第5話 ダンジョン道場
『もっと素早く動け! そんなへっぴり腰では、この先戦い抜いてはいけんぞ!』
『はい、先生!』
ただいま、修行中。
師匠、おじいちゃん。弟子、僕。
やっているのは、戦闘……というか、狩猟の訓練。
おじいちゃんと戦っているわけではない。おじいちゃんの監督・指導のもとで、このダンジョン内では弱く、ポピュラーな種族であるらしい、トカゲみたいなのを相手にしている。
力はそれなりに強いが、僕の外装を傷つけられるほどじゃない。
しかし素早さはそこそこで、敏捷が低めの僕では、うまく計算して立ち回らないととらえることができない。
戦闘技能を磨くには、ある意味うってつけの相手なのかもしれない。
おじいちゃんの話の中で、ミミックという種族は、機動性能が低い代わりに、攻撃力と防御力に優れる種族だと聞いた。
その高い攻撃力で、トラップ気味に一撃かましてさくっと殺すのがパターンなのだと。
この世界において、一般的な人間のステータスは、各数値共に5から10がせいぜい。訓練を積んだ兵士でも、20とか30、相当な熟練でも40~50くらいが関の山だそうだ。
それを考えると、僕の攻撃力の45っていうのは、そこそこ高いものなんだろうな、と思える。
おじいちゃん曰く、不意打ちの一撃をクリーンヒットさせれば、訓練を積んだベテラン兵士でも、ほぼ間違いなく一撃で殺せるそうだし。鎧とかもかみ砕ける咬力あるらしいし。
ただ、その力を十分に生かすには、攻撃の、戦いの技術そのものを鍛える必要がある。
特に僕のように……トラップによる奇襲を必ずしも前提としない場合には。
これも講義の中で話に上がったんだけど……本来ミミックは生まれた場所から大きくは動かず、じっと獲物を待ってトラップとしての存在意義を全うする……そんな魔物だ。
そういう人生?を、お前は歩むつもりはないというのか? そう、聞かれた。
僕はそれに、ない、と答えた。
トラップとか関係ない、僕は……好きなように生きてみたいと。
人間ですらないミミックだけど……こんな薄暗い空間で、トラップとして一生を過ごし、一生を終える……そんな生き方はしたくない。
だったら、いくら客観的にアレな感じに見えようと、自由に動いて自由に生きてみたい。
そう答えた僕に、それならやるべきことはいくらでもある……と、おじいちゃんは言った。
で、そのうちの1つである『戦闘訓練』をすることになって……今にいたる。
丁度良く、この部屋に迷い込んできたトカゲを練習台に、おじいちゃんのアドバイスを受けながら、こうして戦いの訓練をやっている……ってわけだ。
ミミックの体をうまく使った戦い方。素早い動き方、バランスのとり方、獲物との駆け引き……それらを、実戦の中でこうして学んでいる。
正直きついけど、これもこの先の人生をより豊かなものにするためだと思えば、頑張れる。
頑張って、戦える。頑張って、続けられる。
そんな僕の胸中を知ってか知らずか、突っ込んでくるトカゲ。
僕はそれを、口を大きく開け、ずらりと並んだ牙を見せつけるようにして迎え撃つ。
するとトカゲは、正面を避けて側面に回りこみ……箱のボディに爪を立て、そしてさらにかみついてきた。
しかし、そのくらいで僕の体は傷つかない。逆にその無駄な攻撃は、トカゲの致命的な隙となった。
箱の底面の角の一つを使って、不安定な立ち方になる僕。
人間で言えば、つま先立ち……か?
その直後、ぐるん、と高速で斜めに回転して、かみついているトカゲを石の床にたたきつけ、体と床で挟むようにして圧迫する。
それにトカゲの息が詰まって動きが止まった、その瞬間、僕は真上に軽くはねる。
本当に軽く、ほんのちょっとだけだ。すぐに僕の体は、重力に従って落下する。
そのわずかな間に、僕は体をひねって口を下に向けている。
トカゲが動き出そうとした時には……もう遅い。
落下してきた僕は、激突と同時にトカゲにかみついて……鱗を、皮を食い破り、肉を噛みちぎり、骨を噛み砕き……胴体の部分をごっそり食いちぎってしまう。
一撃で自分の体積の半分近くを失ったトカゲは、ひとたまりもなく……びくびくんっ、と1、2度大きく体を震わせたかと思うと……動かなくなった。
……よし!
ミミック人生……初バトルにして、初勝利!
『経験値が一定に達しました。レベルが上がりました』
と同時に、そんなアナウンスが。お、マジで? やった、レベルアップ来たコレ!!
『うむ、見事じゃ……おっと、レベルも上がったようじゃな?』
と、おじいちゃん。さすがだ、すぐに気づいた。
気になるので、自分でも確認。出てこい、ステータス!
★名 前:???
種 族:ミミック
レベル:3
攻撃力:51 防御力:56
敏捷性:10 魔法力:13
能 力:固有能力『蓄財』
ほうほう……全体的に底上げされた感じだな。
つか、今一気に2もレベル上がってたのか。
ゲームとかだと、格上相手に買ったりすると大量に経験値入るけど……このトカゲ、ひょっとしてレベルとかそのへん、僕より格上だったのかな?
……いや、何も不思議なことなんてないか。
僕、生まれたてのレベル1だったもんな。普通に生活してるモンスターに負けてても、何もおかしくないよな。
まあいいや……しかし、こうして結果がすぐに目に見えるのって、中々いいもんだな。
よーし、この調子でどんどん強くなってやるぞっ!