第43話 人形、進化
さて、今日も今日とてダンジョン挑戦……と行きたいところだったんだけども、
「いや、さすがに連日は無理だ。準備も整えていないし……そもそも、睡眠や生活習慣というものは、おろそかにしていいものでもないからな」
レガート先生からのそんなご指摘。うん、もっともだね。
ダンジョンの探索は、自覚している以上に神経を使うため、心身ともに負担が大きい。
それこそ専門の探索者が、きっちり準備をした上で挑むわけでもない限りは、昨日ダンジョン行って今日も行って……なんてやり方は無謀だそうだ。
さらに、ビーチェ達からの報告で、当分はダンジョンに用がなくなった、っていう話も聞いた。
朝早く起きて闇市場に売りに行った剣が結構な値段で売れたらしく、かなり運営に余裕ができて来たんだそうだ。よかったよかった。
よかったけど、彼女たちについてダンジョンに行くことはできなくなったね。
まあ、そうなったらそうなったで、自分らで行くだけだけど。
僕とフォルテは、基本的に寝なくても平気だし、疲労もほとんど蓄積しない体だ。
なので……連チャン攻略も十分いける。というか、早く行きたい。
しかし、戦闘の疲れ+夜更かしで眠いレガートとレーネは、今日はまずは休むそうだ。
なら、僕とフォルテで引き続き攻略を……まてよ?
僕、昨夜『栄都の残骸』に入って、こうして出てきて教会まで帰ってきちゃったんだけど……アレ、これって『攻略』クエスト失敗になるのかな? 途中で中断してもOKなのか?
……かもん、ミューズ!
『はいはいお答えしましょう。問題ないですよ、何度でも出たり入ったりしていただいて、最終的にどうなったかで判断されますから。ちなみに、『夜に攻略』っていう条件も、正確には地上エリア攻略から地下に潜るまでが夜なら、地下攻略中に夜が明けてもクリアです』
そっか、なら大丈夫だ。
それじゃああらためまして、心置きなく僕はフォルテとダンジョンに……ああいや、もう1人同行させるか。せっかくだし。
丁度昼間は、レーネもビーチェも仕事があって暇そうだし。
「ねえレーネ? ちょっとリィラ借りてっていいー?」
そして数時間後。
「ただいまー! レーネ、ビーチェ、早速だけどリィラがレベルカンストして進化するから進化先決めてー?」
『強くなったー!』
「「「ちょっと待てぇ――――!?」」」
帰ってきた僕らが、唐突に告げたその内容に……教会の中で遊んだり本を読んだりしていた一同が、図ったかのようなタイミングでツッコミを返してきた。
ああ、うん。安心しなさい、ちゃんと説明するから。
☆☆☆
さて、ここで問題だ。
僕はここ『栄都の残骸』に、攻略の他……今、フォルテが肩にのっけている、リビングドールの『リィラ』のレベル上げのために来ている。
いや、だって……心臓に悪いんだ。
レベル4になり、普通の兵士くらいの耐久力は手に入れたとはいえ……リィラの能力値はそれでも、レーネやビーチェに比して、まさしく桁が違う。そのまんまの意味で。
正直、いつ2人が力加減を誤ってベキッとやってしまわないか、心配。
ぶっちゃけ、早急にレベルを上げて……できるなら進化もして、強くなってほしかったのだ。
あとはまあ……レベルの低いモンスターを見ると育てたくなる(ただし味方限定)、元ゲーマーの精神が鎌首をもたげた、っていうのもあるかな。
しかしながら……リィラは、ごく最近目覚めて魔物になったばかりであり、戦闘経験なんてものは全くない。当然、魔物相手に戦って勝って経験値にする、なんてことも無理。
かといって、連れ歩いて僕らが戦うだけじゃ……リィラのレベルは上がるだろうけど、強くはならない。
いや、耐久力上げるだけならそれでいいのかもだけど……なんか納得できない。
せめて、ガワだけ……あるいは、戦場の空気だけでも味わわせておきたい。
ならばどうするか。
もちろん、そのへんのことを抜かりなく考えていた僕の策によって、その問題は簡単に解決され、無事にカンストレベル&進化を迎えたのだ。
その策とは、名付けて……『遊園地のアトラクション作戦』。
やることは至極単純。
まず、ダンジョンに入るちょっと前に……僕が『変形』を使う。
変形するのは……トロッコだ。それも、淵の部分にいくつもクロスボウが設置された……オープンカー戦車とでも言うべきトロッコだ。
そしてそれらのクロスボウは……僕の意思ではなく、内部で操作できるようになっている。
引き金を引くと、矢が飛ぶわけだ……さて、もうそろそろ、僕の意図が分かっただろう。
そう、僕は……操縦席に乗せたリィラに、引き金を引いて弾を撃ちださせ、魔物を討伐させるという……戦車兵みたいなことをさせていたのだ。
これなら、一応安全な範囲でだけど、最低限戦いの空気に触れられるし、魔物を討ち取るっていう経験もさせられる。引き金を引くだけとはいえ、自分で手を下す分、経験値も多い。
もし、仕留めそこなったゾンビが寄ってきても、僕とフォルテで対応できる。
僕の管理下にある兵器ももちろん搭載しているのだ。一定以上に近づいてきたら、側面に備え付けの石礫ランチャーが火を噴いて、ゾンビだろうがスケルトンだろうが粉砕する。
荷台にはフォルテも乗ってるので、神聖魔法の魔力弾や、必要なら接近戦もやってくれる。
そんなわけで、最初はおっかなびっくりだったけど……見事リィラは、遊園地でよくある、乗り物に乗りながら光線銃とかで敵を倒す類のアトラクションみたいに、ノリノリでアンデッドを倒していっていた。
そして、半日も立たないうちに、レベルカンストととなったのである。
そんなことを話したら、聞いていた皆の反応は……驚いたり、呆れたり、感心したり、興味深そうだったり……様々だった。
「何それ……そんなんアリなの?」
「そんな簡単にレベルとか上がっちゃうんだ……」
「いや、同じことを人為的にやろうとしても難しいと思うがな……」
と、呆れるレーネとビーチェに、フォルテが補足みたいな形で言う。
まあ確かに……普通のトロッコにクロスボウつけて子供のレベル上げに使おうとしても、難しいだろうね……同じに見えて、条件が全く違うから。
「? どうして? やってることは同じじゃないの?」
「色々違うが、大きく違うのは……手間と、威力と、安全性……それに効率だ」
1つ目、手間。
クロスボウは、一回撃つと次を撃つのに、再度矢を装填しなきゃいけない。しかし、これが結構手間だ。張力……弦の部分の引っ張る力が強いがために。
少なくとも、子供の腕力で……できないこともないけど、数秒は確実にかかる。
2つ目、威力。
クロスボウは、普通の弓矢よりは威力があるけど、それでも魔物相手に、急所にも当てずに一撃で倒せるような威力まではない。一部の弱い魔物とかならともかく。
3つ目、安全性……と、効率かな。この2つワンセット。
弱い者が、威力だけ強い武器を使ってレベリングしようとしても、うまくいかないものだ。クロスボウだって、接近されたら終わりだし。
護衛を置いて対処すれば、まあ何とかなるけど……この世界って、レベルの高い者と低い者、強い者と弱い者が共闘すると、経験値が強い者の方により多く流れちゃうんだよね。
そしてそれは、強さに開きが大きくあればあるほど、顕著になる。
例えば、大半を強いものが倒して、合間合間に、あるいは最後のとどめだけを弱い奴がやったりしても……入ってくる経験値はたかが知れている。
だから、パワーレベリングがしづらいのだ。護衛をつけて、子供を安全にレベル上げさせようとしても……最初は、必要な経験値自体が小さいからポンポンレベルが上がっても、すぐに上がらなくなる。レベルアップに必要な経験値を、レベリングで賄えなくなるのだ。
それに、個人の戦闘技能とか能力値も伸びづらいし。
そんなわけで、僕の真似をしようとしても無理なのだ……え? じゃあ僕は何でそれができるのかって?
そりゃまあ……僕が『変形』で作るクロスボウは、アイテムボックスの中に残弾があれば、即設置できるから基本弾切れないし、マシンガンばりに連射もできるし……
威力も僕の攻撃力の補正かかってるから、普通のクロスボウより高いし……
僕が仕組みだけ作って、手を下すのはほぼ10割リィラだから、経験値だって彼女に大半行くし。何せ、引き金を引く、っていう作業が全てだから……設置以外に僕は関わらない。
それでも、完全にリィラにだけはいかず、僕にも経験値入るんだけどね。補正分かな?
もちろん、危なくなった時とかにフォルテや僕が対処すれば、その分ほぼ経験値がこっちに来ちゃうけど……まあ、それは仕方ないだろう。
そう説明してレーネ達も理解したところで……さあ皆さん、お楽しみの時間です。
小さめのイスを用意して、そこにちょこんとリィラを乗せる。
今現在、リィラのステータスはこんな感じだ。
★名 前:リィラ
種 族:妖魔人形
レベル:10(成長限界)
攻撃力:18 防御力:28
敏捷性: 9 魔法力:19
能 力:???(未覚醒)
備 考:進化可能(保留中)
候補① 殺人人形
候補② 怨念人形
候補③ 絡繰傀儡
いつの間にか『鑑定』のレベルが上がってたらしい。進化先の候補が見れるようになってた。
ただし、どんな魔物かまでは見れなかったので、フォルテにお願いして教えてもらった。
殺人人形と怨念人形は……どちらも、ホラー映画的な呪いの人形、みたいな感じらしい。
違いとしては、殺人人形の方は刃物とかを使った接近戦メインで、怨念人形の方は魔法とかメインだ、ってこと。
しかし、どっちにしたって殺人だ怨念だ、物騒である。
そんな感じなので……レーネやビーチェをはじめ、周りにいて話し合いに参加してた皆が、リィラの進化先を……3つ目、『絡繰傀儡』に満場一致で決定するのは、ある意味必然だったのかもしれない。
これがまた面白い種族で、どっちかっていうと殺人人形に近い。様々な武器を使って戦うことができ、魔法は……使えなくはないが、得意ではない。
殺人人形と違うのは、自分の体を武器に変形させられるところだ。
しかも、個体ごとにどこをどんな武器にできるか違ってくるそうで……どうも、得意な戦い方や、趣味嗜好で変わる、とされているらしい。ちょっと楽しみだ。
そんなわけで、特にリィラ自身も異論もなく……決定した数秒後、進化が始まった。
椅子の上で、体を青白く発行させ、輪郭しか見えないような状態になって進化していく。
徐々に体の形や、大きさが変わっていき……そして、十数秒後。
そこには……片手で持てるくらいの大きさから、小学校低学年くらいにまで体を大きくしたリィラが、椅子にちょうどよく腰掛けるような感じで存在していた。
「えっと……リィラ、よね? 無事に進化できたの?」
「あっ、はい、そうなのです」
と、ビーチェの問いに……さっきまであった舌っ足らずさがかなり薄まった感じで返事を返してきた。
しかも……なんか、敬語だ。一同、びっくり。
そして、気になるステータスは……
★名 前:リィラ
種 族:絡繰傀儡
レベル:1
攻撃力:36 防御力:46
敏捷性:32 魔法力:28
能 力:希少能力『射撃適正』
希少能力『狙撃』
特殊能力『格納庫』
特殊能力『自動装填』
特殊能力『変形』
あれ、何か、思ってたのと違う……え、何このスキル構成?
なんか……避けた2つより、下手したら凶悪じゃない? コレ……戦闘で使ったら、何が起こるの?




