第48話 使役+契約=?
剣だけでなく、盾や鎧、その他にもさまざまな武器バリエーションで武装したスケルトンの集団……『スケルトンナイト』やら『スケルトンアーチャー』やら『(略)ランサー』やら。
さらにそこに、動く死体『ゾンビ』や『グール』、物理攻撃が効かない『ゴースト』や『レイス』……色んな魔物が出るようになったもんだ。
地下4階ともなれば、ダンジョンも本気で攻略者を殺しにかかる、ということだろうか。
今現在、僕らがいるここは……『エリートスケルトンナイト』を倒した『地下3階』の、さらに下。地下3階よりも難易度が高いのは、道理といえば道理である。
……それにしたって、上の階ではボス扱いだった連中が、雑魚敵扱いで次々に出てくるとは……ギリギリ攻略できてた程度の連中じゃ、ここで死んでもおかしくないかも。
まあ、その分実入りがいいんだけどね。
剣とか装備品各種、心なしか、上の階層よりよさそうな品質のが次々手に入ってるし。
……こないだも思ったけど、ここ当初、ビーチェ達の臨時稼ぎ用の場所だったんだよな……今日1日、いや半日でどれだけ稼いだのやら……当分何もしなくても食っていけそうな気がする。
まあ、それに甘んじることを良しとするような連中でもないだろうけど。
それに、だ。
どの道今回は……目的が違う。
稼ぐために、売っぱらう鉄くずを得るために来ているわけじゃない。
強くなる……訓練やレベル上げのために来ている……わけでもない。
その意味もあるけど、本命は違う。
今日僕らは……このダンジョン『栄都の残骸』を、『攻略』するつもりだ。
今は夜。草木も眠る丑三つ時……は、とっくに過ぎただろうか。
日が完全に落ち、真っ暗になり、孤児院の子供達が寝静まった頃、僕らは動き出し……ダンジョンに入った。
クエストの達成要件の1つである『夜に攻略』を達成するために。
ミューズの話では、『攻略』を完全に行った際に入った時刻が夜なら、それまで何度、昼のうちに探索してても大丈夫らしいので。
ただ念のため、ボスは全種類、もう一度倒しつつ進めていっている。
まあ、『エリートスケルトンナイト』以外は楽勝だったけども。
そして、このたび進化したリィラが大活躍している。
『武装傀儡』に進化し、さらにいくつもの新スキルによって、なんかこう……本格的に近代の軍隊的な戦闘・攻撃が可能になった彼女は、前にもましって圧倒的な火力で持って、アンデッドたちを薙ぎ倒している。
サブマシンガンのごときクロスボウの連射(しかも2連装)、砲身の長いライフルタイプによる狙撃、面制圧を目的にした散弾タイプによる掃射、そしてそれらを使いつつ、矢の種類を変えることによる様々な局面への対応……超オールラウンダーだ。
その矢についても、自分で作れるようになった上、普通の金属の矢、狙撃用の高威力の矢、銀を原料にした対アンデッドの矢、果ては毒矢やら、刺さると砕けたり、返しがついて抜けなくなったりする仕掛けつきの悪辣な矢など……バリエーションも豊富。
本当に、強くなっちゃって……ほんの数日で。
地球のゲーム知識や、それに伴うレべリングだ何だ、って概念を持ってる僕がいて、経験値ブースト効果がある『黙示録』を持ってるとはいえ……ここまで成長が早いってのは凶悪だ。
で、聞いてみたら……どうも、パペット系ってもともと成長が早い種族らしい。
ゲームでもあったっけな、適当に戦っててもポンポンレベルが上がる早熟型の種族と、1レベル上げるにもすごく大量に経験値が必要な、大器晩成種族。リィラは前者か。
もっとも、通常はそこまで成長していける種族でもないらしいけど。
パペット系は……階位が低いうちは、ほんとに弱い。
それは、リィラの『誕生』直後、リビングドールだった頃のステータスを思い返せば明らかだ。下手すれば、野生の魔物か……そのへんの一般人にどつかれるだけでも死にかねない。
成長が早いのは、そんな感じで簡単に死ぬから、その辺の補てんも兼ねてんのかもね。
で、見事にその時期を乗り越えた上に、経験として僕ら提供のクロスボウだのなんだのをさんざっぱら使ってきたリィラは……きわめて凶悪な能力を持つに至ったと。
まあ、味方としては頼もしいし、いいんだけどもね。
そんなこんなで、レーネとビーチェとレガートが斬り、フォルテが叩き割り、僕とリィラが打ち抜き……って感じで進んできて、すこぶる順調。
今こうして、地下4階のボスも倒してしまえた。
……倒した、って言っていいのかどうか、正直微妙だけど。
僕らの目の前で崩れ落ちる、この階層のボス――ローブをまとった、骸骨の魔法使い。
ボス部屋に入ったら目に飛び込んできたその姿に、すわ、かの有名な『リッチ』か!? と思わず身構えたんだけども……鑑定してみた結果は、
★種 族:ワイトウィザード
レベル:31
攻撃力:39 防御力: 33
敏捷性:49 魔法力:285
能 力:通常能力『怨念』
希少能力『中級魔法適正』
希少能力『使役・アンデッド』
たぶんだけど……その下位互換的な存在だろう。アンデッドの魔法使いだ。
これが進化していくと、ひょっとしてリッチとかになるのかね?
僕らが部屋に入ると、そいつはゆっくりと、その両手を左右に大きく広げ……まるで、戦の前の口上か、はたまた神にささげる祝詞か、カタカタカタ、と頭蓋骨をやかましく鳴らし――
――問答無用でそこに叩き込まれた、リィラの先制攻撃……ライフル型クロスボウによる、対アンデッド用『銀の矢』による狙撃が眉間に直撃した。
「「「…………」」」
目の前で、ひくひくと動く――というよりは、痙攣している骸骨。
眉間に突き刺さった銀の矢。その周囲から、ぷすぷすと上がる煙。
……いたたまれないので、フォルテが殴ってとどめを刺していた。
抵抗はなかった。そんな余力もなかったらしい……扱いが完全に介錯である。
いやまあ、手としては正しいんだけどね? 遠距離から素早く、ヘッドショット一撃で決めた手腕も素晴らしいんだけどね? 戦術的には、効率的でいいと思うんだけどね?
……でも、何かこう……コレジャナイ感が……
……まあいいや、こういうこともある。
☆☆☆
むしろこの日、メインの出来事は……その後に起こった。
豆知識。ボスを倒した後のボス部屋は、ボスを倒してから最大で3時間、新しくモンスターその他が湧いてくる事のない『安全地帯』となる。
それを利用して、僕らはいったん休憩を取っていた。
必要ないとは思うけど、『箱庭』で快適かつ安全な空間を作り、その中で軽食を取ったり、横になって休んだりしていた。
僕はと言えば、この後の地下5階攻略に向けて、消費した分の矢を補充していた。
この階層で戦った膨大な数の敵の素材を、インベントリの中で加工するだけの単純作業だ。もともとそういうのが好きな部類に入る僕なので、苦痛でもない。
当然ながら、この階層よりも強力な敵が跋扈してるんだろうし……念には念をだ、大量に作っとこう。弾幕をためらいも無くぶっ放せるように。
と、考えていた時だった。
背後から、ふいに声がかかったのは。
「シャープ、ちょっといいかな?」
「うん? レーネ……に、ビーチェも、どしたの?」
「ちょっとね……提案があるんだけど。シャープと、あとフォルテの意見も聞きたいの」
「それと、リィラと……あとは、一応レガートも。立場上、直接は関係ないんだけど」
「……?」
首をかしげる僕。首無いけど。
名前を呼ばれた僕、フォルテ、リィラ、そしてなぜか『一応』で呼ばれたレガートの視線が、2人に集まる。約一名、『一応』扱いされたからか、ちょっと微妙な感じが表情に出てる。
しかし、集まって詳しい話を聞いてみると……なるほどそりゃ『一応』だ、と納得できるものだった。別に、レガートだけ仲間外れにしてるわけでも、何でもなかったし。
その内容ってのが……
「レーネとビーチェが、『契約』する?」
「そ……ちょっと思うところがあってね」
そういう提案であり、相談だった。
ビーチェの持っているスキル『契約』は、レーネの『使役術』とは似て非なる能力だ。
自分と他者の間に縁を作り、相互に様々な恩恵を得る。それは、大きいこともあれば、小さいこともある。能力値であったり、スキルであったり、進化の選択肢でさえある。
違うのは、『使役術』が、使役者と使役獣との間に上下関係を構築して従わせる――例外あり。僕とレーネとか――のに対し、『契約』はその形式を選ぶことができる。
任侠映画とか見てると出てくる『杯事』をご存じだろうか。ほら、よく『杯を交わす』とか『杯をもらう』とか言うじゃん?
知らない人は検索でも何でもしてほしいわけだけども、その杯に、『五分五分』や『七分三分』といった区分がある。これらは相互の関係を示しており、『五分五分』なら対等の兄弟分、『七分三分』なら兄貴分と弟分、あるいは親分と子分……って感じだったはず。
さて、そんな風に、絆を結ぶ儀礼にも、その絆の形の種類で区分がある、っていう説明をしたわけだけど……要はビーチェの『契約』は、同じようにそれを選べるのだ。
対等な関係でもいいし、主従の関係でもいい。
ちなみにビーチェは、バートたちとは『主従』で結んでいるらしい。また、無意識に結んでいたらしいリィラとは、『対等』だそうだ。あるのかそんなこと。
そして今回、レーネとは『対等』で結ぶつもりだそうだ。それによって、レーネとビーチェ、相互に恩恵が発生する。
ただ一点、今回ちょっと気になったのは……その契約によって、当事者であるレーネとビーチェ以外にも及ぶかもしれない『恩恵』についてだ。
具体的には、レーネと契約している僕やフォルテ、ビーチェと契約しているリィラたち。
まあ、悪いことにはならないと思うけど、一応断っておいて……もし万が一反対されるようなら、色々考えなおすつもりで、僕らにこうして話してくれたとのこと。
それを聞いて、僕ら無機物トリオとしては、デメリットがないのなら別に反対する理由もないので、『いーんじゃないの?』と返しておいた。
残るレガートからも、特に反対意見は出なかった――ちょっと寂しそうにしてたけど――ので、善は急げという感じで、始めるレーネとビーチェ。
まあ、すぐ済むんだけどね。レーネが僕らにやった時と同じで、スキル使うだけだから。
……そして、次の瞬間……それは、起きた。
『ベアトリーチェ・ドラミューザより、レーネ・セライアに対し、特殊能力『契約』が行使されました』
『レーネ・セライアが承諾しました』
『特殊な条件を満たしました』
『スキル保持者・レーネおよびスキル保持者・ビーチェの関係性が一定の要件――『生き別れ』『志を同じくする者』『運命の子供たち』――を満たしているため、スキルが変化します』
『レーネは特殊能力『絆の杯』を手に入れた!』
『ビーチェは特殊能力『絆の杯』を手に入れた!』
『両者のスキルが変化したため、両者および契約者のスキルの一部が変化します』
……Now Lording……
『スキルの再分配・統合が完了しました』
『関係各位が恩寵を獲得しました』
『大幅な変化が見込まれます。ステータスをご確認ください』
『条件を満たしました。特別な能力の獲得に成功しました』
『シャープは特殊能力『擬人化』を手に入れた!』
『シャープは特殊能力『合体』を手に入れた!』
……え?
ちょ、何? 今の怒涛のようなアナウンスメッセージ?
何!? 何が起きた!? ログ見せろ!
ステータス見ろって!? どれどれ……
★名 前:シャープ
種 族:変幻罠魔
レベル:44
攻撃力:431 防御力:540
敏捷性:417 魔法力:389
能 力:希少能力『悪魔特効』
固有能力『財宝創造』
固有能力『変身』
特殊能力『杯』NEW!
特殊能力『擬人化』NEW!
特殊能力『換装』
特殊能力『変形』
特殊能力『合体』NEW!
特殊能力『悪魔のびっくり箱』
派生:『無限宝箱』『絡繰細工』
『奇術道具』『箱庭』
……………………(しばらくお待ちください)




