第44話 お姉ちゃん、参戦
さて、アトラクション式パワーレベリングによって、リィラがレベル上がって進化までしたわけだけども……進化後の『絡繰傀儡』ってのが、なんかこう……
「次! 2時、3時……少し遅れて10時方向からも来るです!」
「「誰だお前?」」
「はい?」
あ、いや何でもないです。迎撃します。
トロッコの上から、何かこう……すごくなれた感じの軍人みたく、そう報告してくるリィラ。
しかし、見た目は幼女である。というか人形である。
進化による影響なのか、汚れとか余計なのはとれて、きれいな感じにはなったんだけども……見た目は、あくまで人形なのだ。
可愛さとしては、マネキン以上、フィギュア以下、って感じだろうか?
しかも、そんな小さい子を模した人形が……僕の目の前で、クロスボウで、近寄ってくる魔物たちをハチの巣にしてるんだから……違和感がすごい。
昨日の昼までこのコ、舌ったらずでろくにおしゃべりもできない感じだったのに……歴戦の、とまでは言わなくても、普通に戦えるようになってるんですけど。
おまけに……気のせいか、なんだか奇妙な感じの口調になってない?
敬語かと思ったら、微妙に違う気がする。
そして、この状況に戸惑っているのは……今とっさに本人確認をしてしまった僕とフォルテだけではない。
「リィラ……少し見ない間に、あんなに立派になって」
「いや、ビーチェ、現実逃避しないで。見ない間っつっても、あいつらが連れ出した半日でしょ。てか、正確に言えばその後目の前であんな感じに変わったし」
「……いや、だってほら……わかってるけどさ、いきなりあんな感じになられたら……戸惑うじゃん。手のりサイズの人形がガッツリ戦闘要員になっちゃってるんだもん」
と、同じくトロッコ(僕ね)の上にいる、レーネとビーチェ。
魔物化までは受け入れたとはいえ、さすがにその翌日に進化するってのは……しかもそれによって、ああまで色々と変わるってのは、頭の処理が十分には追いつかなかったらしい。
この2人が僕らに同行してるのは……今日も今日とて、レベリングにいそしもうかと思っていた僕らに、レーネとビーチェが同行を申し出てきたからである。
何でも、昨日僕が話したレベル上げの方法を聞いて、自分たちもやってみたい、ということになったらしい。
トロッコに乗って、進みながらクロスボウで魔物を撃つ、というアトラクションを。
なんか聞いてみると、レベル上げしたいっていう向上心が半分で、もう半分は……何か、やり方が楽しそうだっていう理由みたいだったけど。まあ、別にその辺はいい。
断る理由はないので、今日は昨日の3体に加え、レーネ、ビーチェ、レガートの3人を加えたメンバーで、まだ明るいうちからこうして狩りに来ている。
さっきのやり取りは、その一コマだ。
レーネとビーチェは、トロッコ正面および両側面に設置してあるクロスボウ(自動装填)で景気よくゾンビやスケルトンを倒している。
それに対して……リィラは、僕が設置したそれらでなく、自前のを使っている。
先に言った通り、リィラの種族『絡繰傀儡』は、体の一部を変形させて武器にすることができ、そしてその種類は本人の趣味嗜好や戦い方で変わる。
そして、リィラの場合は……レベリングの方法が影響したんだろうな、うん。
―――ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュ……
彼女の武器……それは、左腕が変形して出現するボウガンだった。
肘から先が、色々伸びたり競り出たり曲がったり組み換わったりしつつ……最終的に、元の長さの1.5倍程度の長さになるボウガンに変わる。先端には銃剣みたいなのがついてて、接近戦にも対応できそうだ。ボウガンの弓部分も折りたためるようだし、邪魔にはならないだろう。
リィラはそれを、右手を添えて安定させつつ敵に向け、どっかんどっかんぶっ放している。
見た目からしてただのクロスボウには見えないそれは、威力も結構高いらしく……発射された矢が当たった敵は、一撃でその周辺の肉や骨も爆散していた。
しかも……おそらくは、新しく手に入れたスキル『自動装填』のおかげだろう。僕のクロスボウと同じように、装填動作なしでガンガン撃っている。
威力がやたら高いのは、『射撃適正』のおかげだろうか。
昨日はそこそこ僕とフォルテも出番あったけど、今日は閑古鳥だ。
レーネ・ビーチェ姉妹の作る弾幕のおかげで、アンデッドはろくに近づいてくることすらできていない。
というか、遠距離にいるうちに、3割から半分くらいはリィラが狙撃して倒してるし……ああ、そういえば『狙撃』とかいうスキルも持ってたっけな。
ほとんど外してないし、心なしか威力も上がってる。補正入ってるっぽいな。
そんな感じで、本日の狩りは女の子チームの一方的な蹂躙になっていた。
いやー、2人も、特にビーチェも一緒にくるって言いだした時は、実力的にちょっと心配だったけど……大丈夫そうだね普通に。
☆☆☆
昼時、一旦ダンジョンから出て、持ってきた弁当――ナーディアたちが作ってくれてた。感謝。――を食べてから、再びダンジョンの探索に戻る。
……食べたのは姉妹とレガートだけだけど。他は無機物なので。
……いつか、『味覚』とかいうスキルを得る機会でも来ないもんだろうか。今度、ミューズに聞いてみようかな。
で、午後は……トロッコレベリングだけでなく、レーネ達に接近戦もやってみてもらった。
楽な方法ばかりじゃなく、実際に戦うことも、訓練の意味を考えれば必要だろうし。
その結果だけど……旅の間にその腕前を見ていたレーネはもちろんながら、ビーチェも結構強かった。剣を武器に次々にゾンビやスケルトンを切って捨てている。
……いや違う、剣じゃない。アレ……鉈か?
剣よりも重くて分厚いそれは、剣よりも威力が高い。けど、扱うには結構な力がいる。
……まあ、彼女は吸血鬼だから、そのくらいは可能なんだろうな。
動きも悪くないように見える。バートたちと訓練だけはしてた、って言ってたけど……きっちり実践に生かせてるじゃないか。
普通はそうそう上手くいかないもんらしいけど……才能あるのかな、意外と。
で……リィラはどうかというと、こっちもそこそこ戦えていた。
しかし、腕前はそれほどでもなく……右手の銃剣と、左手に持った剣で戦っても、さっきほどの戦果は出せていない。やっぱり、遠距離攻撃の方が得意みたいだ。
が、戦えていないわけじゃない。コレは……訓練すれば伸びるかも。
そんな感じで十分戦えている彼女たちの世話は、レガートに任せて……僕とフォルテも、1日ぶりに体を動かすことにした。無機物だけど。
「おぉ――らぁぁああァ!!」
――バキャァア!!
身の丈よりも大きな、重量級のハルバードを振り回し、周囲のゾンビやスケルトンを文字通り粉砕していくフォルテ。
少し離れたところにいるやつには、口から魔力弾や火炎を吐き出して応戦していた。
それに対して僕は……前々からやってみたかったことをやっている。
通常形態とも呼ぶべき、宝箱モードをベースに……丸盾の車輪で素早く動けるようにする。
ただし、それを今回は、片面4つ、合計8つ準備。
そこにさらに丸盾を重ねて厚みのあるタイヤにし……さらにそれを、魔物の革素材を加工して作ったバンドで覆う……これで、『キャタピラ』が完成。
そしてさらに、箱のてっぺんに、改良の上で大型化した、巨大弓とも呼ぶべきそれをつけ、さらに側面に従来のクロスボウと、おまけに石礫のランチャーを設置すれば……。
(異世界版『戦車』……完・成!)
特に、キャタピラとバリスタを作るのに苦労した。『絡繰細工』でも難しくて。
けど、その甲斐あって結構なもんが出来上がったと思う。
遠くにいるやつはクロスボウとバリスタで狙い撃つ。
近づいてくれば石礫のランチャーで乱れ撃つ。
位置や角度が悪ければキャタピラで動いて調整。見た目と違って結構機動力ある。
あんまり長距離の狙撃は、ちと練習が必要そうだけどもね。
このモードの完成で一気にこちらの火力が上がった。
ネックは、めっちゃ弾を消費する……って点だけだけど、まあ、前もって大量に用意しておけば問題ないだろう。
昨日今日と、スケルトンたちが装備している剣その他、金属の装備は全部回収している。剣1本でクロスボウの矢は十数本は作れる。質はぼちぼちだけど、材料に困ることはない。
それに……気のせいかもしれないけど、何か、材料にした剣の鉄の量よりも多い量の矢を作れてる気がするんだよな……? しかも、その比率がだんだん増えてきてるような……。
スキルの『財宝創造』を使って作ってるんだけど……ひょっとしてコレ、スキルレベルが成長すると、質量とか体積の保存則をある程度無視するのか?
麒麟おじいちゃんが言っていた。魔力などを使って、ゼロから何かの物質を生み出す魔法やスキルを生み出したり、全く別の物質に作り替えたりする方法もあると。
……ひょっとしたら、僕はその片鱗を見ているのかもしれない。
もしかして、魔力とかだけを対価に、完全にゼロから……質の悪い金属とかなら、生み出せるようになったりしないだろうか? 一応僕、これでも宝箱モンスターのはしくれだし……
当然、過度な期待はいけないだろうけど、それでもなあ……
とりあえず、気合入れてレベルを上げていこう、と思えるようになった。




