから。
このダンジョン全体のボス――そのまんま『ダンジョンボス』が、だ。
幸いにして、階段を3分の2ほど降りたところで、魔物はもうでなくなり……その階段の最後は、広い踊り場になっていた。
最後の戦いが目前だから休め、とかいう意図なんだろう、と勝手に解釈する。
ご厚意に甘える形で適度に休み、矢を補充し、全員の準備が整ったところで、進む。
一番下まで行くと……全員が降り切ったところで、階段が途中から崩れ落ちた。
突然のことに驚く僕たちの目の前で、高さにして10m分くらいの階段が崩れて……そのまま細かく砕けて、砂になって消え去った。
そしてさらにその直後、頭上に霧がかかって、その無事な階段部分が見えなくなった。
まるで、濃霧の天井ができたみたいだ……いや、実際天井なんだろうな。
この濃霧が、今までのボス部屋にあった扉の代わりってわけだ。多分、後戻りはできないんだろう……空を飛べても、突破できないものだと思う。
まあ、もともとそんなつもりはなかったわけなので、別に不都合もないんだけど……
そして……気を取り直して、部屋の中央へ向き直ると……そこに、いた。
一目でわかる『ダンジョンボス』が、そこに鎮座していた。
「……ドラ、ゴン……?」
「よく見ろ、骨だけだ」
ファンタジー世界において……あまりにも有名な魔物。翼の生えた、炎を吐く巨大トカゲ。
しかし、本来重厚な鱗や筋肉に覆われているその体は……目の前で、飾り気のない白骨をさらしていた。死んでいるわけではなく、動いているが。
自分の縄張りに侵入した僕らの存在を鋭敏に察知し、ゆっくりとその体を起こす。
その全長は、ゆうに数mはあるであろう。骨だけだというのに、その手足の強靭さはいささかもか弱さ頼りなさを感じさせず……ただの空洞だった眼窩の奥に、ぎゅんっ、と光がともる。
★種族名:スケルトンドラゴン
レベル:45
攻撃力:433 防御力:386
敏捷性:213 魔法力:354
能 力:通常能力『打撃耐性』
希少能力『神聖属性耐性』
希少能力『呪怨魔法適正』
固有能力『龍牙兵精製』
特殊能力『ダンジョンボス』
これまで戦った敵の中で、間違いなく最強といっていいステータス。
アークデーモンすら上回るであろうそれは……まともな神経の持ち主なら、戦うこと自体が自殺行為だと言うかもしれない。
しかし、逃げ場なんてものは、こいつが動き出し、『ボス戦』が始まってる以上どこにもないので、考えるだけ無駄である。
骨しかなく、声帯も当然ながらないはずの『スケルトンドラゴン』。
そいつが、どういう原理か『オォォォオオオォォォ―――ッ!!』と、底冷えするような雄たけびを上げたのを合図に……僕らの決戦は始まった。




